ダニエルだからこそのひと癖ある探偵像(文・大森さわこ)
ダニエル・クレイグの当たり役としてまず浮かぶのが英国の諜報部員、ジェームズ・ボンド役で、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)以後、15年間に渡って六代目ボンドをつとめた。そんな彼の新たな当たり役となりそうなのが私立探偵のブノワ・ブラン。『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)で演じたこの役でゴールデン・グローブ賞主演男優賞候補にノミネート。さらに同役を続投した『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』は海外では大ヒットを記録した。
監督のライアン・ジョンソンは前作でのダニエルの起用について海外のウェブサイト〈シネマブレンド〉の記事の中でこう語る──、「彼の参加が作品の大きな機動力になった。華のあるスターだが、同時に演技力も高く評価されるアクターだ。彼の参加によって俳優たちの才能も発揮されると思った」。オールスター・キャストが実現したシリーズだが、ダニエルがいてこそ成立した企画だった。
ボンド・シリーズに出演前のダニエルは、実は渋い英国の文芸調の作品にも出ていて、有名詩人役の『シルヴィア』(2003)や大学教授役の『Jの悲劇』(2004)で深みのある好演を見せていた。そんな彼がブノワ・ブランを演じることで、ひと癖ある探偵像になっている。
1作目ではツイードのスーツやコートをびしりと着こなし、パイプをくわえ、片手にコインを持ち、じっくり事件のなりゆきを注視。ミステリー作家、アガサ・クリスティが作り上げた名探偵エルキュール・ポワロを現代的にアレンジし、〈最後の紳士探偵〉と呼ばれる人物になりきる。しかも、ただ冷静なだけではなく、時に目を見開いておどけた表情も見せる。ポワロはフランス語訛りの英語だったが、ブランは泥臭いアメリカ南部訛りの英語を話し、ユーモア感覚を持っている。
ダニエルはかつてのヒット作『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)では、ある一族の事件を追う記者役だったが、こうした役よりブランには笑いの要素があり、すごくリラックスした雰囲気で演じていた。新作は夏のギリシャの島が舞台なので、リゾート用の軽やかなファッションで登場。劇中では彼がクィアであることも明かされる(ちなみに若き日の出世作『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』(1998)ではゲイに扮していた)。
監督はシリーズ3作目も企画中。ブラン役が掘り下げられることでダニエルの演技者としての深みもさらに生かされそうだ。
Netflix映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』
2022年12月23日(金)配信より独占配信
2022/アメリカ
監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、デイヴ・バウティスタ、ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン、レスリー・オドム・Jr、ジェシカ・ヘンウィック、マデリン・クライン、ケイト・ハドソン