作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。学生時代に読んだ本の再読(ほとんど忘れています)に追われる日々。「昔の名前で出ています」の心境か。

よしひろ まさみち
映画ライター。リモート取材には慣れてきたものの、やっぱり直接取材がありがたし……と願う2021年。

渡辺麻紀
映画ライター。お正月を、こんなにまったり過ごしたことはなかったかもというくらい家でのんびりしました。今年もよろしくです。

土屋好生オススメ作品
聖なる犯罪者(2019)

司祭に成りすます男の体験を通して人間らしく生きることを問う監督の声が聞こえてくる

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要

少年院を仮退院した若い男が、長年あこがれていた司祭になりすまして見知らぬ村人たちの前に現れる。村を揺るがす悲惨な交通事故の真相をめぐるミステリー仕立てのサスペンス劇の体裁をとりつつ人間の本性に迫る。

ほとんど寓話的な世界といっていい出来事を実話のように描くのだから、作り手は相当の才能の持ち主といわねばならぬ。そこで描かれるのは、司祭という仮面を被り、その仕事を実際に体験して初めて見えてくる聖職者の内面と、半信半疑ながらもニセ司祭を受け入れてしまう共同体の動揺と不安。

不条理というにはほど遠い見事なまでにいびつな現実を再現していくのだが、それよりなにより素晴らしいのは主演のバルトシュ・ビィエレニアの集中力あふれる演技だろう。

画像: 司祭に成りすます男の体験を通して人間らしく生きることを問う監督の声が聞こえてくる

お堅い聖職者の殻を破り自由に羽ばたく大胆さと、人生の機微に触れる繊細さ。その間で悩み傷つき挙句の果ては元の木阿弥になろうとも、いつかそこに希望の光を見いだし解放の扉を開くのだから人間捨てたものではない。

そのビィエレニアの縦横無尽な演技をふまえ「人間らしく生きるとはどういうことか」と自問するヤン・コマサ監督の声が聞こえてくる。ポーランド映画の枠を超え、宗教映画の枷をとりはずしたスケールの大きな一作。

よしひろまさみちオススメ作品
ザ・スイッチ(2020)

ブラムハウス製作の新作は、人気ジャンルを絶妙にブレンドさせた快作!

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像4/音楽4

あらすじ・概要

ある夜、高校生のミリーは連続殺人鬼ブッチャーに短剣で刺され軽傷を負う。翌朝目覚めてみると、なんとミリーとブッチャーの身体と心がスイッチ。ミリーの身体を得たブッチャーは、学園内での殺戮に乗り出すが……

ティーンホラーの定番であるスラッシャーに、今どきの青春ストーリーを織り込み、さらにボディスワップの設定を使った盛り盛りの快作。低予算で最大級のヒットを出し続けているブラムハウス・プロダクションズ製作による本作は、人気ジャンルをうまくブレンドさせた最高のコメディだ。

画像: ブラムハウス製作の新作は、人気ジャンルを絶妙にブレンドさせた快作!

イケてない学園ライフを送る主人公ミリーと殺人鬼の入れ替わりとスラッシャーホラーの組み合わせだけでも、『フリーキー・フライデー』や『転校生』といった同ジャンルの傑作を笑い飛ばすかのようなパロディ。

だが、決して笑いだけにとどまらないのが素晴らしい。たとえば、ミリーがブッチャーの身体になってしまったことで、危険が迫る学校で数少ない頼れる親友たちにどうやって知らせるか。また、どうやって元の身体に戻ることができるのか、といった謎解きパートは、今のティーンが抱える苦悩をきっちりと描き、青春映画としての完成度も高い。

そして、スラッシャーのお約束「学園カーストの上から消す」という殺人百景には大爆笑必至だ。

渡辺麻紀オススメ作品
キング・オブ・シーヴズ(2018)

英国のベテラン俳優たちが実際の集団強盗事件を再現して悲哀感を醸し出す

評価点:演出2/演技3/脚本2/映像3/音楽3

あらすじ・概要

妻に先立たれた、かつての泥棒王ブライアンは、知り合いの青年バジルに誘われてロンドン随一の宝飾店街の窃盗計画に参加。かつての彼の仲間を集めるのだが……

マイケル・ケインやトム・コートネイを始めとした英国の大ベテラン&名男優を終結させ、実際に起きた大強盗事件を再現したクライムドラマ。現役を引退していたじいさんたちが昔取った杵柄を駆使し、チームワークもほぼ無視して我が道を行く泥棒ぶり。おかげで、今日日そんなことしていたらすぐに捕まっちゃうだろうという、違う意味でのスリルが生まれている。

画像: 英国のベテラン俳優たちが実際の集団強盗事件を再現して悲哀感を醸し出す

ただし、このジェームズ・マーシュ監督は、こういう題材にもかかわらず、コメディタッチでもブラックユーモア風でもなくシリアスな演出をチョイス。そのため浮かび上がってくるのはじいさんたちのかわいらしさや愛らしさではなく、悲哀感であり、三つ子の魂百まで的な頑迷っぷりだったりするのだ。監督のこの選択には驚かされた。

個人的にもっとも嬉しかったのは、ケインやコートネイらの若き日の出演作のワンシーンが効果的に使われていたところ。こういうことが出来るのも、素晴らしいキャリアを誇る彼らだからこそである。ケインの36歳くらいの出演作『ミニミニ大作戦』(2003)、もう一度観たくなっちゃいましたよ。

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