マイノリティーの人権向上に伴いLGBTQ+映画の質も向上
LGBTQ+テーマの映画は今では当たり前のものですが、2010年前後に欧米各国で同性婚認可の動きが活発化したのをきっかけに、一気に認知拡大。と同時に、映画文化の中でもLGBTQ+テーマの作品を重要視する流れができました。
90年代までのそのテーマの作品は、コメディーや実験映画、ポルノ的な要素が強いものが多数で、映画賞には届かないものも少なくなく(なかには傑作がありますけどね)。マイノリティーの人権向上とともに映画も徐々に質の高い作品が作られるようになった、という歴史があります。
それにあわせ、LGBTQ+テーマの作品に対する映画賞を設ける映画祭や、そのテーマをとりあげる専門の映画祭も活発化してきました(日本で誇らしいのは、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭、現在のレインボー・リール東京が1992年から開催され続けていることですね)。
さて、クィア・パルムとは、カンヌ国際映画祭におけるLGBTQ+をテーマにした優秀な作品に贈られる賞。ヴェネチア国際映画祭の「クィア獅子賞」、ベルリン国際映画祭の「テディ賞」と並んで称されています。……といっても、ピンとこないと思うので、まずはカンヌ国際映画祭の賞の種類をご紹介。
クィア・パルムの審査員は公式とは異なる顔ぶれで構成
世界三大映画祭の最高峰と呼ばれているカンヌ国際映画祭には、さまざまな賞がありましてな。まずはおおざっぱに分けて、公式選出と独立選出と独立賞の3種類。
公式選出の方は、「オフィシャル・セレクション」に入っている作品が対象。最高賞のパルム・ドールを競うコンペティション部門に7種の賞と、ある視点部門、短編部門、学生作品のシネファウンデーションの各部門に作品賞。
それに、コンペティション部門、監督週間、国際批評家週間の3部門で発表された新人監督作に送られるカメラ・ドールという賞があります。独立選出は国際批評家連盟主催の「国際批評家週間」、監督協会主催の「監督週間」の2部門にいくつかの賞が。
独立賞は、FIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)やエキュメニカル審査員賞(キリスト教の組織が選出)のほか、独自に選出された賞があります。
最後に述べた独立賞の一つがクィア・パルム。2010年に創設され、同年の第63回映画祭から始まりました。創設者はジャーナリストのフランク・フィナンス・マデュレイラで、スポンサーになったのは共に監督・プロデューサーのカップル、オリヴィエ・デュカステルとジャック・マルティノー(『愉快なフェリックス』など)。
公式とは別モノなので、当然のことながら審査員も全然違います。『燃ゆる女の肖像』を選んだのは、ヴィルジニー・ルドワイヤンを審査員長とするチームでしたが、それまでの審査員の顔ぶれは多様。
映画監督や俳優はもちろん、ジャーナリストや学者、各国のLGBTQ+の映画祭のプログラマーやプロデューサーなど、毎年6人前後で構成しています。
回を重ねるごとに日本での公開作も増加
ちなみに、初回の受賞作はグレッグ・アラキの『カブーン!』。これは受賞翌年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映されましたが、残念ながら配給はつかず、劇場公開&ソフト化はしてません。
が、その後の受賞作は、各国ではもちろんのこと、日本でもかなり大きな話題を呼んだ作品が目白押し。12年はグザヴィエ・ドランの『わたしはロランス』、2014年は実話ベースの傑作イギリス映画『パレードへようこそ』、2015年は「キャロラー」なるファンをも生み出したトッド・ヘーンズの『キャロル』、2017年は『BPM ビート・パー・ミニット』、2018は来日時にあまりのイケメンぶりにメロメロになるマスコミ続出だったルーカス・ドンの『Girl/ガール』。
いわば、この賞を受賞した作品は、ニッチなジャンルと言われ続けてきたLGBTQ+映画のお墨付きを得られたと言うことにもなります。
あ、いまさらですが「クィア」っていう言葉も説明しないとね。もともとは「奇妙」という意味のスラングでLGBTQ+への蔑称として使われてきましたが(日本語の「オトコオンナ」とか「おかま」とかに近い蔑称)、90年代以降、この言葉を当事者側が肯定的に使うように。
それはなぜかというと、「変わってることこそ素敵なこと」と、多様な性のあり方や個性を表現する言葉ととらえ、ネガティブなイメージからポジティブに変容した、と言われています。この単語は、今後日本でも多く使われていくだろうから、LGBTQ+とともに覚えておいて下さいね。