『ハロウィン』生みの親にして、ホラー/SF映画の巨匠ジョン・カーペンター。デビュー作『ダーク・スター』から多くのファンを熱狂させ続ける彼の軌跡と、彼を知る上で欠かせない6本の映画からその魅力に迫りましょう。(文・久保田明/デジタル編集・スクリーン編集部)
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父親から継いだ音楽の才能
西部劇・SF好きが映画の原点

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『13日の金曜日』(1980)のジェイソン・ボーヒーズ。『エルム街の悪夢』(1984)のフレディ・クルーガー。そして『チャイルド・プレイ』(1988)の殺人人形チャッキー。80年代のホラー映画ブームを支えたホラー・キャラクターの先陣を切ったのが、1978年に登場し、世界中で大ヒットを記録した『ハロウィン』の白マスク男マイケル・マイヤーズだった。

1973年公開の『エクソシスト』などそれ以前のオカルト映画と違い、若者たちを次々襲う怪物キャラというある種ポップなアイコンを作り上げた『ハロウィン』で、一躍ハリウッドの人気監督になったのがジョン・カーペンター監督。この才人はどんなキャリアを積み上げてきたのだろうか。

ジョン・カーペンターは1948年の1月16日、ニューヨーク州で生まれた。父親のハワード・ラルフ・カーペンターは音楽教授で、彼から音楽の才能を受け継いだ。幼いころから映画が好きで、ハワード・ホークス監督やジョン・フォード監督の西部劇、『禁断の惑星』などのSF映画に夢中になった。

画像: 長編デビュー作『ダーク・スター』より Photo by FilmPublicityArchive/United Archives via Getty Images

長編デビュー作『ダーク・スター』より

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高校入学前から8ミリ映画を作り始め、1968年にジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス監督らを輩出したことで知られる名門・南カリフォルニア大学の映画芸術学部に入学。そこで何本かの短篇映画を作ったのち、1974年に宇宙航行中の隊員の冒険を描いた自主製作のユーモアSF『ダーク・スター』で長篇デビューをした。この作品で組んだダン・オバノンはのち名作『エイリアン』の原案・脚本、ホラー・コメディ『バタリアン』の演出で知られることになる俊才である。

低予算ながら記録的大ヒット
ジャンルを開拓した『ハロウィン』

低予算のアクション映画『要塞警察』につづいて『ハロウィン』を発表。これはプロデューサーのアーウィン・ヤブランスが持っていたベビーシッターがストーカーに狙われるというスリラー映画の企画を、カーペンターがハロウィンの夜に殺人鬼がやってくる筋立てのホラー映画に仕立て直したもので、スラッシャー・ムーヴィー(切り裂き映画)のジャンルを切り開いて大ヒット。史上最も収益を上げたインディペンデント映画のひとつになった。

つづいて取り組んだTVムービー『ザ・シンガー』はエルヴィス・プレスリーの伝記ドラマで、この作品でプレスリーを演じた俳優カート・ラッセルとのコラボレーションは『ニューヨーク1997』『遊星からの物体X』『ゴーストハンターズ』『エスケープ・フロム・L .A .』とつづいた。

画像: 盟友カート・ラッセルとの近影 Photo by Emma McIntyre/Getty Images for TCM

盟友カート・ラッセルとの近影

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1982年の『遊星からの物体Ⅹ』は極寒の南極基地を舞台に正体不明のエイリアンとの戦いを描くSFスリラーだが、アメリカ公開が奇しくも同じ宇宙からの訪問者映画であるスピルバーグ監督の『E .T .』とぶつかり、悲観的でダークなこちらは興行が振るわなかった。しかし現在でも最高峰と思われる素晴らしい特殊効果(アナログSFX)や閉鎖世界でのスリリングなストーリー展開が評価され、今日では多くのファンを持つカルト映画になっている。

近年は音楽活動に意欲的
ゲーム・ファンの一面も

2010年発表のサスペンス・ホラー『ザ・ウォード/監禁病棟』以来演出作は途絶えているが、リブート企画である『ハロウィン』と『ハロウィンKILLS』には挿入曲を提供。ゲーム・ファンとしても知られ、宇宙船という密室空間でエイリアンと戦う過激な海外ゲーム「デッドスペース3」がお気に入りで、これを映画化してみたいと発言している。商業用ヘリコプター・パイロット免許の持ち主。自分の作品にしばしばヘリコプターを登場させており、撮影時には自ら操縦桿を握ることも多かったという。

長らくSF/ホラーのジャンルで活躍してきた才人監督。ほとんどの作品をシネマスコープの横長大画面で撮る映像派としても知られている。

カーペンターを知るなら、まずはこの作品!

ハワード・ホークス愛あふれる一本
『要塞警察』(1976)

画像: ハワード・ホークス愛あふれる一本 『要塞警察』(1976)

低くクールに流れるテーマ曲がカッコいい! 引っ越しを控え、手薄になった警察署に凶悪ギャングたちが襲いかかる現代アクション。

ハワード・ホークス監督の名作西部劇『リオ・ブラボー』の翻案。編集のジョン・T・チャンスは、脚本・音楽も手がけたカーペンター監督の変名。『リオ・ブラボー』で主演を務めたジョン・ウェインの役名だった。2005年に『アサルト13 要塞警察』として米仏合作でリメイクされている。

監督・脚本:ジョン・カーペンター
出演:オースティン・ストーカー、ダーウィン・ジョストン、ローリー・ジマー
Photo by Silver Screen Collection/Getty Images

孤高のヒーロー・スネーク誕生!
『ニューヨーク1997』(1981)

全米の囚人を集める巨大な監獄と化したマンハッタン島。そこで行方不明になった大統領を救出するため、悪には悪をと、政府は犯罪者のスネークを潜入させる。魔窟となった世紀末シティを舞台にした近未来アクション。

主人公を手助けする女マギー役のエイドリアン・バーボーは当時のカーペンター監督の奥さん。カート・ラッセル演じる片目の主人公スネークは、日本発の人気ゲーム「メタルギア」シリーズのキャラクターに影響を与えた。

監督・脚本:ジョン・カーペンター
脚本:ニック・キャッスル
出演:カート・ラッセル、リー・ヴァン・クリーフ、アイザック・ヘイズ
Photo by Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

生々しい特撮による色褪せない恐怖
『遊星からの物体X』(1982)

画像: 生々しい特撮による色褪せない恐怖 『遊星からの物体X』(1982)

1951年製作のクラシックSF『遊星よりの物体X』のリメイク作品。南極基地の閉ざされた空間で、外宇宙から来た寄生エイリアンが隊員たちに襲いかかる! 乗っ取られたヤツは誰だ? 銀世界が疑心暗鬼と悲鳴のパニック地獄になる。

シベリアン・ハスキー犬の顔がメリメリと裂けたり、生首に足が生えて歩きだしたり。アニマトロニクス(仕掛け人形)を駆使した特撮が、CGとはひと味ちがう生々しさ。一見の価値あり。

監督:ジョン・カーペンター
脚本:ビル・ランカスター
出演:カート・ラッセル、A・ウィルフォード・ブリムリー、ドナルド・モファット
Photo by Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

ロマンチックSFでも光る独自色
『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984)

画像: ロマンチックSFでも光る独自色 『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984)

ボイジャー探査機に誘われ、地球にやってきた心やさしき宇宙人。他界した夫そっくりに姿を変えた彼に出会った女と、政府組織に追われる迷子の宇宙人の逃避行が始まる。

カーペンター監督としては珍しいロマンチックSF。でも探査機がローリング・ストーンズの名曲「サティスファクション」を流して宇宙を飛んでいたりと、音楽好きの監督の小技が効いている。主演のジェフ・ブリッジスがアカデミー主演男優賞候補になった。

監督:ジョン・カーペンター
脚本:ブルース・A・エヴァンス、レイノルド・ギデオン
出演:ジェフ・ブリッジス、カレン・アレン、チャールズ・マーティン・スミス
Photo by Mondadori via Getty Images

クンフー×妖怪の先見性ある痛快作
『ゴーストハンターズ』(1986)

チャイナタウンに現れた妖魔王。彼に恋人をさらわれた男たちのハチャメチャ奪還作戦が始まる。『ゴーストバスターズ』と同時期のファンタジー・アクション。こちらはあまりヒットしなかったが、実は時代を先取りした痛快作で、ファイト・コレオグラファー(格闘振付)はのちジャッキー・チェンの『ラッシュアワー』や『ムーラン』に参加することになるジェームズ・リュー。登場人物は大半がアジア系で、本格的なクンフーが楽しめる。

監督:ジョン・カーペンター
脚本:ゲイリー・ゴールドマン、デヴィッド・Z・ワインスタイン
出演:カート・ラッセル、キム・キャトラル、デニス・ダン
Photo by Dirck Halstead/Getty Images

大人を支配する子供たちの恐怖
『光る眼』(1995)

画像: 大人を支配する子供たちの恐怖 『光る眼』(1995)

カリフォルニア州の海沿いの小さな町。ある日住人全員が意識を失い、6時間後に目覚めると女性がみな妊娠している怪事件が起きる。やがて次々と子どもが生まれるが、彼らはどこかが人間でなかった……。

クラシック映画『未知空間の恐怖/光る眼』をリメイクしたSFスリラー。事態を打開しようと奮闘する医師に『スーパーマン』のクリストファー・リーヴ。公開直後に乗馬中の事故で大怪我を負い、これが最後の主演作になってしまった。

監督:ジョン・カーペンター
脚本:デヴィッド・ヒメルスタイン
出演:クリストファー・リーヴ、カースティ・アレイ、マーク・ハミル
Photo by Universal/Getty Images

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