作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。「巣ごもり」生活を続けていると、現実と虚構の区別がつかなくなり…。「シャイニング」(1980)を思い出す。

大森さわこ
映画評論家。長いつきあいだった“映画の仲間”、河原晶子さんの突然の訃報。心からご冥福をお祈りしたいと思います。

斉藤博昭
映画ライター。2021年も公開延期作が続き、アカデミー賞もどうなるやら。個人的には「ノマドランド」「ファーザー」推し。

土屋好生オススメ作品
わたしの叔父さん(2019)

酪農を営み叔父と二人で暮らす女性の生き方の変容を描きラストに脱帽

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像5/音楽3

あらすじ・概要

女主人公のクリスは足の不自由な叔父さんと酪農を営む27歳。働き者のうえ地元の獣医師から一目置かれるほどの腕利きで、獣医になる夢をかなえようとするが、そんな時教会で知り合った青年にデートに誘われる。

いかにも郷愁を誘うタイトルにだまされてはいけない。それほど純粋無垢ではないし夢物語でもないのだから。

とにかく酪農を営む「わたし」と足に障害を抱える「叔父さん」の日常をとことんリアリズムで描いて、最後には人生の岐路に立つ独身女性の生き方に迫るのだから見事というほかない。

冒頭からほとんど無言劇の趣。特に叔父さんとわたしの場面では長年連れ添った夫婦を思わせる日常が描かれる。その2人のドラマの均衡が崩れるのは一人の青年が現れてから。ここで問われるのは人間関係の変容である。

画像: 酪農を営み叔父と二人で暮らす女性の生き方の変容を描きラストに脱帽

叔父と姪の関係が次第に男(夫)と女(妻)のような微妙な関係をあぶり出していくのだが、そのあたりのミステリアスな心理サスペンス劇風な展開が実にスリリング。

特に生の感情を吐露するラストの涙と笑いの二重奏には新鋭監督(フラレ・ピーダセン)の矜持を垣間見る思いがする。それにしても生きる意志の強さを見せつけるラストの「わたし」の決意表明には脱帽!これぞ現代のデンマーク人女性の心意気というものか。

大森さわこオススメ作品
ベイビーティース(2019)

オーストラリアの新鋭女性監督による新鮮で奥深さも感じる斬新なロマンス

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

シドニーのセントラル駅で、重病を抱えた高校生のミラと宿無しでヤクの売人のモーゼスは出会い、ふたりの付き合いが始まる。ミラの両親は交際を快く思わないが、ミラの思いは止められない……

オーストラリアからの新鮮な一撃! 重病をかかえた裕福な家の少女と家を出たヤクの売人の青年とのロマンス。一見、どこかで見たような筋書きだが、内容ではなく、見せ方がおもしろい。

全体をいくつかの章に区切り、「不眠症」「ちょっとだけ上向き」「ロマンス・第1章」とタイトルをつけ、次はどんな展開になるのか期待を抱かせる。ふつりあいなふたりの恋のゆくえも気になるが、少女の両親の描写も印象的。

父親は精神科医で、精神が不安定な母親は夫が処方する薬を常用中。彼らは娘の相手を嫌いつつ、娘の思いも大切にしたいと考える。世界が異なる他者も受け入れようとする両親の登場によって、壊れた家族のユニークな再生の物語にもなっている。

画像: オーストラリアの新鋭女性監督による新鮮で奥深さも感じる斬新なロマンス

若手のエリザ・スカンレンとトビー・ウォレスはキラキラと輝き、両親役のエシー・デイヴィス、ベン・メンデルソーンもニュアンスあふれる好演。生と死をめぐる哲学的な眼差しも感じさせる奥行きのある作品だ。新鋭の女性監督、シャノン・マーフィの躍動感ある演出に引き込まれる。ポップな映像と選曲のセンスもいい。

斉藤博昭オススメ作品
マーメイド・イン・パリ(2020)

人魚と人間の恋を描く一連の名作の様々な魅力をマックスに備えた一作

評価点:演出4/演技3/脚本3/映像5/音楽5

あらすじ・概要

セーヌ川に浮かぶ船上バー「フラワーバーガー」。オーナーの息子ガスパールは、ケガを負った人魚ルラを見つけ、自宅の浴槽で看病する。ルラを海に返そうと決意するガスパールだが、2人の間には恋の感情がめばえ……

人魚と人間の恋といえば、「スプラッシュ」(1984)や「リトル・マーメイド」(1989)といった「ときめき系」から、(人魚に近い存在ということで)「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)のような「リアル&ディープ系」まで、さまざまな名作が誕生してきた。この映画も、そのラインナップに加わる、愛すべき仕上がりになっている。

人魚と出会う人間の男性のドラマは「スプラッシュ」に近いけれど、相手への愛が深くなるにつれ、命の危険にもさらされ、人魚のために主人公がとる決死の行動は「シェイプ・オブ~」の切なさと重なる。

画像: 人魚と人間の恋を描く一連の名作の様々な魅力をマックスに備えた一作

つまり人魚映画の魅力がマックスに、バランスよく詰まっているのだ。「恋すると胸が痛くなる」という不変の真理とともに、この映画を観たいと思う人への期待感には十二分に応えてくれるはず。そして何より、ビジュアルでテンションを上げる効果が絶大。

主人公のアパートや、父の営む船上バーのインテリアはかわいいし、レコードやVHSビデオ、とび出す絵本などレトロでアナログなアイテムが、ファンタジックな物語と相性ばっちり!

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