成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
共演のトム(ホランド)には先輩面してしっかりしごいてあげた?
新作『アンチャーテッド』(2022)の役のオファーを受けた時のマーク・ウォールバーグの反応が彼らしくておかしかった。
「普通はね、映画って企画から6年ぐらいかかってやっと具体的なプロセスに入るものなんだが今回は数ヶ月でスピーディーに決まったみたいで、突然仕事の依頼が来てね。一応「アンチャーテッド」のゲームは少しは知っているから「ふむ、ふむ。それで共演するのは誰かな?」って聞いて僕としては、ジャック(ニコルソン)とか、ロバート・デ・ニーロなんて期待したのだが「トム・ホランド」って答えて来て、あせったね。じゃ、僕は誰の役を演じるんだ? 何だ、僕が年寄りのサリーを演じるのか! ネイサンの役がトムなんだ! いやあ、考えてみれば僕ももう今年で51歳だからねえ。勝手にアクションの主人公は自分にやって来るって過信していたから」
ちょび髭ルックが何となくコミカルなマークの、相変わらずの半分おふざけトーンでインタビューが始まった。
「実はワイフが僕のムスタッシュ(口髭)が大嫌いで、寝室に入れてくれないんだ。だからバレンタイン・デーには盛大に花を贈ったのだがあまり効果が出なくてね。夕食の予約を4時半にしたら、そんなに早くお腹が空かないとごねていた。僕は激しいエクササイズとダイエットの最中だから、午後4時半に最後の食事を取らないと駄目なんだ。
ま、ともかく髭を剃る夜に僕らのロマンスがカムバックするはずなんだけどね。それでも、妹が髭姿の僕は父に似ていると言ってくれて、そう言えばそうだ! なんて鏡を見て父親の表情を真似てみたり、しばらくは父に対する尊敬のスピリットで剃らないでいようかなあと考えたりしている」
トム・ホランドについて質問すると、
「何たって、4億ドル(『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022)の記録的興行収入を指す?2月下旬では7億ドルを越えている)のドル箱スターだからこのアドバンテージを利用しない訳にはいかないだろう。彼は若いから、苦しいアクションを全部任せてやった。毎日ハーネス(墜落制止用器具)を付けて、空中を飛んだり、冷たい水の中に放り込まれたり、体中が傷だらけになっていた。おまけに無意味にシャツを脱いで半裸の肉体美を見せびらかしたりね。まるっきり僕がしてきたルートをたどっていて、僕はバトンを手渡したと感じたね。トムはベイビーフェイスだから、まだまだ少年役を続けていられる。僕らの関係は「ブロマンス」(兄弟愛)だから、ユニークな機会だと思って僕はしっかりと先輩ヅラをして、しごいてあげましたよ」
といとも嬉しそうに話してくれた。
今でも貧しい少年時代のままスターぶらないことを宣言している
マークに初めてインタビューしたの『ブギーナイツ』(1997)の時。カルヴァン・クラインの下着モデルなどしてヒョロヒョロに痩せた26歳のラッパーだった。ポルノ映画スターの役で、やはりうら若き故フィリップ・シーモア・ホフマンに恋されてしまうという、微笑ましいふたりの場面が思い出される。
『僕はボストンでも悪名高い悪ガキで、寝室3つのアパートに親と9人兄弟が住んでいるというものすごく貧乏な家庭に育って、物心ついて以来、盗んだり、カツアゲなどして、まだ未成年なのに成人用の刑務所にぶち込まれたんだよ。出所してから兄貴(ドニ―・ウォールバーグ)達のバンドに入れてもらって、そこから独立して、あれよ、あれよという間に「タレント」と呼ばれるようになってしまった。でも昔の友達とは親しくしている。僕はいつだって、サウジー(ボストンのサウスエンド、スラム地区)のガキなんだから、スターぶって気取ったりしませんよ』
と約束していたとおり、今も義理堅くて世話好き、頼りがいのある親分なのである。
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