カバー画像:©2021 Paramount Pictures. Hasbro,G.I. Joe and all related characters are trademarks of Hasbro. © 2021 Hasbro. All Rights Reserved.
杉山すぴ豊
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。
マーベル・コミックにも影響を与えた「007」
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』 がついに劇場公開!コロナ・ウィルスは完全に収まっていませんが、ちょっとずつ日常が戻ってきた。ボンドがその先駆けになってくれましたね!
「007」がエンタメに与えた影響は大きい。60年代の映画『サイレンサー』シリーズ(4作目にシャロン・テートが出演。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)でも触れられていました)やTVの『0011ナポレオン・ソロ』(映画『コードネームU.N.C.L.E.』(2015)の元ネタ)はまさに「007」を意識したスパイ活劇です。こうした流れを受けマーベルも元々戦争コミックのキャラだったニック・フューリーを秘密組織のシールドのエージェントとして65年に再デビューさせます。そう、ニック・フューリーはある意味マーベル版007でした。
そういえば『ブラック・ウィドウ』は『007/ムーンレイカー』へのオマージュがあるし『シャン・チー/テン・リングスの伝説』では『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のメインのボンド・ガール役ミシェル・ヨーと『007は二度死ぬ』のボンド・ガールの一人ツァイ・チンが出演(ケイティのおばあちゃん役)。こういうところにも「007」とマーベルの縁を感じますね。
スネークアイズはマーベル生まれ?
その後マーベルは秘密組織シールドと悪の組織ヒドラ党の戦いをコミックで膨らませていきます。このノウハウに目を付けたのがおもちゃ会社のハズブロ。彼らは男子向けの着替ミリタリー人形だったG.I.ジョー・ブランドを新設定に基づくアクション・フィギュアに変えようとします。そこでマーベルに“原作”を頼み、コミックも発売しアニメ化もするという戦略をとります。
こうして生まれたのが『地上最強のエキスパートチーム G.I.ジョー』。正義の組織G.I.ジョーと悪のコブラ党の戦いという展開はまさにシールドVSヒドラ党。G.I.ジョーは人気作となり、それをベースにした実写映画『G.I.ジョー』『G.I.ジョー バック2リベンジ』が作られます。
そしてこの秋最新作の『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』が日本公開。前2作とは設定・キャスト等を一新したリブート作。G.I.ジョー・チームの人気キャラ、スネークアイズが主人公。彼がチームに入るまでの前日譚の形をとっています。このキャラは忍者がベースでマスクを被り素顔を見せず、さらに“喋らない”のです。だからすべてが謎めいていて、その彼になにがあったのか?を描きます。
今回の映画はコミックとも過去の実写映画とも違うオリジン(誕生秘話)話。『クレイジー・リッチ!』(2018)のヘンリー・ゴールディングが主役を演じ、日本で忍者の修行をする、というすごい設定(笑)。ふんだんに日本ロケした作品です。ハリウッドらしい“日本はいまだに忍者がお城に住んでいる”的なトンデモ描写も多々ありますがヒーローアクション映画として楽しめる。
特に今回『るろうに剣心』シリーズのアクション監督・谷垣健治さんが参加しているので、剣劇×カーチェイス×銃撃戦といった見せ場は見事。先日、マーベル版のコミックを担当し本作にも監修として参加しているラリー・ハマ氏にオンラインでインタビューする機会がありました。コミックを担当した80年代当時、忍者=アジア系=悪役というステレオ・タイプを崩したくて、ヒーロー忍者であるスネークアイズを生みだしたそうです。
現代的テーマを盛り込み蘇えるホラー映画たち
さて今月はホラー映画にも注目。『キャンディマン』『ハロウィン KILLS』。前者は1992年の同名作、後者は1978年版の“続編の形を借りたリメイク”となっています。過去作を知らなくても全く問題ないですが、前の作品を知っている人にとっては“そうくるか!”の連続。
ともに不死身の殺人鬼の恐怖を描きますが『キャンディマン』は黒人の間の都市伝説という設定を絡めブラック・ライブズ・マター、『ハロウィン KILLS』は恐怖で小さな町のコミュニティがパニック状態になっていく、と“いまの時代ならではのテーマ”を盛り込んでいたのが興味深い。とはいえどちらも説教くさい映画ではなくホラーの醍醐味をたっぷり味わえますよ!