人気バラエティ番組を多数手掛けた名プロデューサー吉川圭三さんが今まで影響を受けた映画の数々をを独自の視点で、溢れる映画への想いや、知られざる逸話とともにご紹介します。全世界で大ヒット中の『トップガン マーヴェリック』、この素晴らしき戦闘機映画のオリジナル『トップガン』を生み出した、トニー・スコットとは如何なる人物なのか? その魅力に迫っていきます。
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吉川圭三

1957年東京・下町生まれ。「恋のから騒ぎ」「踊る!さんま御殿」「笑ってコラえて」の企画・制作総指揮・日本テレビの制作次長を経て、現在、KADOKAWA・ドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー。著書も多数あり、ジブリ作品『思い出のマーニー』では脚本第一稿も手掛ける。

Illustration /うえむら のぶこ

CGに頼らない実際の戦闘機による本物の映像を求めたトニー・スコット

『トップガン マーヴェリック』が大ヒット中だ。映画屋の精神とプライドに溢れた脚本・演技・演出・音響・撮影技術を大画面で満喫したが、あの鑑賞体験が映画館でしか味わえない事でコロナ禍以来映画の劇場興行が苦しんでいる状態の中「映画劇場体験は特別だ」と観客に知らしめた意味でも快挙だったと思う。

一方、あの規模の映画を制作するのは何年もの準備がかかった事を考えると、2月のロシアによるウクライナ侵攻の後での公開時期や、中国(この映画に出資予定だった)と米国の関係もデリケートで上映時期の問題など神経を擦り減らす調整が必要であったと思う。

ご存じの方もいらっしゃるであろうが、あの映画のエンドロールの冒頭に大きな文字で「この映画をトニー・スコットに捧げる」とあるが、“一体トニー・スコットとは何者なのか? ”と思った方も多いと思う。

トニー・スコット

1944年6月21日、イギリスのノーサンバーランド州ノースシールズ生れ。リドリー・スコットの弟。映画監督となった兄の後を追うように映画界入りし、『トップガン』のヒットで売れっ子監督になった。兄と共同で製作プロダクション、スコット・フリー・プロを設立。2002年にはTVムービー「チャーチル/大英帝国の嵐」でエミー賞を受賞した。2012年8月19日にカリフォルニア州で突然の投身自殺を遂げ、ファンを驚かせた。代表作には『トップガン』(1986)『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987)『トゥルー・ロマンス』(1993)『マイ・ボディガード』(2004)『ドミノ』(2005)『デジャヴ』(2006)『アンストッパブル』(2010)など。

彼は『エイリアン』(1979)『ブレードランナー』(1982)『オデッセイ』(2015)等で知られるサーの称号を持つリドリー・スコット監督の実弟である。二人は英国生まれでCMなどの映像制作の仕事をそこで始めた。やがて二人は米国に渡りハリウッドで見事なデビューを果たす。

兄リドリーの出世作はSFに古典的ゴシックホラー要素(山道で道に迷い込んで無人の屋敷に入ったら何者かに襲われる)を加えた『エイリアン』。デザイン・脚本・演出・美術・撮影が総力を結集させた傑作だった。そして、弟のトニーの米国での最初のヒット作が1986年公開の『トップガン』だった。戦闘機乗りの成長物語だが、実際の戦闘機を多用した切れ味の良い映像と編集が画期的であった。

プロデューサーのジェリー・ブラッカイマー(今回も製作)もかつては映画マニアの心を捉える映画『アメリカン・ジゴロ』(1980)『キャット・ピープル』(1982)の仕掛け人であったが、その後ミュージックビデオ(MTV)的な音楽多用の映画『フラッシュダンス』(1983)、『ビバリーヒルズ・コップ』(1984)等の“ヒット狙いの製作者”となり、それは『トップガン』で頂点を迎える。また大衆受けする仕掛け満載の『アルマゲドン』(1998)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)、ドラマ「CSI:科学捜査班」(2000 ~)を当てる。

そして最新作の主演のトム・クルーズは実は1986年ごろは一若手有望俳優であったものの、『トップガン』の大ヒットで最有力俳優のトップに立つことが出来た。彼はその後ダスティン・ホフマンと兄弟愛を描いた『レインマン』(1988)、若手弁護士を演じた『ザ・ファーム』(1993)、『ミッション:インポッシブル』(1996)、当時妻だったニコール・キッドマンと共演した『アイズ ワイド シャット』(1999)とスターの階段を昇ってゆく。

『トップガン』に戦闘機映画の新しい型を創ることに尽力したトニー・スコット監督は、この業界での成功のキッカケを作ったブラッカイマーとクルーズのかけがえのない恩人になり、今回のクレジット表示になったと思うのである。そして肝心のトニー・スコット監督だがその後も『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987)、トム・クルーズ主演のインディ500のレーサー物語『デイズ・オブ・サンダー』(1990)、アメフトの世界の闇を描いた『ラスト・ボーイスカウト』(1991)、クエンティン・タランティーノが脚本を務めた男女の逃避行物語『トゥルー・ロマンス』(1993)、デンゼル・ワシントンとジーン・ハックマンが激しく対立する潜水艦での物語『クリムゾン・タイド』(1995)、ロバート・デ・ニーロがある大リーガーへの異常な愛憎を示す『ザ・ファン』(1996)、543人死亡というフェリー爆発事故から始まる物語『デジャヴ』(2006)ほかを監督・製作した。

しかし2012年にトニーはカリフォルニア州の橋から飛び降りて自殺した。原因は特定されていない。トニー・スコット監督は演出能力が卓越していて企画・脚本作成から準備を経て撮影現場での手際が素晴らしいので、多くの俳優が出演を望んだとアメリカの映画人から聞いたことがある。ジャンルは恋愛・サスペンス・国家的陰謀・スパイ物などほとんど何でも撮れて、クオリティーも素晴らしいので多作だった。

ついでに言えば彼の兄のリドリー・スコット監督も撮影の手際が素晴らしく、1つのシーンに複数のカメラで一気に撮るので俳優が集中して演技が出来るため好評であると聞く。英「Empire」誌によるとリドリー・スコット監督は公開前にこの映画を観たという。同席した製作のブラッカイマーによると「兄のリドリーは好意的に映画を褒めてくれました。映画を通してトニーに敬意を払ったトムの気遣いについても。」と語ったという。トニー・スコット監督。合掌。

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