故郷フランスの作品だけでなく『007 慰めの報酬』(08)や『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)など幅広い作品で俳優として活躍し、『スープをお飲み』(97)以降映画監督としてもその手腕を発揮するマチュー・アマルリックが、監督最新作『彼女のいない部屋』の公開を記念して来日。多忙なスケジュールの合間を縫ってSCREEN ONLINEのインタビューに応じてくれた。ユーモアも交えながら一つ一つ丁寧に語ってくれたその模様をお届けする。(取材・本文/杉谷伸子、撮影/久保田司、編集/SCREEN編集部)

「Cherry」はヴィッキー・クリープスのアドリブきっかけ

ーー戯曲のタイトルは「Je reviens de loin」ですが、映画は『Serre moi fort』にされたのは?

フランス語では、失業したがなんとか持ちこえたえたとか、社会的に回復したという意味で、「Je reviensde loin」(私は長い道のりを歩いてきた)という言い方をするんです。あんまりロマンチックなタイトルじゃないと思いました。「私を強く抱きしめて」(自分を抱きしめるポーズをする)という感じがしない。

僕の大好きなエチエンヌ・ダオの「La Nageindienne」に、「Serre moi fort」(私を強く抱きしめて)というフレーズがあるんですよ(と、スマホで曲を流しはじめる)。水の中の歌で、「僕を強く抱きしめてくれ。あなたの体がもっと軽かったら一緒に助かるよ」と歌っている。でも、「Moi」が「moins」になると意味が全然違う。「私を」と「less」。Moiだと「強く抱きしめて」。moinsだと「そんなに強く抱きしめないで」。「あなたの心がもう少し軽やかだったら、私はあなたから離れていくことができるよ」となる。それで、シナリオの仮タイトルは、「Serre moi(ns) fort」と記してありました。

画像: 「Cherry」はヴィッキー・クリープスのアドリブきっかけ

ーー今回は舞台挨拶も各地の映画館でありますし、監督作『Zorn III(2018-2022)』や主演作『トラララ』の上映もあります。ものすごく精力的ですが、久々に日本にいらしていかがですか。

とっても嬉しいです。でも、僕は全然アクティブじゃなくて、いつも睡眠に負けてギリギリまで寝てしまう。今日もこの取材の直前に焦りながらメールを送っていたのはご覧になったでしょ(笑)。

舞台挨拶でいろんなところに行けるのは素晴らしいこと。『Zorn III(2018-2022)』でミュージシャンたちの演奏風景や音楽を撮影していた経験が、『彼女のいない部屋』にも滲み出ているのは確信してます。このドキュメンタリーにはソプラノ歌手でもある私のパートナーのバーバラ・ハンニガンも出てますよ。『彼女のいない部屋』でも助言をしてくれました。

娘役のジュリエットもソフィーも、実際にピアノを演奏してるのを同時録音してます。ジュリエットがグランド・ピアノで弾くジェルジュ・リゲティの曲はすごく難しいんですが、リゲティと何度もコラボしているバーバラが撮影現場にいて、ジュリエットに音楽家同士として助言をしていた。台詞をいっさい必要とせずに、彼女の心の風景が読めるシーンになっていますよね。

ーー音楽といえば、エンドロールにも流れる「Cherry」がまたいいですよね。

ヴィッキー(・クリープス)のアドリブです。マルクがイヤホンで、隣の部屋で喋ってる彼女の声を聞きながら撮影したシーン。自分が忘れられてしまうかもというときに、もう1回私の方を見てというので、ヴィッキーが自分の意志で歌い始めたんです。「Cherry」は使えると思ったので、車の中でも歌ったりしてと言っておいたので、映画の中に結構出てきます。オープニングも、クレジットのところでも、やっぱりこの曲しかない。

ーー久々の日本でやりたいことはありますか。

3、4日はオフの日をもらいたいと思っています。逆に、何かお薦めはありますか? なんにもしたくないんですよ。ただボーッとしたい。迷子になって、「ああ、今、僕はどこにいるんだろう」って、自然の中に埋没したいですね。

画像5: 【インタビュー】『彼女のいない部屋』マチュー・アマルリック監督

マチュー・アマルリック
MATHIEU AMALRIC

1965年、フランス・ヌイイ=シュル=セーヌ生まれ。1984年、ジョージア(グルジア)出身の名匠オタール・イオセリアーニ監督作『月の寵児たち』で映画デビュー。アルノー・デプレシャン監督作『そして僕は恋をする』(96)に主演して注目を集め、セザール賞有望若手男優賞を受賞。『ミュンヘン』(05)、『007 慰めの報酬』(08)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)などフランス以外の作品でも活躍。監督デビューは1997年の『スープをお飲み』。『さすらいの女神たち』(10)でカンヌ映画祭の監督賞とFIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞を受賞。『バルバラ セーヌの黒いバラ』(17)ではカンヌ映画祭ある視点部門開幕作品に選ばれるなど高く評価されている。

プレゼント

抽選で一名様にマチュー・アマルリック監督直筆のサイン色紙をプレゼント!ふるってご応募ください。

マチュー・アマルリック監督サイン色紙 1名様

下記フォームよりご応募ください。
締切:9月30日(金)

https://screenstore.jp/shop/enq202209220

*プレゼントの当選者発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
*ご応募いただいた際の個人情報は、発送以外には使用いたしません。

関連情報

9月24日(土)には、現在開催中の『イメージフォーラム・フェスティバル』にてマチュー・アマルリック主演作『トラララ』の日本初上映も決定。ファンはこちらもお見逃しなく。

▼イメージフォーラム・フェスティバル2022

9/24(土)20:00〜『トラララ』@SHIBUYA SKY(渋谷SKY)
*マチュー・アマルリック主演作

画像6: 【インタビュー】『彼女のいない部屋』マチュー・アマルリック監督

パリのストリート・ミュージシャン、トラララは、不思議なメッセージに導かれ奇跡の町へと流浪していく。過ぎ行く人生の儚さをコミカルさと人情味で描き出すミュージカル作品。監督は『パティーとの二十一夜』(15)のジャン=マリー+アルノー・ラリューのラリー兄弟が務めている。

詳細:http://www.imageforumfestival.com/2022/pre.html

This article is a sponsored article by
''.