最新インタビューを通して編集部が特に注目する一人に光をあてる“今月の顔”。今回はアカデミー賞でも主演女優賞候補となり新境地を開いた『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャリー・マリガン。素晴らしい脚本との出会いや難しい役の自己分析など様々な思いを語ってくれます。
カバー画像:Photo by John Parra/Getty Images for The Hollywood Reporter

“どうしてもキャシー役を演じたくて監督に会ったときにいつもなら禁じられていることをしてしまったの”

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キャリー・マリガン プロフィール

1985年5月28日、英・ロンドン出身。『プライドと偏見』(2005)で映画デビュー。『17歳の肖像』(2009)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ注目の若手女優に。その後も『わたしを離さないで』(2010)『ドライヴ』(2011)『華麗なるギャツビー』(2013)『未来を花束にして』(2015)など数々の話題作に出演。『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)では二度目のオスカー主演賞候補に。

キャシーをほかの女優が演じることを想像すると不安と怒りが込み上げてきた

第93回アカデミー賞で作品賞を含む5部門でノミネートされ、みごと脚本賞(監督も務めたエメラルド・フェネル)を受賞した話題作『プロミシング・ヤング・ウーマン』。本作で主演女優賞候補となったキャリー・マリガンも一躍再脚光を浴びている。

キャリーといえば、最初にアカデミー賞主演女優賞候補になった『17歳の肖像』(2009)での瑞々しい演技と個性が思い返されるが、今回はそんな彼女のイメージを覆すような主人公キャシーを熱演し、俳優としての躍進ぶりに驚かされる。

英国ロンドン出身で現在36歳。2012年に結婚したバンド“マムフォード&サンズ”のリードボーカル、マーカス・マムフォードとのあいだにふたりの子供もいる。そんな彼女が本作で演じたのは実家で両親と3人で暮らす29歳の独身女性キャシー。

かつては医学部に通い、前途有望な若い女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)と思われていた彼女が、今はコーヒーショップの店員として働きながら、夜な夜なバーやクラブに通っては、下心のありそうな男たちの関心を引いている。だがその裏にはあるワケが……

アカデミー賞を受賞しただけあって、このめったに出会えない素晴らしい脚本に一目ぼれしたキャリーは、『自分以外の女優がキャシーを演じると想像すると不安と怒りが込み上げてきた』と語っているほど入れ込んだ。

「私はこの脚本をロマンチック・コメディであり、悲劇、スリラーそしてユーモアもある映画だと説明するのを楽しんでいるわ。確かにストーリーがいろんな方向に進んでいくけれど、私はこんな脚本をこれまでに読んだことがないと思ったの。だから読んですぐにこれは絶対出演したいと思ったわ」

と、その時の忘れられない心境と共に、本作の解釈を語るキャリー。

画像: Photo by John Parra/Getty Images for The Hollywood Reporter
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「とはいったものの、心の中では『これを一体どうやって演じたらいいのかしら?』と不安もあったのは確か。でもそんな気持ちもエメラルド(フェネル監督)にあったときに『ああ、なるほど、わかったわ』と変わっていたの」

そこで彼女は普段は禁じられていることを冒してしまったと明かしてくれた。

「エメラルドと会って話してから10分もしないうちに『これをやると叱られるから25歳以来しないできたんだけど……エージェントにはまだ言う前だけど私はこの役を演じたいと思っているから』とぜひ演じたいという意向を彼女に伝えてしまったの。でもエメラルドの気持ちが変わる前に何としても契約をしてしまいたかった。

だってこの映画を見れば数え切れないほどの感情を味わうことができるでしょう。こんな風に複雑に物語展開が進んで、さらにはそのすべてをうまくまとめて、完璧にオリジナルな物を作ることができるのはエメラルドだけだと心から思えるわ」と、すっかりエメラルド・フェネル監督に心酔していることを隠さないキャリー。

いわばキャシーの生き方は彼女にとっての生存戦略なのね

さらに彼女が演じた特別なヒロイン、キャシーについても解説してもらおう。

「キャシーはもう30歳になるのに、他の同世代の女性たちが歩むような道と全く異なることに人生を使っている。彼女はある時期から抜け出せないでいるの。その時期にある事件が起きたことで、彼女の人生は狂ってしまった。その事件を過去のものにすることを拒んでいて先に進むことができないの。

いわば彼女の生きざまは生存戦略ともいえるもので、自分の身に何が起こって人生がどう変わってしまったかを整理するための彼女流のやり方なのかもね。キャシーはとても変わった人で、予測不能で、時には好ましくないこともする人だけど、本来はいい人なんだと思うわ」

と彼女なりの解釈を述べ、さらに分析の目はキャシーの部屋にまで及んでくる。

「キャシーが両親と住んでいる家の部屋も独特でしょう? 彼女にとってはあのティーンエイジャー風の寝室は心地いいんでしょう。あの部屋に閉じこもっていれば彼女の時も止まって、現実の世界と直面する必要がないという構図なんでしょうね」

またこのキャシーを囲む“悪い男”?たちも個性的な男優たちが演じている。キャリーはそんな彼らとの共演も苦ではなかったようだ。

「キャシーと恋仲になるライアンを演じたボー(バーナム)と思い切り楽しんだり、撮影の大半はロマンチック・コメディみたいだった。ハードなシーンでもまるでキャシーが楽しんでいるみたいに遊び心を持って演じられたわ。

ジェリー役のアダム(ブロディ)や、ニール役のクリストファー(ミンツ=プラッセ)もとても前向きだった。でも残念なことにこの2人は1日だけの共演だったの。ただ彼らは映画のすべてを理解してくれていた。私たちがどのように映画に向き合っているかも含めてね」

と、撮影現場自体は楽しいものだったことを回想する。

「彼らは面白いだけでなく、不快な要素もある役を受け入れて、自分のものにしていた。かっこいい男性を演じるのは簡単でも、弱い悪者を演じるというのは簡単なことではないわ。彼らが弱さを前面に出すシーンでは本当に見事な演技をしていたと思う」

映画では男たちを懲らしめる側だが、共演者には絶賛を惜しまないキャリーだった。

プロミシング・ヤング・ウーマン
2021年7月16日(金)公開

画像: ©2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved. ©Universal Pictures ©2020 Focus Features
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©Universal Pictures ©2020 Focus Features

昼はコーヒーショップの店員として働き、平凡な人生を送っているように見えるキャシーは、夜になるとバーやクラブへ出向き、泥酔した女性を演じては手を出してくる男たちに鉄槌を下す復讐を続けていた。彼女はかつて優秀な医学生だったのだが、未来を嘱望された彼女が生き様を変えるある事件が起きたのだ……

監督・脚本・製作:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン
配給:パルコ

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