映画監督と母親としての二つの顔について
── じゃあ、そこはローマン君にもうかがいましょうか。横にお母様がいると、本音は言えないかも知れませんが(笑)、お母様がよその子供を「殺す」より、自分の子供を「殺す」ほうが気が楽だという意見をお聞きになっていかがですか(笑)?
ローマン:そうですね、母は正直でまじめな人なんですよ(笑)。子供を殺さなくてはならないという(設定が)変な映画だなと最初はちょっとショックを受けましたが、それがものすごく問題かというと、そうは思わず、それはそれでもいいんじゃないかと受け入れることができました。
── そうですか、えらいですね。それと、お母様は監督であるけれど、母親でもあるわけで、ローマン君にとっては、二つの人格を持っている女性でしょうか?
ローマン:監督の時は集中していますね。二つの人格があるとは思えないですけど、監督だと(母親の時より)、もっとハードに働きますね。
── 素晴らしいお母様ですね。
カミラ:この映画は、脚本を読んだら、親は子供のことを想って「殺す」ことを考えますが、子供は子供なりに考えて、自分の身を守ることも出来る。そんな明るい面もあって、「死と生」、死ということだけでなく、生きるということも探れる作品だと思います。
── それにしても、登場する12人の思惑が交差して心理劇のようになっていて、脚本の面白さが活かされていますね。
カミラ:そうですね。誰がどのような死の迎え方になるかとかについては、脚本どおりではない方向になったところもあるんです。撮っていくうちに、プロデューサーからいろいろ意見も出てきて。
そもそも映画では、政府は痛みを感じないで安らかに死ねるように、ピルを呑めばそれが得られると、ピルを配布するのです。そういう楽な方法を選ぶ人たちを描くわけですが、それは現実の日頃から、政府のすることに見て見ぬふりをして無関心で過ごしている人たちのことと、「痛みを伴いたくない、痛みと向き合いたくないからピルを呑もう」ということを比喩的にこの映画で例えているんです。
── 深いですね、映画って。恐がらせながらの教訓やメッセージが沢山感じられる作品です。私は恐い映画は、美しくなくてはならないと思うんです。
今回描かれた世界は、デストピアと化す世界を迎える前にも、中流家庭の持つキラキラ感が溢れ、ゴージャスなイブです。部屋の調度品とか食卓とか、集まる男女のモード的な装いに美意識やこだわりを感じました。その演出についてはどのように工夫されましたか? ナイトレイが出ているだけでもセレブ感が溢れますが。
カミラ:(ロケーションとなった)あの屋敷はとても重要で、最初見た時にスポンジケーキみたいだなと思ったんです。デコレーションケーキみたいだなと。居心地が良くて気持ちが良くて、抱っこされてるみたいなイメージ。これから起こる悲劇を和らげるように思わせる役目を満たす場所なんですから。
登場人物のコスチュームは、それぞれのキャラクターを現していて、最期を良く見せたいという想いも込められたもの。美しいというよりは着心地が良くて、少し馬鹿馬鹿しく見せたいということもありました。
夫も関わっていた、ファミリーで完成させた初監督作品
── すごくオシャレに感じました。
そうそう、最後にうかがいたかったんですが、ファミリーで作り上げた映画ですから、撮影監督で夫であるベン・デイヴィスさんは、どうして撮影しなかったのですか?
カミラ:実は夫は関わっているんです。夫とは、私が映画の仕事をしてきた間、何度か一緒に仕事をしてきたこともあるんです。
今回のタイミング的には、彼は『エターナルズ』(2021)だったと思いますが、大作に関わっていた後だったので、少し休みたかったということもあります。ただ、本作の当初の撮影監督が交代するということもあり、新たに引き受けてくれたサム・レントンは、私とも夫とも仕事をしていたので、夫にはメンター的な立ち場に立ってもらい、指導したりアドバイスしたりという形で関わってもらったのです。
── そうだったんですね。素敵です。映画に込められた熱い想いと、ファミリーなお話しもありがとうございました。
(インタビューを終えて)
カミラ監督は、インタビュー中にも、私の口紅や、私がリモートしている場所に目を向け褒めてくれた。実に気さくでオープンマインドな人柄なのだ。
きっと撮影中も、関わる人たちに細やかな観察眼で上手な励ましをしながら、思う作品を作り上げてしまう才能の持ち主であるのではと察せられた。監督の隣に同席してくれたローマン君は、終始、母である監督を気遣うような面持ちで、監督の話をフォローしたい様子もあり、時間の限りがあることが残念であった。
すでに一人前のナイトのようで、頼もしくて羨ましい限り。美しくも、三人のご子息の「肝っ玉母さん」のような監督の、タフさとおおらかさ、サービス精神が、映画づくりに大いに役立っているに違いない。
おおらかな笑顔とユーモアに満ち満ちたインタビューであった。カミラ・グリフィン監督ご一家の、今年のクリスマス・イブが穏やかに過ごせますように。
『サイレント・ナイト』
2022年11月18日(金)グランドシネマサンシャイン 池袋ほか全国公開
原題/Silent Night
監督・脚本/カミラ・グリフィン
出演/キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ローマン・グリフィン・デイヴィス、アナベル・ウォーリス、リリー=ローズ・デップ、ハーディ・グリフィン・デイヴィス、ギルビー・グリフィン・デイヴィスほか製作/マシュー・ボーン、トルーディ・スタイラー、 セリーヌ・ラトレイ
配給/イオンエンターテイメント、プレシディオ
2021/90分/カラー/イギリス
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