カバー画像:photo by Kostas Maros
幅広い層に喜んでもらえる深いコメディに
── なるほど、おっしゃるとおりですね。
ところで、映画で描かれたこと、つまり服役中の囚人が演劇を学び評判になって、拘束されること一切なしで刑務所の外にある劇場に出向き、また評判をとり、次の公演に出かけるということは、さすが自由の国フランスだから出来ることなのだろう、凄いなー。なんて、映画を観て感心しましたが、実際はスウェーデンで起きたことだと知り、その点も驚かされました。
司法の制度において、こういった点についてはスウェーデンの方が進んでいるんでしょうか? 本作の出資などにも、フランスのテレビ局は及び腰だったそうですし。
そうですね。スウェーデンは社会的には革命的に進んでいることがありますね。刑務所に文化的、演劇的なワークショップを取り入れるというのもフランスより先に実施されていました。
テレビ局の件ですが、確かに「ベケット」と「刑務所」という取り合わせに難色を示したんでしょう。しかし、本作が成功してから、テレビ放映権を買ってくれましたよ。出資段階から組んでもらえたら良かったですけれどね。
── そうでしたか。囚人たちを扱った作品に対して、偏見を持ったのではなかったわけですね。
そうです。囚人への偏見というより、ベケットの劇と囚人との取り合わせというものが、一見難しそうな印象を与えますから、多くの観客に受け入れられるようなものではないだろうと、テレビ局は単純に考えたんでしょう。
確かに、わかりやすいシーンばかりとは言えません。でも笑えるところも沢山ありますし、幅広い層に喜んでもらえる深いコメディとして撮った作品です。脚本をちゃんと読んでいたらわかるはずですけれどね。読んでいなかったんでしょう(笑)。
囚人たちのためのワークショップがもたらす幸運も描かれる
── そういうことだったんですね。日本では、犯罪者に対して厳しい目が注がれる側面もあります。本作品をどのように楽しんだら良いでしょうか?
犯罪者であっても、同じ人間であることに変わりはありません。特に長く服役しているような囚人たちには、社会復帰を踏まえ、自分を見つめ直すためにも文化的な対応が必要になります。
社会に出てからの自分がどうすべきかなどを後押しすることに、この映画に描いた演劇ワークショップが重要であることを知って欲しいです。実際にこういった、演じることをしている受刑者に会ってみると、とても自然で犯罪者には思えない印象もありました。
── ありがとうございます。
そして、受刑者たちのためのワークショップであっただけではなく、講師のエチエンヌ自身こそ、このワークショップを指導することで、自分の新たなチャンスを手にすることが出来た。むしろ、ワークショップと受講者の囚人たちに救われたのではないかと思えましたが、いかがでしょうか? そこに大きな教訓のある映画だと思えました。
そうですね。思わぬ展開に見舞われるエチエンヌですが、それがきっかけで良い方向へと進めるチャンスを得ることになるわけですから、そこも大きな見せ場になります。
── そして、これは最後の質問ですが、本作の中で囚人たちに演じることの喜びを与えようとしての台詞に、「演じることをおぼえたら、病みつきになるぞ」というのがありました。
クールコル監督ご自身は、現在、演じることと映画を撮ることをされていらっしゃいますが、映画を撮ることは、繰り返すごと、病みつきになることなんでしょうか?
まさに、おっしゃるとおり、演じることにも勝る、映画を作ることというのは病みつきになるということですね。
ありがとうございました。
(インタビューを終えて)
舞台俳優としての面立ちには、脚本家としての威厳も滲ませ、絵になる存在のエマニュエル・クールコル監督。
終始、相好を崩すことなくお応えくださった貴重な時間は、演劇のレクチャーのようでもあり貴重なインタビューとなった。時に見せる微笑みには、人間を愛する優しさも溢れていた。
『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』を、スウェーデンのヤン・ヨンソンに見せたら、歓迎されたという。
当時から30年以上を経て、ヨンソン自身が体験したことがフランスで映画化されるということは、囚人たちを励まそうと情熱を傾けた「演劇セラピー」の「先生」への最高のリスペクトになったのではないか。素晴らしい映画作りだ。 「元囚人たち」が本作を観ての感想も聞いてみたいものだ。
『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』
2022年7月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺、名古屋ミッドランスクエアシネマ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都ほかにて公開
2020年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション
2020年ヨーロッパ映画賞ヨーロピアンコメディ作品賞受賞
2021年アートフィルムフェスティバル最優秀観客賞受賞
2021年ラボール映画と映画音楽祭金のイビス(映画音楽)賞受賞
2021年カナダ・ヴィクトリア映画祭観客賞受賞
フランス映画祭横浜2021オフィシャルセレクション
監督/エマニュエル・クールコル
脚本・台詞/エマニュエル・クールコル
出演/カド・メラッド、 ダヴィッド・アヤラ、ラミネ・シソコ、ソフィアン・カメス、ピエール・ロッタン、ワビレ・ナビエ、アレクサンドル・メドベージェフ、サイード・ベンシュナファ、マリナ・ハンズほか
プロデューサー/マルク・ボルデュール、ロベール・ゲディギャン
撮影/ヤン・マリトー
編集/ゲリック・カタラ
音響/ピエール・ゴーチェ、サンディ・ノタリアーニ
キャスティング・ディレクター/エマニュエル・プレヴォA.R.D.A.
衣装/クリステル・ビロ
メイク/シャルロット・ルクー
音楽/フレッド・アヴリル
協力/ティエリー・ド・カルボニエール、カリド・アマラ、ヤン・ヨンソン(原案)
主題歌/「I Wish Knew How It Would Feel to Be Free」ニーナ・シモン
2022年/フランス/105分/フランス語/シネマスコープ/2.29:1/5.1ch/DCP/Blu-ray
字幕翻訳/横井和子
宣伝 /ムービー・アクト・プロジェクト
宣伝デザイン/内田美由紀(NORA DESIGN)
予告編監督/遠山慎二(RESTA FILMS)
配給/リアリーライクフィルムズ
関西地区配給・宣伝/キノ・キネマ
©️2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms