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SFホラーを見て映画作りを志すように
『ハロウィン』を生み出したジョン・カーペンター監督は、もともと映画を作りたいと思ったきっかけが4歳の時に見たSFホラー『遊星よりの物体X』(1951)だったと言われているように、監督になってからは主にホラー、SFを作り続けて評価されている。
1948年にニューヨーク州で生まれたカーペンターは20歳で南カリフォルニア大学映画芸術学部に入学して映画製作を学び、1974年に長編デビュー作『ダーク・スター』を発表するが、この作品もシニカルなSFで、のちにカルト的な人気を得ている。その後、現代版西部劇的な小品『要塞警察』(1976)を経て『ハロウィン』(1978)を発表、ハリウッドの第一線に躍り出た。
続く『ザ・フォッグ』(1980)は怨みを晴らすため不気味な霧と共に現われる亡霊を描くホラーで、『ハロウィン』とは違い直接的な残虐描写よりもムード醸成に努め詩的な恐怖感を煽っていた。なお、この作品のヒロイン、エイドリアン・バーボーは当時のカーペンター夫人で、ジェイミー・リー・カーティスも共演していた。
盟友カート・ラッセルとのコラボレーションが続く
マンハッタン島全体が刑務所というアイデアが楽しい近未来SFアクション『ニューヨーク1997』(1981)は盟友となるカート・ラッセルの主演で、のちに続編『エスケープ・フロムL.A.』(1996)も作られた。
翌1982年の『遊星からの物体X』は自らが映画を目指すきっかけとなった作品のリメイクで、これもカート・ラッセル主演。ロブ・ボッティンによるSFXとカーペンターの恐怖演出が際立っていた。
スティーヴン・キングの同名小説を映画化した『クリスティーン』(1983)は青春ホラーとでも呼ぶべき作品で、クリスティーンと名付けられた赤いプリマスの自己修復の様子などが不気味さを感じさせる
1984年の『スターマン/愛・宇宙はるかに』は珍しくロマンチックなSF、『ゴースト・ハンターズ』(1986)はサンフランシスコのチャイナタウンを舞台に妖魔と戦うファンタジー・アクションと、カーペンターも次第に作風の幅を広げていく。
低迷期を乗り越え完全復活を果たす
だがオカルト・ホラー『パラダイム』(1987)、異星人の侵略がテーマのSFスリラー『ゼイリブ』(1988)、さらに事故で透明になってしまった男の巻き込まれる騒動を描いたSFコメディ『透明人間』(1992)と、カーペンターらしさの見られない作品が続き不調が噂されたこともある。
復活を果たしたのは、H・P・ラヴクラフトの“クトゥルー神話”を下敷きにしたと思われるサイコ・ホラー『マウス・オブ・マッドネス』(1994)。悪夢の描写や細かな伏線、ギミックなどカーペンター節が炸裂した。
続くSFホラーのリメイク『光る眼』(1995)を挟んで、吸血鬼映画を西部劇テイストで料理した『ヴァンパイア/最期の聖戦』(1998)も小道具の設定やバイオレンス描写などカーペンターらしさ満載の作品だった。
2001年には火星を舞台に先住民族の亡霊と入植者たちの戦いを描くSFホラー『ゴースト・オブ・マーズ』を送り出すが、これは『要塞警察』(1976)と共にハワード・ホークス監督の『リオ・ブラボー』(1959)へのオマージュ作品だと言われている。
そして、2010年に久しぶりの監督作『ザ・ウォード/監禁病棟』を発表する。放火現場で逮捕され、精神病院に収容された若い女性の体験する恐怖を描くサスペンス・ホラーだ。この作品を最後にカーペンターは監督作を発表しておらず、現在75歳という年齢を考えると、もう監督ジョン・カーペンターの新作を見ることはできないかもしれないが、これまで作ってくれた作品に対しては感謝の気持ちを送りたい。