ポール・トーマス・アンダーソン監督待望の最新作『リコリス・ピザ』誰もが思い出す"あの頃"が眩しい！

待望の新作は爽やかなこじらせ青春ラブストーリー

PTAの愛称で知られるアメリカの才人監督、ポール・トーマス・アンダーソンの最新作『リコリス・ピザ』。ちょっと“こじれた”恋愛模様を周囲の人々のユニークなエピソードも交えながら描いた青春映画で、海外では高い評価を得ている。今年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞の3部門にノミネートされた。

主演はミュージシャンが本業のアラナ・ハイムと新人のクーパー・ホフマン。ホフマンはPTAの常連男優、故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子。演技経験がないふたりが組むことで、逆に新鮮なカップルが誕生している。映画はふたりの運命的な出会いから始まる。子役俳優としても活動する高校生のゲイリー（クーパー・ホフマン）は、自分の学校にカメラマンの助手として現れた25歳のアラナ（アラナ・ハイム）に一目ぼれ。最初はそっけない態度を取るアラナだが、少しずつふたりの距離が近づく。

舞台はPTAが育ったハリウッドの郊外、サンフェルナンド・ヴァレー。自由な空気が満ちていた当時のウエスト・コーストの解放感が伝わり、こちらの気分もあがる。

これまでPTAは70年代のアメリカ西海岸を舞台にした映画を好んで作ってきた。監督2作目の『ブギーナイツ』（1997）は70年代後半のハリウッドのポルノ映画界が舞台で、個性的な俳優や監督が集まり、本能のままに映画作りに明け暮れていた。

『インヒアレント・ヴァイス』（2014）は失踪事件の謎を追う私立探偵が主人で、70年代のLAが舞台。前者はKC＆サンシャイン・バンドやザ・コモドアーズといったディスコ・サウンド、後者はドイツのバンド、カンやニール・ヤングなどの音楽も使うことで70年代の空気が伝わる。

今回の主人公の高校性は野心的で、俳優業のかたわら、流行のウォーターベッドの販売に乗り出し、ピンボールの店も開く。女優をめざそうとするヒロインは向こう見ずな中年の俳優や監督ともつきあう。どこかアナーキーで、思いついたら何でもやってみる。そんな破天荒でクレイジーな当時の活力にPTAは魅了されているのだろう。

過去の2本の70年代物と比べると、新作にはさらに明るい青春の光があふれ、風変わりな人物でさえ、どこかキラキラとまぶしい。そして、主人公のふたりのちょっと不器用な関係を見ていると70年代らしい初々しい青春のトキメキが思わずよみがえってくる。

登場人物

ゲイリー・ヴァレンタイン（クーパー・ホフマン）&アラナ・ケイン（アラナ・ハイム）
アラナ（アラナ・ハイム）は女優ケイ・レンツ、ゲイリー（クーパー・ホフマン）は元・子役で、映画や音楽のプロデューサーとなるゲイリー・ゴーツマンがモデル。

モデルはこの人↓

モデルはこの人↓

ジャック・ホールデン（ショーン・ペン）※画像右
ショーン・ペン演じるジャックはハリウッドの人気スター、ウィリアム・ホールデン、トム・ウェイツ演じるレックスは監督のマーク・ロブソンがモデル。ふたりは『トコリの橋』（1954）を一緒に作った。

モデルはこの人↓

レックス・ブロウ（トム・ウェイツ）

モデルはこの人↓

ジョン・ピーターズ（ブラッドリー・クーパー）※画像左
ブラッドリー・クーパーは（女好きの）映画プロデューサー、ジョン・ピーターズを怪演。大物スター、バーブラ・ストライサンドの恋人にして、元美容師。彼女の『スター誕生』（1976）も製作。

本物はどっち!?

70年代を描いたPTA作品

『ブギーナイツ』（1997）

PTAの出世作で、アメリカのポルノ映画界の栄光と衰退を描く。70年代後半、ポルノ男優として人気者となる青年が主人公で、当時のハリウッドの開放的な雰囲気が伝わる。80年代にはビデオが普及し、ポルノ界の活気も消える。

『インヒアレント・ヴァイス』（2014）

トマス・ピンチョンの小説「LAヴァイス」の映画化。70年代のロサンゼルスが舞台で、主人公は私立探偵。元恋人の依頼で、ある疾走事件の捜査を始め、主人公は迷路をさまよう。この時代の混沌とした都市の描写が印象的に残る。

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