最新インタビューを通して編集部が特に注目する一人に光をあてる“今月の顔”。今回取り上げるのは「TENET テネット」の熱演も記憶に新しいケネス・ブラナー。2021年の最大の話題作の一本「ナイル殺人事件」で、4年ぶりとなる“世界一の名探偵”ポアロ役に再び挑みます。

メモリアルイヤーを迎えた英国を代表する天才的エンターテイナー

ケネス・ブラナー

王立演劇学校(RADA)を卒業後、“ローレンス・オリヴィエの再来”として脚光を浴び、40年近くにわたって監督・俳優として第一線で活躍する、英国を代表する天才的エンターテイナー。近作「TENET テネット」では悪役を演じた。「オリエント急行殺人事件」に続いて、「ナイル殺人事件」で監督・製作・ポアロ役を務める。1960年12月10日生まれの59歳。

2020年という波乱の年の中で、もっとも存在感を示している俳優は彼なのかもしれない。新作の公開延期が続いた日本でも、ケネス・ブラナーの活躍に触れる機会は決して少なくなかった。“シェイクスピア俳優”として悲願の企画に挑んだ「シェイクスピアの庭」が3月に公開、世界的ベストセラーの児童文学を監督として映画化した「アルテミスと妖精の身代金」が8月に配信、そして社会現象を巻き起こした「TENET テネット 」では悪役を演じ、作品の大ヒットに大きく貢献した。

先の見えない暗闇の中で、一流のエンターテインメントを提供し続ける彼の姿は、一筋の光明になっていた。そして新しい年に待つ最大級の話題作も、また彼の手によるものだ。イギリスの大作家アガサ・クリスティーの原作を映画化した「ナイル殺人事件」。「オリエント急行殺人事件」に続いて彼は監督・主演を兼任し、名探偵エルキュール・ポアロとして新たな事件に挑む。

1978年にも一度映画化された不朽の名作小説『ナイルに死す』が、いったい彼の手でどのように生まれ変わるのか?奇しくも2020年はアガサの生誕130年、ポアロ誕生から100年のメモリアルイヤーでもある。そしてこの名優にとっても、60歳を迎えた記念の年となる。

観客を別世界へ連れていくために「TENET テネット」で使用されたカメラを使いました

──「ナイル殺人事件」の原作であるアガサ・クリスティーの小説『ナイルに死す』のどういった部分が映画的であると考えられたのでしょうか?

『「ナイルに死す」はアガサ・クリスティーの著書の中で、もっとも心がざわつく作品です。どんでん返しが続くプロットにスリルと恐怖を感じる一方で、誰もが共感できる人間的な感情やソウルがあります。クリスティーの著書は大人数の群像劇でありながらも、パーソナルで人間的な物語であることが多いのです。

展開する背景は壮大ではありますが、人間的な側面と壮大さとの組み合わせこそが、私が愛してやまないところです。それを直感的に理解するコラボレーターとともに作業するのは良いものですが、この場合は脚本家マイケル・グリーンがそうなのです。この物語のすべてが、文字通り、より若々しく、セクシーになりました』

──ご自身が演じる名探偵ポアロについてお話しいただけますか?

画像1: 観客を別世界へ連れていくために「TENET テネット」で使用されたカメラを使いました

『エルキュール・ポアロはアガサ・クリスティーが生んだキャラクターの中でもっとも愛され、知名度の高い、偉大なベルギー人探偵です。前作「オリエント急行殺人事件」で基盤を確立したので、本作ではこのキャラクターに少しバリエーションを持たせることができました。

本作の中心をなすのは復讐で、ポアロにとっては自身の道徳に関する厳しい姿勢に課題を突きつけるものとなります。映画の終盤までに、ポアロは道徳上のグレーな領域について考慮せざるを得なくなります。

この物語の中心テーマである愛と嫉妬に取り組んでいかなければならないのです。これにより、ポアロが愛を諦めなければならなかったように見受けられるのはなぜかについて解き明かすことができました。

ポアロの愛情深い側面について紐解くことができ、友人ブーク(トム・ベートマン)との友情を考察することができたのです。そしてまた、彼がおそらく失恋を経験したからこそ、ジャクリーン(エマ・マッキー)に共感するのです』

── 前作に続いて今回も素晴らしいキャストたちが起用されていますね。

『誰もが輝ける星ですが、この銀河系の中心となる太陽は、大富豪の娘リネットです。リネットに求められるのは、類を見ないほどの美貌と、華やかさ、悪戯っぽい面、そして思いやりで、それらを兼ね備えていたのがガル・ガドットでした。

この役を見事に演じていますが、彼女自身もこのキャラクターのように華やかで奥が深いのです。彼女のもっとも側にいる、太陽に近い存在は、自然にチャーミングであり、相手の瞳を真っすぐ見て、心のこもった握手をするような男、サイモンを演じるアーミー・ハマーです。

その元婚約者ジャクリーンは親友の裏切りによって悲嘆にくれているため、脆く、哀れなのですが、同時にとても魅力的で危険でもあるのです。エマ・マッキーはそんな彼女のユーモア、ダークさ、脆さ、優しさを見事に演じており、この複雑なキャラクターに繊細さをもたらしています。

このような映画は、化学的にしっくりくる役者のアンサンブルなしには機能しないものです。ガル、アーミー、エマは3人とも大げさになることなく、情熱と激しさを表現する見事な演技を披露してくれました。俳優陣はみんな、とても自由で、遊び心があり、物語により深みをもたらすのを楽しんでいました』

── 原作を脚本化する際に変更した点はありましたか?

『「オリエント急行殺人事件」でポアロの捜査の右腕だったトム・ベイトマン演じるブークを、今回もまた登場させることにしました。本作ではブークとポアロが、ひょんなことからリネットとサイモンの披露宴に出席し、ナイル川からアスワン、そしてアブ・シンベル神殿へと旅していきます。

今回もまた、いくつかの不可解な出来事が、命にかかわる事件へと発展し、ポアロとブークが協力することになります。これは原作から変更した点ですが、アガサ・クリスティーの精神に則ったもので、いつも誰かと二人で挑むという状況にポアロを置いたわけです』

── 本作を65mmのフィルムで撮影されましたが、その理由は何だったのでしょうか?

画像2: 観客を別世界へ連れていくために「TENET テネット」で使用されたカメラを使いました

『現実逃避の感覚、別世界に連れて行ってもらえるという感覚は素晴らしいものです。つい最近「TENETテネット」で使用されたカメラとレンズを使っているのですが、没入型で、奥行きの深さ、人間の目に見えるものを再現するための手段として優れています。

ソーシャルディスタンスを取り、観客人数を制限した映画館で物語を共有するのは、またとないユニークな機会です。このような状況の中で、ナイル川を下り、古代エジプトの壮麗さを体験する旅は、人々がぜひ現実逃避したいと願う行き先となるでしょう』

Photo by Charles McQuillan/Getty Images

「ナイル殺人事件」
2021年公開

監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー、ガル・ガドット、アーミー・ハマー、エマ・マッキー

イギリスの女流作家アガサ・クリスティーの代表作の一つ『ナイルに死す』を映画化。「オリエント急行殺人事件」に続いてケネス・ブラナーが監督・主演を兼任。名探偵ポアロが今度は豪華客船での密室殺人の謎に挑む。

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