毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が“最高品質”の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は世界的絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説を映画化した「ヒトラーに盗られたうさぎ」です。

今月の一本「ヒトラーに盗られたうさぎ」
2020年11月27日(金)公開

画像: 強く、逞しく生きる子供たちの姿を描く 今月の編集部イチオシ映画「ヒトラーに盗られたうさぎ」

『わすれんぼうのねこモグ』シリーズや『おちゃのじかんにきたとら』などで知られる世界的な絵本作家ジュディス・カーが少女時代の実体験を綴った自伝的小説『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』を映画化。

ヒトラー台頭による恐怖政治から逃れるため、故郷ベルリンを離れた9歳の少女アンナと一家の過酷な亡命生活を描く。監督は「名もなきアフリカの地で」で第75回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したカロリーヌ・リンク。

監督/カロリーヌ・リンク
出演/リーヴァ・クリマロフスキ、オリヴァー・マスッチ、カーラ・ジュリ

© 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH

編集部レビュー

異常な事態が“日常”の子供たちの姿が逞しい

画像: 異常な事態が“日常”の子供たちの姿が逞しい

何の予備知識もなく一見して、この映画のタッチというか内容、どこかで見たことがある……と気になって監督のカロリーヌ・リンクのプロフィールを見たら、そのフィルモグラフィーの中にあった「名もなきアフリカの地で」(2001)がどんぴしゃだった。

たしかあの映画もナチスの迫害から逃れてアフリカに渡るユダヤ系の女の子の話だった、と思って調べるとやはりその通りで、あちらもこちらも自伝的小説の映画化。避難先が違うとはいえ、こんな実話が他にいくつもあったのかも、と思うと、そんな時代に生まれた子は不憫だったなどと考えてしまいそうだが、映画の主人公はもっと逞しく人生を生きている。

異常な事態にあっても強く生きる子供の姿をこそ、監督は訴えたいのだろう。外連味のない演出はそれが彼女たちの“日常”だったと言いたいのかもしれない。

レビュワー:米崎明宏
編集長。原作者の作家ジュディス・カーは知らなかったが、代表作『おちゃのじかんにきたとら』のアニメ版はベネさんが声優をしていたような…

「失ったものを数えない」という強さ

ジュディス・カーという名前に馴染みがなくても、あの温かい絵に触れて育った人は多いかもしれない。この世界的絵本作家のルーツに迫るのが本人の自伝的小説を映画化した本作。原作はドイツの学校教材にもなっているという。

彼女が幼少期を送ったのはヒトラーの時代。ユダヤ人の彼女の一家は故郷からの亡命を余儀なくされる。とはいえ比較的恵まれていた彼女たちの生活は「アンネの日記」ほどに過酷ではない。本作はむしろ“冒険映画”のようなトーンで、この9歳の少女が逆境をどう逞しく生きたかを描いていく。

ヒトラーに奪われるそれまでの生活、大切なもの。それでも彼女はいつも前向きだ。大事なのは「失ったものを数えない」こと。そんな彼女の生きる姿勢が凝縮された最後のセリフが胸に沁みる。彼女の絵本の内容に通じる気高き魂が、ここに確かにあった。

レビュワー:疋田周平
副編集長。主人公アンナ役のリーヴァさんがとても印象的。ジュディスさんと同じ地区の小学校に通っていたそうで、運命を感じますね。

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