80年代英国美形男優ブームを経て次々と個性的な実力派が英国から押し寄せた
日本で発生した英国男優ブームは第2期を迎える
1980年代になると若い美形男優と個性的な演技派たちの登場が話題を呼び、日本でもイギリス映画が新たな注目を浴びるようになった。最初の発火点となったのが20世紀初頭のパブリック・スクールを描いた舞台劇の映画化「アナザー・カントリー」で、ゲイの反逆児を演じたルパート・エヴァレットのカリスマ的な存在感が注目された。
相手役は後にオスカー男優となるコリン・ファースで共産主義に傾倒するアウトサイダー役を好演。コリンのこの役を舞台版で演じていたのがケネス・ブラナー で、シェイクスピア作品の映画化「ヘンリー五世」(1989)に監督・主演して〝新時代のオリヴィエ〞と呼ばれた。
また、「アナザー・カントリー」の舞台に立っていたダニエル・デイ=ルイスも「マイ・ビューティフル・ランドレット」(1985)で主演デビューを飾り、「眺めのいい部屋」にも出演(後に3回、オスカーを受賞)。
こうした男優たち同様、ロンドンの演劇界で活躍していたのがゲイリー・オールドマンとティム・ロスである。オールドマンは「シド・アンド・ナンシー」(1986)でパンクロッカーのシド・ヴィシャスを演じ、ロスは脇役を経て、アメリカ映画「レザボア・ドッグス」(1992)で認められた。
一方、「アナザー・カントリー」に続く、文学的なゲイ映画「モーリス」からも後の大スター、ヒュー・グラントが登場したが、彼の場合はロマンティック・コメディで才能が開花し、〝現代のケーリー・グラント〞と呼ばれた。
この時代、天才子役として注目されたのがクリスチャン・ベールで「太陽の帝国」(1987)でデビューを飾った。また、大人の魅力を持った男優としては「フランス軍中尉の女」(1981)のジェレミー・アイアンズ、「ダイ・ハード」(1988)の悪役アラン・リックマン、「カラヴァッジオ」のショーン・ビーン、「ミッション」(1986)のリーアム・ニーソンなどがいて、1990年代にボンド男優となるピアース・ブロスナンも「クリスタル殺人事件」(1980)で映画界に登場している。
1990年代は衝撃的な青春映画「トレインスポッティング」(1996)が日本でも記録的な大ヒットを記録し、主演のジャンキー役を演じたユアン・マグレガー、キレやすい性格のロバート・カーライルが人気を得た。
また、美形の演技派としては「オスカー・ワイルド」(1997)のジュード・ロウが注目を集め、「嵐が丘」(1992)のレイフ・ファインズは「シンドラーのリスト」(1993)でオスカー候補となった。後に「オペラ座の怪人」(2004)でブレイクするジェラルド・バトラーも「Queen Victoria 至上の恋」(1997)に出演している。
後にブレイクといえば、現代のボンド男優として知られるダニエル・クレイグ も「愛の悪魔」(1998)の悲劇的なゲイの役でスクリーンに登場している。
21世紀の初めはファンタジーやSFの大ヒット・シリーズから人気者が登場
ゼロ年代に英国から生まれた最大のヒット作は「ハリー・ポッター」シリーズ(2001〜2011)で、主演のダニエル・ラドクリフはハリーの成長を10年間に渡って演じた。また、ハリウッドの大ヒット作「ロード・オブ・ザ・リンク」シリーズ(2001〜2003)や「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ(2003〜2007)などに出演して人気者となったのがオーランド・ブルーム。
個性的な演技派、コリン・ファレルは「タイガーランド」(2000)で主演デビューを飾り、アメリカ映画を中心に活躍。また、「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」のジェームズ・マカヴォイも新しい演技派となった。
新時代の演技派としては「ブラックホーク・ダウン」(2001)に出演していたトム・ハーディもいて、後に「マッドマックス怒りのデス・ロード」(2015)に主演。「HUNGER」(2008)の体を張った演技で評価されたマイケル・ファスベンダーも、最近は「X–MEN」シリーズ(2011〜2019)に出演。
近年はボンド映画のQ役で知られるベン・ウィショーは、「パフューム ある人殺しの物語」(2006)の大役で注目された。「トワイライト」シリーズ(2008〜2012)のバンパイア役でアイドル的な存在となり、近年は「TENET テネット 」(2020)に出演したのがロバート・パティンソンである。
現在人気絶頂の彼らは英国映画・TV界の未来を担う存在
2010年に始まるTVシリーズ「SHERLOCK/シャーロック」で日本でも大人気となるベネディクト・カンバーバッチは「つぐない」(2007)ですでに映画界に登場していた。そんなカンバーバッチと「SHERLOCK」で名コンビを組んでいたマーティン・フリーマンは群像劇「ラブ・アクチュアリー」(2003)の演技で注目された。
「博士と彼女のセオリー」(2014)でアカデミー主演男優賞を獲得し、最近は「ファンタスティック・ビースト」シリーズ(2016〜)で人気を得ているエディ・レッドメインは「美しすぎる母」(2007)で青年役を演じている。
2010年代に登場して「マイティ・ソー」シリーズ(2011〜)で邪悪なキャラクターを演じて日本でも人気を獲得しているのがトム・ヒドルストン。「キングスマン」シリーズ(2014〜2017)で主役に抜擢され、昨年は「ロケットマン」に主演したタロン・エガートンは、いま、最も勢いのある英国スターのひとりとなった。
また、「インポッシブル」(2012)の少年役で注目され、今では「スパイダーマン」シリーズ(2017〜2019)や「アベンジャーズ」シリーズ(出演は2018〜2019)に出演しているトム・ホランドも新世代の男優として期待されている。
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