CF制作などを手がけて来た串田壮史監督。広告の世界で生み出される映像とは真逆な試みで完成させたのが、初長編映画『写真の女』。コロナ禍に見舞われた昨年の夏、リモートで行われたスキップシティ国際Dシネマ映画祭に出品し、今後に期待をかけるべき映画監督に贈られる「スキップシティアワード」を獲得。快挙を得ました。CFの世界から、劇場用長編作品の作り手へと進出する監督は世界的にも少なくないですが、串田監督はなぜ、長編映画の制作に取り掛かることになったのか、長編映画作品へ込める想いとはどんなものなのか。打てば倍返し以上の映画作りのヒントがもらえる、リモートで伺ったお話は貴重です。本物の映画をめざす、新しい才能をインタビューでご紹介しましょう。

映画は観客が観た後、食事を楽しめる長さに作りたい

──そうですか、やはり。今回の作品は良い意味で、映画へのオマージュが漂い、ときめくのですが、『髪結いの亭主』の男女逆転劇(笑)にも思えるし、『仕立て屋の恋』の主人公の男の持つ、あの耽美的な感性(笑)も漂うし……(笑)

画像: 映画は観客が観た後、食事を楽しめる長さに作りたい

「ルコント監督から学ぶことは、ほぼ、どの作品も90分に収めているところです。映画って観客側からしたら、映画を観ることだけを生きがいにしているわけではないんですから、観た後にお食事などして映画のことでも気軽にお喋りしたい。それが映画の楽しみ方の本来だとしたら、90分が最適な長さでしょう」

──おっしゃるとおりです。フランスの映画の楽しみ方は、まさしくそれですものね。今回の作品も89分。その長さで充分に串田監督の世界観は伝わり、映画を観たという満足度も高いです。そして、映画のポスタービジュアルや、本編最後のシーンなどからは、私は『ラ・ラ・ランド』(2016)を彷彿とさせられました。

「そうですか。もしかするとそれは、僕がCMをやっているからかもしれません。CMは比較的、映画などのオマージュのパラダイスですから。

例えば『ラ・ラ・ランド』(2016)が流行ったら、ミュージカル風のCMが一気に増えます。でも、『ラ・ラ・ランド』になら、僕がオマージュ捧げることに抵抗はないですね」

10日間で映画を完成させたのも、CF制作の力

──興味深いお話ありがとうございます。それにしても、初めての長編作品を、10日間で完成させるとは凄いですね。

「さすが、我がCFスタッフたちです。僕も皆も、現場で悩みませんでした。コンテをストーリーボードに最初に書いておくと、どういう順番で撮るか計算出来る、その能力が非常に高いことを改めて知ることが出来ました。

シナリオの文字からじゃなくてね。絵です、絵を想定して、こういう順番でとればいいじゃないかと。そのスキルはCF 撮影をする技術から得ている」

──それは素晴らしい。てっきり、映画はCFづくりとの差があってご苦労があったのではないかと思っておりました。

「確かに、撮影方法は大きく違うところはあります。CFの場合は演技のつながりとかを無視して、例えば女の子が走って止まって飛ぶっていうシーンがあったとすると、そのシーンだけを先にアングルを決めて撮ります。映画の場合は、全体の演技を一回やってもらって、その後にどういう順番で撮るかっていう風に作っていくので、あくまでも演技ありきです」

──監督の演技指導ありきですね。

「そうですね。僕は細かい心情とかは語らないんですが、キャストの二人に演じてもらって、それでカメラマンがアングルを決めていって、シナリオに書いてあるような絵を撮っていく。まず俳優がやる前に、僕が一回やってみせたりもしてね。

主演の永井さんは、平田オリザさんが舞台演出している青年団という劇団の俳優さんで、素顔はめちゃめちゃしゃべる方ですが(笑)、僕の作品では、いずれも“間”というものを演じていただいたんです。

今回の作品を10日で撮り上げたのも、彼のスケジュールを10日もらえたから。2月にオファーしてオーケーしてくれた8月の10日間で撮るっきゃなかった(笑)」

──そして、スキップシティ映画祭に応募して、というわけですね。そうまでして、長編作品を制作する気になったのは、なぜでしょう。それまでジリジリと思い詰めていて?

主演俳優のスケジュールをおさえられれば、映画は撮れる

「思いつめていたわけではないんですが、『声』が、多くの映画祭に出品され、アメリカのカリフォルニアの、「ニューポートビーチ映画祭」という映画祭気づいたんです。長編は大きなスクリーンで9室くらい貸切ってやっているけれど、短編はワン・スクリーンでの上映のみ。どうしても羨ましいと思いますよ。短編やりたくて、出品も叶ったのですが」

──そうでしたか。

「あとは僕はCMを長くやっていて、やっぱりCMの面白さと映画の面白さは全然違うなってことを痛感するようになってきて。CMって15秒で伝えたいことを伝えなくてはならない世界なんです。言葉で全部説明して、説明して。

それに対して、映画で印象に残るシーンといえば、一言くらいのセリフだとも思えてくる。ほとんどのシーンが絵で説明してるんですねから。そういう瞬間を映像でつくりたいなと思って、長編映画をやりたいなと思ったのも同じような時期でした。

やるって決めたのも2019年の2月で。その時点で、『声』(2017)がいくつもの映画祭で受賞を重ね、永井さんも優秀男優賞を獲ったりして、このあたりで、彼が国際的にも受ける俳優さんだとも確信しましたし。いろいろな成果が重なり、背中を押されたというか」

──いつも真剣に取り組む串田監督にもたらされるラックは必然的なことなんですね。

「僕が言えるとしたら、映画作りたいって人がいたら、まずキャストのスケジュールを押さえたら絶対作れますよ、てことなんです」

男は女のために生き、死んでいくというセンチメンタル

──さあ、そしてこの作品、監督が一番見せたいターゲットはどのあたりなんですか?今どきのSNS狂いの女性への警鐘かと、私は同性として、やってくれたーと拍手しましたが。

「それが35歳以上の男性なんです。大阪で上映した時、まさにこういうおっさんに見せたかったと思える男性から「男ってそうやなあ」という感想を直接聞かされて。「結局女に捧げることで終わるんや」というような(笑)」

画像: 男は女のために生き、死んでいくというセンチメンタル

──いやいや、興味深いお話しばかりで。そうでしたか。

「男ってものは、そもそも、大きな意味で言ったら、子供が出来てしまったらもう、必要のないものなんですね。カマキリにしても、ほかの動物にしても、子供ができた後は、ほぼすぐ死んじゃう」

──ははは(笑)確かに、今の時代は本当にそう言えますね。女に食べられちゃう、栄養になっちゃう運命の男たち。

「とは言え、人間の雄はそうすぐには死ねないわけで、だからこそ、男は何かに身を捧げる喜びとか見つけずにはいられないと思うんですね。

それが異性である女性を生かしていくことで、自分は究極の喜びを得るという、実は男はそう感じているんじゃないかと思うんですね、感じずには生きていけない生き物のはずだと」

──男性にはそう、願いたいものですね(笑)自分を愛せるからこそ、人を愛せるという“自己愛”、愛を捧げる相手を見つけたら、自分も愛せるという、今の時代に凄く必要な、男にも女にも問いかけるラブストーリーに仕上がっていますね。

「二人ともラストは相手を愛しているともいえるし、自分でいることにも満足出来る話にしたかったと」

広告の存在を振り返ってみる気持ちも込めて

──例えば、フランスなどでは、自己愛がまず優先の人生観だと思います。自分を愛せない人間が、他者を愛せるはずがないというような。

「あ、知らなかったです。そういえば、レタッチってありますよね。広告で使われてましてね、世界的に。フランスではそれが早い段階で禁じられたんですね。もしかするとその自己愛とか自分を愛するっていう思想に反するものと判断したからかもしれませんね」

──そうでしょうね。欠点をマイナスするするより、長所にしてしまう人が多いと思います。SNSでコンプレックスのない自分で魅せたい、評価されたいという願望には留まるところがなく、本当の自分をどんどん嫌いになるようなもので。

「そうですね。それは、広告がそれを助長している部分も多くあるんで。それは僕にも反省はあります」

串田監督とのこのようなお話しは、奥が深く興味深い情報が豊富で、インタビューも留まることを知らない勢いがありました。

広告では言えないことをこの映画に託された、ということにもなるのかもしれません。多くの切り口や考えさせられることもある中、アートな感覚を生かし、今の時代に生きなくてはならない男と女の生き方を描いて秀逸、『写真の女』大成功です。

広告界出身のこの監督が、次に作る物語はいったいどんなものなのか想像もつきませんが、また世界中の映画祭を股にかけて、さらなる躍進をするであろうと期待が大きく膨らみました。

画像: 映画「写真の女」60秒予告 youtu.be

映画「写真の女」60秒予告

youtu.be

『写真の女』

2021年1月30日(土)渋谷ユーロスペースにて公開
大阪/第七藝術劇場、愛知/シネマスコーレにて上映決定。他全国順次公開。
※その他劇場情報は、公式ホームページを参照ください。

監督・脚本/串田壮史
プロデューサー/西村伸 佐藤洋輔
撮影/大石優
照明/佐伯琢磨
助監督/高橋知子
美術/奥谷駿友
音楽/伏見仁志、斎藤茂彦
衣装/櫻井まさえ
特殊メイク/西村喜廣
キャスティング/中野辰哉
編集/山本ガウディ徳
整音/由井昌宏ほか

製作プロダクション/ピラミッドフィルム
出演/永井秀樹 、大滝樹、猪股俊明 、 鯉沼トキほか

©2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.

<映画祭受賞歴>
Grand Jury Best Narrative Feature Award – 20th deadCenter Film Festival (USA)
Best Feature Film – 16th Reel HeART International Film Festival(Canada)
Best Film – 10th CINEFANTASY(Brazil)
Golden Aphrodite / Best Leading Actor / Best Editing - 15th Cyprus International Film Festival (Cyprus)
Best Foreign Feature - 5th Monmouth Film Festival(USA)
Best Foreign Feature – Phoenix FearCon (USA)
Best Storytime Feature - 3rd NOT Film Fest (Italy)
Best Narrative Feature - 3rd MINT Film Festival(USA)
SKIPシティアワード - 第17回 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
グランプリ - 第12回 日本芸術センター 映像グランプリ
北斗七星賞(グランプ) – 第13回 網走映画祭
Special Jury Prize - 13th Bushwick Film Festival(USA)
Audience Award - 26th Lund International Fantastic Film Festival (Sweden)
Best Cinematography - 17th Bend Film Festival(USA)
Best Cinematography - 11th New York City Independent Film Festival(USA)
Best Director - 18th Ravenna Nightmare Film Festival(Italy)
Best Directing - 10th Massachusetts Independent Film Festival(USA)
Best Feature Director / Best Editing – 7th Tampa Bay Underground Film Festival
Bronze Remi Award - 53rd Worldfest Houston(USA)
最優秀助演女優賞 / 優秀助演男優賞 – 第3回門真国際映画祭
Filmination Award - 2nd Japan Connects Hollywood(USA)
RUNNER UP - 20th Anchorage International Film Festival

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