毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が“最高品質”の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は世界的絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説を映画化した「ヒトラーに盗られたうさぎ」です。

編集部レビュー(後半)

子供目線で見る歴史では描かれない戦争

画像: 子供目線で見る歴史では描かれない戦争

ドイツの絵本作家ジュディス・カーの自伝的児童文学を映画化した本作。子供目線で描かれる“戦争”は私たちの知る歴史とは少し違うのかもしれません。

一家亡命という過酷な状況でも、学校を休みたくないと駄々をこねたり、慣れ親しんだ家具一つ一つにさよならを告げたり。子供らしい行動を丁寧に描く演出が、幼少期の記憶を引き戻し、自分の目線も変わっていくのを感じるのは不思議な感覚でした。

状況は違いますが、通常とは違う生活を強いられる今の時代も、子供は大人の心配を他所に逞しく生きているのかもしれません。本作でも別れを乗り越えながらも、愛情深い両親のもと前向きにのびのびと育っていく主人公の姿はこちらまで元気になるほど。どんな時代であっても、子供たちにとっては決して悲惨ではなかったのだと教えてくれるような気がします。

レビュワー:阿部知佐子
主役を演じる女の子が魅力的。編集部でクロエ・グレース・モレッツ似かジュリエット・ビノシュ似か論争が!? とにかく将来期待大です。

前向きに生きる一家の柔軟性が素敵

ドイツの絵本作家の実体験が原作で、ヒトラーの支配が強まるドイツからユダヤ人一家が亡命する…と書くと悲壮感漂う戦争もののように感じますが、本作は収容所も兵隊も爆弾も出てきません。

そこに描かれているのは前向きに生きる一家の日常。「過去にこだわっていると視野が狭くなる」と子供達に説く父アルトゥアの言葉に象徴されるように、各国を渡り歩く一家による社会の荒波の乗り越え方、生き方のヒントがそこかしこに。母国のドイツからスイス、そして言語が違うフランスへと移住を余儀なくされても、その度に変化を受け入れる強さがとても美しく、その柔軟性は己に積極的に取り入れたいと思ったほど。

また、物事には色んな見方があると教える父の存在は温かく、エンドロールを迎えても、まだまだこの一家と一緒にいたいな、と名残惜しい気持ちになりました。

レビュワー:中久喜涼子
引っ越しの度に、慣れ親しんだ道や壁などあらゆるものに「サヨナラ」と呪文のように話しかけるアンナの瑞々しい感性にも注目です。

どこへ行っても“らしさ”を忘れない一家に感動

1933年2月、ナチスによる恐怖政治が進行し始めたベルリン。ユダヤ人のケンパー家も例外ではなく、ヒトラー批判をしていた演劇批評家の父が弾圧の対象に。9歳のアンナは両親、兄と共に慣れ親しんだ町、お手伝いさん、そして桃色のうさぎのぬいぐるみに別れを告げ、スイスへ向かう。これはフランス、イギリス……と続く亡命生活の始まりだった。

原作が児童文学だからか、世界に暗い影を落とした出来事をこんなにも悲壮感なく描けることに驚いた。過酷な亡命生活も本作にかかれば“ちょっと転勤が多い一家”に早変わり(実際そんな単純ではないが)。

深刻な現実を語る場面では牧歌的な風景を、辛い局面に陥った場面ではユーモアに富んだ台詞を。そんな精神が随所に感じられた。家財道具と一緒にナチスに没収されたうさぎを“ヒトラーに盗られた”と表現する発想も愛おしい。

レビュワー:鈴木涼子
全編通してハッピーな描写が多く、前向きな気分に。とくに、手紙が届かずしょげるアンナに兄が言う“明日3枚届くさ!”の台詞が気に入っています。

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