ラッパーとしてデビューし、俳優に進出して大成功
これまで二度アカデミー賞主演男優賞候補になり、今回も実在人物を演じた「ドリームプラン」(2021)で三度目の主演賞候補入り間違いなしと言われ、すでにゴールデングローブ賞は四度目のノミネートでついに受賞したのが、コメディからアクション、シリアスなドラマまでなんでもこなすウィル・スミスだ。
ラッパーとして1987年にアルバムデビューしたスミスは、1990年からはTVのシットコムで俳優活動も始め、1992年には「ハートブレイク・タウン」で端役ながら映画デビューも果たした。そんなスミスがハリウッドのトップスターに駆け上ったのは、マーティン・ローレンスと共演したコミカルなアクション「バッドボーイズ」(1995)の大ヒットでのこと。以後はブロックバスター・ヒット「インデペンデンス・デイ」(1996)、都市伝説的存在をモチーフにしたSF「メン・イン・ブラック」(1997)と次々ヒット作を送り出し、ド派手なアクションとコミカルな演技の絶妙のブレンドでファンの心をがっちりつかんだ。
近年も「スーサイド・スクワッド」(2016)のデッドショット役、「アラジン」(2019)のジーニー役、「ジェミニマン」(2019)での30歳も年の離れたクローンとの二役など、印象に残る演技ぶりを見せてくれている。
一方、演技派としても、元世界ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリに扮した「アリ」(2001)で初めてオスカーにノミネートされ、その五年後にはこれも実話の映画化「幸せのちから」(2006)で再びオスカーの主演男優賞候補になっている。
またゴールデングローブ賞ではこの二作でドラマ部門男優賞候補になったのに加え、実在の医師に扮した2015年の社会派ドラマ「コンカッション」でも候補になっており、今回受賞した「ドリームプラン」は4度目のノミネートだった。
またプロデューサーとしての活躍も見逃せない。今回の「ドリームプラン」でも製作の一翼を担っているが、それ以前にも自身の出演作では「アイ,ロボット」(2004)で製作総指揮を務めたのを皮切りに、「最後の恋のはじめ方」(2005)「幸せのちから」(2006)「7つの贈り物」(2008)「アフター・アース」(2013)「バッドボーイズ フォー・ライフ」(2020)などで製作を務めており、出演作以外にもロバート・デ・ニーロ主演の「ショウタイム」(2002)で製作総指揮を、息子ジェイデン・スミスの出たジャッキー・チェン主演の「ベスト・キッド」(2010)やブロードウェイのヒット・ミュージカルのリメイク「ANNIE/アニー」(2014)などでは製作で参加している。
プライベートでは一度の離婚を経て(この時、長男トレイが誕生)、1997年に女優のジェイダ・ピンケットと結婚、息子ジェイデンは俳優(「幸せのちから」「アフター・アース」で共演)やファッションモデル、娘ウィロー(2007年の「アイ・アム・レジェンド」で6歳の時に共演)は歌手などでマルチに活躍中。1968年9月25日、ペンシルバニア州フィラデルフィア生まれなのでまだ50代前半、まだまだこれからも脂の乗った演技を見せてくれそうだ。
(インタビュー)新たな自信作『ドリームプラン』を語る
“ これはテニスの映画じゃない。家族の映画であり、勝利についての映画なんだ ”
ドリームプラン
2022年2月23日(水・祝)公開
アメリカ/2021/2時間24分/ワーナー・ブラザース映画
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン
©2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
ウィル・スミスが主演と共に製作にも参加し、二人の女子テニス世界チャンピオンを育てた父親を演じる伝記ドラマ。世界チャンピオンとなるビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹にはオーディションで選ばれたサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトンが扮し、二人が成長してからのコーチ役でトニー・ゴールドウィンとジョン・バーンサルが共演している。監督はこれが劇場用長編三作目のレイナルド・マーカス・グリーン。
女子テニス界にいまもその名を残すビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹、二人を育てた父リチャード(スミス)はテニス未経験だったにもかかわらず、生まれてくる娘二人を世界チャンピオンに育てようと、誕生前から七八ページもの計画書を作成、妻と共に綿密な指導で娘たちの技能を伸ばしていく。やがて成長した娘たちにプロのコーチをつけようと、リチャードは二人を連れ名コーチと名高い男の元を訪れるが……
ウィル・スミスはまず注目の新作「ドリームプラン」についてこう説明してくれた。
『これは叶わないような夢の物語なんだ。たいていの場合、夢というものは叶わないものだ。でも実現できそうだと感じたり、叶うと信じられるならば、やってみようと思うこともあるだろう。リチャードとその家族の物語は、アメリカンドリームの実現を描いているんだ。
ビーナスとセリーナのようなことは滅多に起こらない。だが、この物語の根底にあるのは、最高の自分になりたいという強い思い、そして環境に恵まれなかったとしても、強い精神力があれば逆境を乗り越えられるということだ。これはすべての人々に贈る、夢の実現の物語なんだ』
さらに続けて主人公の家族について分析を始めた。
『この物語と家族には、その中心に信仰があることが美しいと思う。信仰という点ではリチャードの妻オラシーンが家族の中心的存在であり、リチャードは夢に向かうための推進力なんだ。この家族は世間をあっと言わせた。彼らはひたすら目標に向かって進んでいた。そのおかげで自分たちのしていることに自信が持てたんだ。彼らの優先順位はまず神様、次に家族、教育、そしてテニスだった。彼らには特別で衰えることのない意欲を感じた』
スミスはリチャードを演じるための役作りについても語った。
『彼が歩んだ道筋を辿ろうとした。彼は最初、テニスについて何も知らなかった。ビーナスが生まれる前の2年間、彼とオラシーンはテニスについて独学で学び、一緒にそのスポーツを習得したんだ。家族で学んでいて、その一歩一歩が新しいことばかりだった。何もかもが真新しく、リチャードは自分のことを素質のあるアスリートだと思い込む。そして自分が生きている間に、子供たちをプロとしてプレイさせることができると思ったんだ』
そして最後にこの映画が描いたものをまとめてくれた。
『これはテニスの映画じゃないんだ。家族の映画であり、信念、愛情、そして勝利についての映画なんだ。僕は過去に何度か人の人生を描いた映画を作ってきたけど、その時に気づいたのは、物語で語られる家族という観客が存在すること。姉妹の一人で製作総指揮のイシャ・プライスが毎日現場にいて、ビーナスとセリーナがすべての段階で関わってくれたことが必要不可欠だった。そして最終的に映画を見たウィリアムズ一家にハイタッチをしてもらって、〝やったぞ!〞と思ったね』