作品選びにお悩みのあなた!そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。変異ウイルス対ワクチンの攻防。これを予見するようなSF小説を思い出しつつ地球の未来に思いを託す日々。

金子裕子
映画ライター。自粛していた〈オンデマンドでドラマ〉を解禁したら沼! 明け方就寝生活に猛省中です。

北島明弘
映画評論家。家の近所の境川にカワセミが出没。まさに緑の宝石。週に2、3羽見られて眼福眼福。

土屋好生オススメ作品
クーリエ:最高機密の運び屋

キューバ危機を背景に良く練り上げられた脚本から生み出されたリアルな人間ドラマ

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽3

あらすじ・概要

1960年代初頭、キューバの核ミサイル基地建設をめぐってソ連とアメリカが鋭く対立、第3次世界大戦の危機に見舞われた。その裏で暗躍するスパイのなかに1人の有能なイギリス人セールスマンがいた…。

ひとことでいえば、東西冷戦時にスパイが暗躍するサスペンス劇なのだが、コトはそれほど単純ではない。なにしろ主な舞台は1962年のキューバ危機というのだから。そこで描かれるのは007張りの手に汗握るスパイ合戦でもなければ、ミステリアスな真相究明ドラマでもない。

あくまでもキューバ危機という歴史上の大事件を正面から見据えつつ、そこで機密文書のクーリエ(運び屋)となったイギリス人セールスマンに焦点を絞るのだから面白くないわけがない。

画像: キューバ危機を背景に良く練り上げられた脚本から生み出されたリアルな人間ドラマ

これは実話をベースにしたクーリエのドキュメンタリーでもないし、祖国を裏切るソ連軍大佐の心理劇でもない。よく練り上げられた脚本から生み出されたリアルな人間ドラマなのだ。スパイという人物像とは異質のクーリエという道を選んだ、いや選ばざるを得なかった男の真摯な生き方。

スパイというイメージからほど遠い1人の男の、そしてその男にのめり込んでいくもう1人の男の苦悩と孤独、友情と信頼がじわじわと伝わってくる。

©2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINEMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

金子裕子オススメ作品
白頭山(ペクトゥサン)大噴火

エンタメ要素、キャラクターの魅力を詰め込んだ韓国映画のすご技に感服させられる

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像5/音楽4

あらすじ・概要

白頭山が噴火し半島崩壊の危機が勃発。地質学者カンは次の大噴火を鎮静化するために核兵器による地底爆発を提案。韓国軍大尉チョは作戦実行の命令を受け、核兵器の在り処を知る北朝鮮工作員リに接触するが。

急成長を遂げる韓国映画の“スゴ技”にひたすら感服。朝鮮半島崩壊の危機をもたらす地震のオープニング映像はド迫力。地質学者が提案する突拍子もない危機回避策に説得力をもたせる理論構築も見事なら、3.48%の成功率を信じてミッションに命をかける韓国軍大尉とスパイが育む絆の描き方も秀逸。

もちろん韓国映画の得意技=家族愛もユーモアも加味されて、壮大なデザスタームービーにしてスパイ映画の緊張感もバディものの面白さもあり。

画像: エンタメ要素、キャラクターの魅力を詰め込んだ韓国映画のすご技に感服させられる

要は、エンタメ要素がてんこ盛りということ。それも、かなり洗練された手法で。そしてなにより、キャスティングが素敵! 強面も喜劇もこなす人気スターのマ・ドンソクが知的な学者に扮しているのも新鮮なら、演技派ハ・ジョンウが嫌々ながらも任務をきっちりこなす大尉に扮してヒロイックなのに男の可愛らしさも披露。

しかも、二重スパイをクールにミステリアスに演じるのが演技派スターのイ・ビョンホンとくればダメ押し! その繊細な演技、美しいフォルムの肉体、強烈な存在感……魅入るばかり。

©2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

北島明弘オススメ作品
テーラー 人生の仕立て屋

ギリシャの生真面目な仕立て屋が人間的に成長していく様を見ているうちに心が温まる

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要

高級紳士服専門のテーラーが屋台で出張販売、さらにはウェディング・ドレスをはじめ女性のドレスを作りだした。父は渋い顔だが、変わらなければ明日はないと継続し、女性陣の助けもあって道が開けてくる。

テーラーという言葉からは、顧客の体を正確に採寸し、高い技術で生地を裁断・縫製して、紳士服を仕立てる人というイメージが浮かぶ。だが、経済が崩壊して、国民の多くが困窮生活を強いられているギリシャで、高価な紳士服が売れるはずもない。

36年間、父から受け継いだ店を守ってきたニコスも背に腹は代えられず、屋台を作って街に出る。でも安売りはしないので、客足はさっぱり。女性客からのウェディング・ドレスの注文に二の足を踏んだものの、思い切って作ってみると、これが好評で、新たな注文も入ってくる。

画像: ギリシャの生真面目な仕立て屋が人間的に成長していく様を見ているうちに心が温まる

鋏、型紙、チャコ、ミシンといった裁縫道具、生地棚といかにも洋服屋らしい店舗と、手作り屋台での街頭販売。内と外の描写の対比が効果的。

近くのロシア人一家の幼い娘、母親との交流を通じてニコスは、それまでの殻から解放され、人間的にも成長していく。どん底状態でも目標を定め、真面目にやり通せば、明るい未来がやってくる。見ていて心温まる作品だ。

©2020 Argonauts S.A. Elemag Pictures Made in Germany Iota Production ERT S.A.

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