カバー画像:Photo by Rich Fury/BAFTA LA/Getty Images
どんな役にも果敢に挑戦する七変化俳優
ウィレム・デフォーという男優にはいろいろな意味で驚かされる。まずは芸域が広いこと。デビュー作は『ラブレス』(1982)で、最初は『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)のような悪役が目立ったが、『プラトーン』(1986)では善人を演じて新境地を見せ、その後は善も悪も演じ、主役も脇役もこなし、大作からB級映画まで出演する七変化の俳優となる。
1953年ウィスコンシン州の出身で、ウィスコンシン大学でドラマを研究していたが、中退して前衛劇団シアターXに加わり、その後は劇団ウースター・グループの創立メンバーとなる。舞台仕込みの演技力と身体能力の高さでどんな役にも果敢に挑戦する。
『ワイルド・アット・ハート』(1990)では邪悪な犯罪者の役だが、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)では復讐心を乗り越える軍の諜報部隊の役で優しい顔も見せた。また、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000)では血に飢えたヴァンパイア役を厚塗りメイクでユーモラスに演じて観客を驚かせた。黙っているとスラリとしていて(意外に)かっこいいが、ひとたび口を開くと危ない人にも見える。そんな特異な容姿が役作りにプラスになっているのだろう。役のふり幅の大きさがすごい。
21世紀に入ってからは欧米の作家性の強い監督とのコンビ作が増え、『アンチクライスト』(2009)のラース・フォン・トリアーとは3回組み、アメリカでは『グランド・ブダベスト・ホテル』(2004)のウェス・アンダーソンと4回、B級テイストの鬼才アベル・フェラーラとも『4:44 地球最期の日』(2011)等で何度か組んでいる。
過去にオスカー候補には4回ノミネートされており、『プラトーン』、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)では助演男優賞、『永遠の門 ゴッホの見た未来』(2018)では初の主演男優賞候補となった。
80年代以降、常に第一線で活躍し、近年は『ジョン・ウィック』(2014)、『オリエント急行殺人事件』(2017)等のヒット作にも出演。新作『ライトハウス』の演技も海外では絶賛された。ベテラン男優として数多くの出演作がありながら、まだ役者として伸びしろが残っているところがデフォーのすごさ。今後もあっと驚く演技で見る人を楽しませるのだろう。
私生活では演劇のパートナーだったエリザベス・レコンテとの間に1982年に息子生まれたが、2004年に別れ、2005年にイタリア人女優のジアダ・コクグランデと結婚している。
これは観るべき!デフォー作品をピックアップ!
人間味のあるエリアス軍曹を演じ初のオスカー候補に!
『プラトーン』(1986)
デフォーの出世作で初のオスカー候補作。悪役のイメージが強かった彼が初めて誠実な軍人を演じて芸域を広げた。オリヴァー・ストーン監督は邪悪な軍人役(トム・べレンジャーの役)も考えたそうだが、あえて従来のイメージを覆す役を与えたという。
悩める“人間”キリストに扮し物議を醸した作品
『最後の誘惑』(1988)
イエス・キリストに扮して新境地を見せる。スラリとした体形を生かした役作りをし、最後は十字架にはりつけになる場面も演じ切る。マーティン・スコセッシ監督の問題作で公開時は上映反対運動も起きたが、デフォー自身は純粋な気持ちで役にのぞんだという。
ジョン・クラーク役でハリソン・フォードと共演
『今そこにある危機』(1994)
CIAの工作員の役。コロンビアの麻薬カルテルの撲滅作戦の陰で進むさまざまな裏取り引きが描かれるが、切れ者に扮したデフォーは作戦のせいで見捨てられた歩兵のために一計を案じる。シャープな雰囲気が生かされ、かっこいいデフォーを見ることができる。
悪を裁く兄弟の真実を追うスメッカ―捜査官
『処刑人』(1999)
アメリカの必殺仕置人ともいえる双子の兄弟が主人公で、デフォーは彼らを追うFBIの捜査官役。あまりにも捜査にのめり込み、ぶっとんだ行動をとる。デフォーのはっちゃけた演技が堪能できる作品で、アメリカではカルト的な人気があり、後に続編も作られた。