多くの映画祭が延期となっていたコロナ禍で、コロナに負けずに、2020年10月30日から11月9日まで開催された第33回東京国際映画祭2020。審査員となる海外からの映画人の来日が望めないため、コンペティション部門の代わりに、「TOKYOプレミア2020」部門を設け、「観客賞」を競うことに。多くの国々から寄せられた作品から選ばれた映画の上映を果たしました。その状況の中、コロナを乗り越えて、マレーシアのクワラルンプール在住のリム・カーワイ監督が来日を果たし、『東京プレミア2020』に選出された『カム・アンド・ゴー』という新作を披露しました。そのカーワイ監督にリモートによるインタビューをすることが出来、作品と共にここにご紹介していきます。

人が大好きでリーダーシップがあれば、映画監督になれる

── 日本映画と言うと、黒沢明監督とか?

「いえ、どちらかというと溝口健二、成瀬巳喜男、増村保造という……」

── あ、なるほど。そっちですね。

「ヨーロッパ映画もたくさん観ることが出来ました。フランスのヌーベル・ヴァーグ、ゴダール、トリュフォーはもちろん、イタリア映画だったらアントニオーニとか」

── ミケランジェロ・アントニオー二ですか、どの作品に影響を受けたんですか?

「『欲望』(1967)です」

──では、好きな女優さんは……。

「モニカ・ビッティ」

──そうきますよね、やっぱり。さすがです。で、サラリーマンを辞めて北京電影学院でイチから映画を学ばれたんですね。すごい意欲ですね。映画が人生を変えたと言っても良いくらいですね。

「で、学んでみて、映画を仕事にするなら、映画監督が一番楽そうだな、自分でも出来ると確信したんですよ」

── えー、それはスゴイですね。なかなか普通はそうは思わないものですけれど。

「照明や音響とか、技術の専門家より、映画監督はよっぽど楽そうだと思ったんです。リーダーシップがあって、人に会うことが大好きなら、映画監督は出来ますよ」

大阪の暗部を剥き出しにして、ボーダーレスな世界を描く

── なるほど、なるほど。そういう考え方や姿勢は素晴らしいですね。映画監督って、もっと特殊で難しい仕事だと思われがちですから、なりたいと思っている人には早く教えてあげたくなる素晴らしいメッセージのような言葉です。リーダーシップは、生れつきのものですか?

「高校時代は部活で、ハーモニカ部を率いてました。卒業旅行も一手に引き受けてやってしまうようなタイプでした」

── ハーモニカ部、いいですねー。意外でしたが(笑)。

ところで、『カム・アンド・ゴー』は、過去の作品に比べると、大阪の底辺で働く外国人の姿を通して、ディープでブラックな面を抉りだしている。

日本人が注視すべき問題でもあり、これを社会的な映画として捉えてよいのでしょうか? 日本人が見過ごしている外国人への不当な待遇とか差別意識をあらわにする使命感などが原動力なのでは?

「いや、それはないんです。暗い面を捉えて告発とか社会批判という姿勢ではなく、むしろ、大阪は無国籍地域といっても良い場です。人と人の距離感、愛想と雰囲気が、アジアの他の都会と共通するところがあって、その活気に魅了されています。そこでボーダーレスな世界を描きたかったんです」

── そうでしたか。アジアの多くの人々が大阪で混在して暮らすことは、ボーダーレスな生き方でもあるんですね。

「そうですね。ボーダーレスをめざして、国々は境を外して多様な人種が仲良く出来たら良いと考えます」

画像: 大阪の暗部を剥き出しにして、ボーダーレスな世界を描く

映画が世界を一つにする、それこそ映画がを救うということになるのではないでしょうか。勇気づけられます。カーワイ監督は自らもまた、ボーダーレスな活躍ぶりで映画を撮っている監督でもあります。

味わいが真逆な『いつか、どこかで』に見る多才ぶり

『カム・アンド・ゴー』は、東京国際映画祭2020の後、エストニアの首都タリンで毎年開催されている、「ブラックナイト映画祭」の「カレント・ウエーブス」部門でも上映されました。折しも、監督がセルビア・クロアチア・モンテネグロまで足を運んで2018年に制作した『いつか、どこかで』が今年の年末・年始に日本公開となります。

1999年に起きたボスニア紛争と、同年マカオが中国に返還となり、世界的な二つのムーブメントを繋ぐかのように、マカオに住む少女が、セルビア・クロアチア・モンテネグロに引き寄せられて、歴史をたどるロード・ムービーです。

3つの国が持つ国土の美しさには、目を見張るものがあり、透明感あふれる陰影を巧みに活かした映像美と、成長期から脱皮して大人の女になる少女の肖像の捉え方が素晴らしい作品です。まさに、女優の美しさを最大限引き出す成瀬巳喜男監督からの影響が滲むような映像です。

驚かされるのが、『カム・アンド・ゴー』と同じ監督とは思えない仕上がりであるということ。観れば観るほど、味付け風味も多種多様、自在なシェフさながらのリム・カーワイ監督の多才ぶりを知る想い。

だからこそ、『カム・アンド・ゴー』の劇場公開を心待ちにしつつ、この機に、ぜひ観ておくべきは、『いつか、どこかで』なのです。その多才ぶり、おそらくは、撮影の場にあえて身を任せる自然体から生まれるものではないのでしょうか?

画像: 味わいが真逆な『いつか、どこかで』に見る多才ぶり

バルカン半島の持ち味に合せると、しっとりと静寂で透明感あふれて撮りたくなり、エネルギッシュでノンストップな大阪では、喧噪こそが主役だとばかりに。

ともあれ、映画づくりの変幻自在な多才ぶりには、これからも目が離せない、リム・カーワイ監督です。

『カム・アンド・ゴー』

原題/Come and Go
監督・プロデューサー・脚本・編集・エグゼクティブ・プロデューサー/リム・カーワイ
撮影監督/古屋幸一
音楽/渡邊崇
出演/リー・カンション、リアン・ ビン・ファット、兎丸愛美、千原せいじ、渡辺真起子ほか
2020年/日本/マレーシア/ 158分/ カラー/ 日本語、英語、北京語、韓国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語
(C)cinema drifters

『いつか、どこかで』

2020年12月28日(月)10:15より渋谷ユーロライブにて特別先行上映とトークイベント
2021年1月2日(土)から1月22日(金)まで大阪シネ・ヌーヴォにて上映

2021年1月23日(土)から1月29日(金)まで池袋シネマ・ロサ にて上映

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原題/Somewhen, Somewhere
製作・監督・脚本/リム・カーワイ
出演/アデラアデラ・ソー、カタリナ・ニンコブ、ピーター・シリカ、ホスニー・チャーニーほか
配給:Cinema Drifters
2019年/81分/カラー/セルビア・クロアチア・モンテネグロ・マカオ・日本・マレーシア合作
(C)cinema drifters

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