大阪を舞台にした三部作の最終作品
『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(2010)で長編デビューして以来、意欲的に映画制作に取り組んだカーワイ監督。中でも、大阪にこだわった「大阪三部作」で、その地を訪れ働くアジア各国の人々、関わる日本人の有り様を抉りだす作品を撮り続けて来ました。
『カム・アンド・ゴー』は、『新世界の夜明け』(2011)『Fly Me To Minami 恋するミナミ』(2013)に続く、三部作の最終作品というわけです。前作の2作品で舞台となった大阪の代表的スポット、「新世界」「ミナミ」に加えて、今回新作では「キタ」が描かれます。
今や、大阪に暮らし仕事をするアジア各国の人々の数は膨れ上がり、観光やビジネスでの短期滞者、難民や外国人労働者や留学生たちの長期滞在者が相まって、彼らの描く縮図も拡大されていきます。
今回の作品には9か国ものアジア人が登場し、まさに作品タイトルそのままに、行ったり来たりのめまぐるしい交差の連続が展開する2時間38分。ストップモーション・ムービーとしての完成です。
母国マレーシアに留まることを知らないカーワイ監督は、日本、中国、韓国、そしてバルカン半島までと、世界を股にかけての行動派。過去、現在、未来にわたり、躍進力が際立つ国際的な映画監督として期待の的です。
9か国のアジア人と日本人が絡み合い交差する
日本人より大阪という場所を知り尽くしたかのような赤裸々な演出力が、多くの日本のメデイアに興味を持たれるのは当然のこと。今回作品に注目した『朝日新聞』『毎日新聞』などの注目を一身に集め、アジアを代表する本格的映画人の一人と言って良いでしょう。
作品は9か国のアジア人と日本人の息遣いが交差する、きわどくスリリングな行動を、定点観測と言い切ることは出来ない群像インスタレーション、はたまたモザイク様式と言っても良い手法で魅せていきます。
中国人観光客に人気が高いAV女優と偽って、母国の女性たちを斡旋するために大阪にやって来た韓国の男、外国人たちにボランテイアで日本語を教える人妻の教師と不倫をする、野心タップリなネパール難民の男、アダルトグッズを買い漁ることが生きがいであるかのような、定期的に台湾からやってくるAVオタク、極めて紳士的な、旅行ツアーの開発のため出張中のマレーシアのビジネスマン、留学生として学びながら就労し、病気の母親のために一時帰国を望んでも帰ることを許されない気の毒な青年などなどが蠢き、もがいて生きている。大阪に、何かいいことないかと押し寄せても来る。そこに絡む日本人もまた、めっぽうずる賢くも逞しい。
テンポの良い主題曲からスタートして、大小取り混ぜたハプニングや宿命的な事件を次々にピックアップ。それは、あくまで深刻で重いタッチではなく、飽きさせない短いカットカットで、複数の主人公たちの足取りや顛末を描きます。
エンジニアとして働いた後に、映画を本格的に学ぶ
クロスワード・パズルを埋めていくように、観る者は複数の主人公を追跡して、頭の中で完成させる、そんな面白さが新鮮です。気づいたら、自分も大阪に居るような不思議な感覚を得る、そんな映画です。
── 東京国際映画祭での上映はいかがでしたか?
「この映画祭には、毎年のように訪れています。コロナ禍でも来日して良かったと思います。リアルなトークイベントでも多くの観客が集まって楽しんでもらえました」
── なぜ、大阪にこだわるのでしょうか?
「大阪は今や、日本人の大阪ではなく、アジア人の大阪と言っても良いのではと感じます。アメリカンドリームならぬ、大阪ドリームを求められるような場所です」
── ご自身は大阪にいらしたことがあるのですね?
「大阪大学で学びました。その頃住んでいたんです、大阪に」
── 映画は大学で学んだのですか?
「大学では電気工学を専攻していましたから、映画は北京電影学院で。その前に東京でエンジニアとして長く働いていました」
── そうでしたか。映画監督になりたいと思ったのは、どうしてなんでしょう?
「東京時代に、映画をたくさん観ることが出来たんです。仕事を映画にしたいと思って」
── あ、サラリーマンを長く続けていらしたから、自由を求めてって感じですか。どんな作品がそういう気にさせたんでしょうか?
「日本に来てからたくさんの映画を観ることが出来ました。300本くらい」