『マトリックス』シリーズの誕生はその後の映画製作に大きな影響を与えたことも忘れてはなりません。21世紀の映画に一つのセオリーを作った『マトリックス』が起こした映像革命の意味をもう一度振り返っておきましょう。(文・平沢薫/デジタル編集・スクリーン編集部)

日本製アニメの美学を、スタイリッシュに実写映像

画像: キャラクターの超人的な跳躍力が革新的だった (『マトリックス』(1999)より)

キャラクターの超人的な跳躍力が革新的だった (『マトリックス』(1999)より)

1999年の『マトリックス』の出現は、ハリウッドのSFアクション映画全体を変貌させた。今では当たり前になってしまっている表現が、実は『マトリックス』の影響によって一般的になったという事例は多い。その代表的な一例が、日本製アニメーション/日本製コミックの美学、表現を取り入れた映像だ。『マトリックス』三部作の監督2人はもともとコミック・オタクで、日本製アニメや日本製コミックが大好き。2人が大好きな作品のカッコイイと思うシーンを、そのまま実写映像化したのが『マトリックス』三部作なのだ。

押井守監督『GHOST INTHE SHELL/攻殻機動隊』の、サイバースペースへの侵入、サングラスのクールなヒロイン像、超人的な跳躍、銃撃戦で落下する膨大な数の薬莢。大友克洋の『AKIRA』のコミック&アニメの崩れるコンクリート、変形する身体。川尻善昭監督の『獣兵衛忍風帖』の日本刀アクション。それらを実写にした『マトリックス』の映像は、後のSFアクション映画で、何度も似たようなシーンを見ることになった。

画像: サイバースペースなどの描き方も日本のコミック的?(『マトリックス』(1999)より)

サイバースペースなどの描き方も日本のコミック的?(『マトリックス』(1999)より)

ちなみに、このアニメ/コミックの美学を実写化するため、監督たちが三部作のコンセプチャル・デザイナーに迎えたのが、大友克洋に影響を受けた米コミック作家、『ハード・ボイルド』のジェフ・ダロウ。彼が新作『マトリックス レザレクションズ』に参加していることも見逃せない。

VFXとカンフーを融合させた革新的なアクション映像

画像: バレットタイムと呼ばれた表現法は以後定着 (『マトリックス』より)

バレットタイムと呼ばれた表現法は以後定着 (『マトリックス』より)

『マトリックス』で衝撃的だったのは、銃撃されたネオが、スローモーションでのけぞって銃弾を避けるシーン。被写体をカメラで囲んでアングルの動く方向に連続撮影するこの手法は〝バレットタイム〞と呼ばれ、後に『チャーリーズ・エンジェル』(2000)『ソードフィッシュ』(2001)など多数の映画で使われた。これはあまりに特徴的な表現なのでこの頃はあまり見ないが、もう一つ、この三部作が一般的にしたアクション演出がある。それは、ハリウッドの最新VFX技術と、東洋格闘技のコリオグラフィー(振り付け)を融合させたアクションだ。

画像: VFXとカンフーを融合させたアクションが話題に( 『マトリックス リローデッド』(2003)より)

VFXとカンフーを融合させたアクションが話題に( 『マトリックス リローデッド』(2003)より)

その実現のため、コリオグラフィーは香港映画の名手が担当。監督たちが大好きなカンフー映画『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳のユエン・ウーピンが手掛けた。さらに、ネオたちの超人的な身体能力を描くため、香港映画のワイヤーワークも多用。まさにハリウッドのVFXと東洋の格闘映画の演出が見事に融合した映像を作り上げた。

こうした演出は、今や格闘アクション映画の常套手段。そもそも現在のこのジャンルの人気監督2人は『マトリックス』三部作のスタント出身。『ジョン・ウィック』シリーズの監督チャド・スタエルスキは三部作後半二作の格闘技スタント・コーディネーター。同シリーズの製作に参加し『デッドプール2』(2018)『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)を監督するデヴィッド・リーチも三部作後半2作のスタント出身。彼らのアクション演出は『マトリックス』直系なのだ。

This article is a sponsored article by
''.