SCREENアーカイブス誌でも絶大な人気を誇るマッツ・ミケルセンの最新作『アナザーラウンド』が待望の日本上陸!第93回アカデミー国際長編映画賞に輝いたトマス・ヴィンターベア監督の感動的なスピーチも記憶に新しい本作、その見どころを余すことなくお伝えします。

マッツ・ミケルセントマス・ヴィンターベア Wインタビュー

マッツ・ミケルセン

体操選手やダンサーを経て、31歳の時に『プッシャー』(1996)で長編映画デビューを果たす。『キング・アーサー』(2004)でハリウッド進出以降、卓越した演技力で母国とハリウッドを股にかけ活躍。親日家としても知られ、4度の来日経験あり。1965年11月22日生まれ。

トマス・ヴィンターベア

1996年に長編映画監督デビュー。ラース・フォン・トリアーらと立ち上げた映画運動“ドグマ95”の第1作『セレブレーション』(1998)で世界的な評価を得る。カンヌやベルリンなど映画祭常連のデンマークを代表する監督の一人。1969年5月19日生まれ。

── 監督の作品はいつも「~だったらどうなるか」というテーマを軸に描かれています。今回はどこから着想を得たのですか。

トマス・ヴィンターベア:まずは自分の国をよく見ることですかね。私達デンマーク国民はお酒をたくさん飲みますが、それでも健康や正しい人生の在り方、そして私達の言動について考えたりよく話し合ったりします。そこである哲学者の「人間は血中に十分なアルコールを持たずに生まれてきている」という考えを盗むことを思いついたんです。お酒を少し飲むことで心を開けてポジティブになり、他の人への受容性も高まって創造力も豊かになることを主張している人がいるんです。

また世界史のある部分にも注目していて、チャーチルが25万人の市民を戦争に送り込んだ時に、少しお酒を飲んでいたのではないかと、よく話していました。チャーチルはたくさんお酒を飲んでいたわけで、その時に飲んでいたとしてもおかしくはありませんから。でももし彼がその時にお酒を飲んでいなかったら、果たして同じことをしていたでしょうか。そうなると世界の歴史は変わりますよね。

── 世界中の人がお酒を飲みますが、デンマークならではの飲酒文化はありますか。

マッツ・ミケルセン:例えば、仕事の日はランチでお酒を飲んでまた職場に戻りますし、デンマーク人はボトルワインがあったら、そのワインがなくなるまで誰も帰りません。そういったところは他の国とは違うんじゃないでしょうか。

トマス:『天才作家の妻40年目の真実』の脚本を書いたジェーン・アンダーソンが昔デンマークに遊びに来た時、僕の娘に「今日は何をするの?」と聞いたんです。すると娘が「1箱のビールを飲み切るまで湖の周りを歩き回るの」と答え、ジェーンは僕を見ながらとても驚いていました。「警察とかに捕まらないの?」「先生もそこにいるよ」という二人のやりとりを聞いて、この国はやっぱりちょっとおかしいんだなって思いました。

マッツ: 日本に行くとまた別の話があって、商談の時は上司と同じくらい飲まなくてはならないので、もしその上司がものすごくお酒が飲める人だったらそれはもう大変なことになります。それもまた違うお酒の文化ですよね。

トマス:でも本作はただのお酒の映画じゃなくて、“生きること”についての映画です。もちろん“飲酒への祝福”に関する部分もありますが、もっと深い点で“人生”について表現するようにしました。

── 本作の主人公はお酒をきっかけに何かが弾けて、それを楽しむようになります。マッツさんはどのようにその変化を演じられましたか。

マッツ:もしその変化が徐々に変わるものだったら少しは演じやすかったと思いますが、急激な変化だったので大変でした。血中アルコール濃度が0.1%だったらどうなるか、0.2%だったらどうなるか話したりしました。まあ私達にはお酒の十分な経験がありますからね(笑)。この映画はお酒から始まりますが、お酒は本当に小さな部分で“人生”が映画の大部分を占めています。

── 役者がお酒を飲む演技はよく見ますが、実際には飲んでいませんよね。

マッツ:一般的に役者さんが酔う演技をしている時は“酔っているけど酔っていないふりをしている人間”の演技をしています。その場合はそこまで難しくありません。

ただものすごく酔っている人って狂って見えるじゃないですか。その演技をするのはとても難しいことで、私達は数日間かけて酔い方や酔っ払いの行動などをリハーサルしました。もちろん見ていておかしいことですから、お互い笑い合いながらね。

トマス:血中アルコール濃度に合わせて演技をするのはとても難しいことで、それをやり遂げてくれた彼らは素晴らしい俳優です。

Photo by Julien Lienard/Contour by Getty Images

アナザーラウンド
2021年9月3日(金)公開

デンマーク=スウェーデン=オランダ/2020/1時間57分/クロックワークス
監督:トマス・ヴィンターベア
出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネヴィー

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB,Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

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