幸せはとは、生きているということ
(笑)いやー、そうですね。刺激はあるんですけれどね。その、幸福とはまた違うんですよね、不思議と。やっぱり、幸せになるっていうことは、何かを得て、何かを達成して、それで幸せになるっていうことではなくって……。
きっと今はもう、自分が幸せだってことに気づいて自覚できるかどうかだと思ってもいるけれど、でも映画が撮れたからといって幸せになったってことじゃなくってね。
── はい、よくわかります。
すでにもうこうやって生きているってこと自体が、ある種の幸福な状態なんだと自分自身に向けて、伝えたい気持ちがあります。思う通り生きられているかどうかっていうことについては、常に飢餓感はずっと追いかけてくるし、自分を解放してくれないですけどね。
この映画でもそうですよ。そこで伝えたいことがやっぱり何もなくたって、「いずれ消えるからって、(その存在が)いなかったわけじゃあないし、いたんだよって。残ってないっていうことも、それぞれ(思う人の中)で生きていればちゃんとその人はいるっていることになる、と。
── そうですよね。
そういう意味で、「さよなら」なんかないっていう風にも思うし……。
── そうですね。本当にそのとおりです。私なんかも監督よりはるかに長く生きているん世代でして、自分のことを申し上げると、生きてるってことは本当にいいですよ。歳をとると、とればとるほど、もう非常に生き易くなります。
例えば、『ひかりぼっち』にタコ焼き屋の値段が時間的に安くなるタイミングについて書かれていましたが、こちら、歳を重ねてきますと、そういうことに絶対に失敗しませんし(笑)。年の功!
はっはっは。
── とにかく、衣食住についても若い頃の半分のお金でいけちゃうみたいな生活の知恵とか自然に身につきますから。悩んでも苦しくても、生きてさえいればと若い方には言っています。
ああ、そっかそっか(笑)
── 今回も、監督から良いお話をうかがえていますから、生きてて良かった、と、感謝ですし。
余談ではありますが、「生きていること」といえば、「生まれてすみません」と言っていた太宰治が思い出されました。ピーポー監督の文章を拝読していると、ちょっと太宰治がダブって見えたりししました。文章の秀逸さや、言葉の意味深さから。「生きていてもいいですか?」とメッセージする、真逆の太宰治かなとか。
でも、彼も実は本心ではそんなこと思っていなかったんじゃないかと思います。すみませんなんて言いながら、ちっともそう思っていなかったように思えてならない。あの方も、本当は凄く生きたかったと思うんです。
ああ、心中するときに、ちょっと抵抗した跡があったみたいですよね。
── そうなんですよね。あれもう絶対失敗しちゃったんですよね。だから、ピーポー監督と太宰治は、同じことを言っている人だと、この映画を観たら強く感じました。生きてていけないですか?っていうような声が大きく聞こえてきたんです。真面目で、まっすぐで、人や世界と対面するという姿勢が一緒ですよ。また、余談になりましたが。
うん。
── そして、そういう監督のメッセージを標榜するかのような主人公コウが、作品の素晴らしい幕引きをします。森山未來さんの演技も、ここまで極まったかというような、今までに見ることが出来なかったような迫力で圧倒的でしたが、もう一人の主役コウを演じた富田健太郎さんを、あえてオーディションから選んだことにはどのような意味がありますか? 何を彼に求め、そして演じ終って、作品が完成してどうだったかっていうのをお聞かせいただけますか?
「出会うべき出会い」を求めてのオーディション
はい。自分が普段から大事にしていることでもあるんですが、本当に大事な局面は世界に委ねるみたいなジンクスがあって、未来さんはこちらからオファーしてブッキングして、本当に唯一無二な難しい役を演じていただけたと思うんです。
ただ、主人公コウっていうのも凄く大事な存在で、そこはこっちがコントロールするんじゃなくて、本当に出会うべき人に出会ってみたい。求めたら、ちゃんとそういう存在に出会えるはずだっていう、大切な局面で世界を試し、世界に放つような、そういう意識みたいなものはずっとあったんです。
芝居が上手で人気のある役者をオファーするとかではなく、自分も映画つくるのは初めてなんだから、ある種の不完全さと、突出して芝居を突き詰めているプロフェッショナルをハイブリッドにして、この映画が出来上がったらなと。
── ハイブリッド、いいですね。
そういう試みが、世界に挑戦するっていうイメージみたいなものであって、それがオーディションをした理由ですね。言うなら、自分もずっと「片足ケンケン」で世界を渡って行こうっていうイメージを持ち続けているんですよ。
両足でちゃんと独立して立っていくと、もう他人が必要ではなくなるんですよ。自立って言葉ってきれいなんだけれど、一人で完結しちゃう。常に何か片足でゆらゆらしてて、ワッてどちらかに倒れそうになったら「大丈夫」って、必ず必然ある人が現れてくれるから、片足は自分が手放さずに、もう片足を世界に預けて、ケンケンで世界を渡って行こうって思う。だからオーディションの時は、そこんところのスポットをガッツリ開けて、ちゃんと出会うべくして、出会うってところに賭けました。
── そうですか、出会いだったんですね。美しい。
出会いですね。うん。
── で、結果的にも、その出会いは出会うべき出会いであったと納得するような……。最後の芝居見たら、そうでしょう。
そうですね。確かに。あれはもう芝居を勉強して、勉強積んできた人では出来ないだろうし。
言うなら、今の時期の、そしてこれから、どんどん羽ばたいていく、富田にしか出来ない芝居ですよね。
── その力こそで、思わず私は、拍手―!となったわけですね。たくさんの想いをお聞かせいただき、ありがとうございました。
(インタビューを終えて)
エッセイ集もポエム的だが、今回の『i ai』も言葉が映像となって展開して行き、どこかポエムのような味わいがあった。
アナーキーなファンタジーともいえる風味。「血の味」もするし、「涙の味」もするけれど、どこかユーモアもあり、主題曲も心に優しくこだまする。とにかく言葉にこだわっていて、私の長い質問にも寄り添ってくださり、アート的な言葉で饒舌に応えるマヒトゥ・ザ・ピーポー監督。
その心地良い声音と、年齢不詳でありながら悟りを開いたような想いが、短い間であったにもかかわらず、ものすごくたくさんの生き方のヒントが並んだ。「別れなんてない」「ずっと続く」「生きていてもいいですね?」というような映画からのヒントには、老いも若きも心揺さぶられるだろう。
「生きる」ということと「死ぬ」ということが同義語で、生まれたら一人一人の命題になるこのテーマは、映画についての普遍的なテーマであると思う。ここを見極めて長編第一作を完成させたピーポー監督には、やっぱり拍手しかない。
映画祭での上映の際に登壇してのトークでは、映画は観てもらって初めて映画として羽ばたける。機会があればもっとたくさんの映画祭でも羽ばたかせたい。北極とかの映画祭ってないのかな。などと、少年のようなピュアな発言もしている。成熟した大人と、少年が共存しているような魅力がある。
力強い作品なので、インタビュー前まではコンペティション部門で勝敗を競って欲しかったなどと勝手に思ってもいた。が、インタビューをして、それは大きな間違いであるように思えた。監督自らと、俳優として新人の富田健太郎の未来に託したかのような映画づくりなのだからこそ、「アジアの未来」部門での上映がふさわしい。
新人富田健太郎VS森山未來とのハイブリットが生み出す化学反応に心ときめかせた監督が、次はどのような試みをするのか、待ち遠しい。
そして、『i ai』の2023年の劇場公開が叶うことを願うばかりである。
最後に書き加えておくが、『i ai』の主題曲「Third Summer of Love」も唯一無二の響きで、心にいつまでもこだまする、美しくヒーリング的な曲。これが含まれるマヒトゥ・ザ・ピーポー監督「GEZAN」の6枚目にして最新アルバム『あのち』が、2月1日にリリースされる。
4月18日には、取り壊されるあの中野サンプラザホールを慈しむかの様に独演ライブが予定されている。映画の劇場公開が待たれる中、まずは主題曲をCDか生のライブで聴いていただけたら、もうこの作品の素晴らしさがイメージできることは間違いない。
また、このアルバムの先行曲『誅犬』のMVが、現在YouTubeで配信中。
自ら監督したこのMVからは、『i ai』の映画監督としてのセンスや才能を垣間見ることが出来る。
『i ai』
出演/富田健太郎、森山未來ほか
監督/マヒトゥ・ザ・ピーポー
2022年/日本/カラー/DCP5.1ch/118分
©2022「i ai」製作委員会
公式サイト/https://i-ai.jp/
映画祭公式サイト/https://2022.tiff-jp/ja/
@2022 TIFF
(ニュー・アルバム)
『あのち』(GAZEN6th Album)
アーティスト/GEZAN with Million Wish Collective
レーベル/十三月
発売日/2023年2月1日(水)
CAT NO/JSGM-56
フォーマット /CD/DIGITAL
CD価格 /3,300円(税込)
URL/ https://gezan.lnk.to/ANOCHI
収録曲/
1. (い)のちの一つ前のはなし
2. 誅犬
3. Fight War Not Wars
4. もう俺らは我慢できない
5. We All Fall
6. TOKYO DUB STORY
7. 萃点
8. そらたぴ わたしたぴ (鳥話)
9. We Were The World
10. Third Summer of Love
11. 終曲の前奏で赤と目があったあのち
12. JUST LOVE
13. リンダリリンダ
(公演)
タイトル/「あのち リリース記念公演“BUG ME TENDER vol.18 中野サンプラザ 独演”」
出演/GEZAN with Million Wish Collective
PA /内田直之、Alive Painting /中山晃子
日時/2023年4月18日(火曜日)
開場・開演 /18:00・19:00
会場/中野サンプラザホール
前売券/6,000円(税込・全席指定)
チケット取り扱い/イープラス https://eplus.jp/gezan/
問い合わせ先/HOT STUFF PROMOTION 050(5211)6077
「GEZAN」Member /マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo/gt) /イーグル・タカ(Gt) /石原ロスカル(Dr) /ヤクモア(Ba)
「GEZAN 」公式サイト / http://gezan.net/
公式ツイッター/https://twitter.com/gezan_official
公式 ユーチューブ/https://www.youtube.com/user/GEZAN13threcords
「十三月」公式ツイッター/official twitter https://twitter.com/jusangatsu