脚本に書かれていることを信じられる形で再現
──本作だけでなく、『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年)、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017年)もユーモアを交えながら、見る者に「自分は大丈夫だろうか」と考えさせ、問題提起をしているのを感じます。監督の映画製作におけるポリシーをお聞かせください。
僕は師であるスウェーデンの映画プロデューサー、カッレ・ボーマンから「すべての映画は社会を変える」と教えられました。映画作家として、自分の撮った映像が何か具体的な形で観客を変えるようなものであってほしい。そのためには道標みたいなものを入れ込んでいかないといけません。言い換えれば、“人間はこういうものである”と僕が信じているものをみなさんにお見せすることが大事だと思っています。自分が信じていないものを見せたら、映画を撮る際の自分のルールを壊してしまいますからね。
──そのポリシーのために、演出において意識していることはありますか。
人は誰でもこれまで生きてきた経験がある。キャスト自身の経験から脚本の中にあるものが成立しているかどうかを確認してほしい。脚本を読んだキャストに「このセリフや行動は人間として可能だと思うか」、「これを自分ができると思うか」と必ず聞くようにしています。もし「これはあり得ないと思います」と言われたら、脚本に書かれている状況を詳しく説明して理解してもらうよう努めますし、キャストの意見がもっともだと思えば、脚本を変えることも厭いません。
僕の作品はすべて人間観察から始まり、この作品には行動心理学や社会学の要素が数多く含まれています。僕にとって監督をするということは脚本に書かれていることを僕たちが信じられる形で再現することなのです。それはキャストの演技だけではありません。編集をしているときに、その瞬間のキャラクターのフラストレーションが表現し切れていないと思ったシーンがあり、複数の蝿を登場させて飛び交わせました。蝿のシーンは何シーンかあり、編集に1ヶ月くらいかけています。
PROFILE
リューベン・オストルンド
1974年4月13日、スウェーデン生まれ。
長編デビュー作『The Guitar Mongoloid』(05)でモスクワ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞。その後に手掛けた長編映画は、すべてカンヌ国際映画祭でプレミア上映されており、同映画祭において2作連続でパルムドールを受賞した、史上3人目の監督。短編映画『Incident by a Bank』(10)はベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。『プレイ』(11)ではスカンジナビア半島において最も重要な賞である北欧理事会映画賞を受賞している。
映画『逆転のトライアングル』2月23日(木・祝)
TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
<STORY>
モデル・人気インフルエンサー・ヤヤと、男性モデル・カールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態で、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった――。
『逆転のトライアングル』
2月23日(木・祝) TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
監督・脚本: リューベン・オストルンド
出演: ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン、ズニー・メレス
2022年/スウェーデン、ドイツ、フランス、イギリス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/147分/字幕翻訳:稲田嵯裕里/原題:TRIANGLE OF SADNESS
配給:GAGA
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
公式サイト:https://gaga.ne.jp/triangle/