やんちゃな小学生ニコラの天真爛漫な日常を子供の視点から語り、世界中の人々を魅了し続けている物語「プチ・ニコラ」。その魅力の根源は、原作者であるジャン=ジャック・サンペとルネ・ゴシニの運命に屈することのない生き方にありました。映画『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』は「プチ・ニコラ」の物語を交えながら、原作の誕生秘話をアニメーションで描いた物語です。第1回新潟国際アニメーション映画祭コンペティション部門出品を機に来日されたアマンディーヌ・フルドン監督、バンジャマン・マスブル監督にお話をうかがいました。(取材・文/ほりきみき)

原作者の娘の協力があってこそ描けた世界観

──「プチ・ニコラ」の原作者ルネ・ゴシニとジャン=ジャック・サンペの人生と「プチ・ニコラ」を組み合わせた作品を作ろうと思ったきっかけからお聞かせください。

バンジャマン・マスブル(以下BM):「プチ・ニコラ」はフランスで50年以上愛され続けてきた児童書で、圧倒的な存在感があります。そんな「プチ・ニコラ」をルネ・ゴシニとジャン=ジャック・サンペがどういう風に作り出したのか、その誕生秘話を描きたいと思ったのです。その中で2人の友情やコラボレーションだけでなく、辛いことがあった子ども時代について触れています。ゴシニはホロコーストで伯父さんを亡くし、サンペは親の愛情に恵まれていませんでした。それでも2人はトラウマを乗り越えて、これだけの名声を誇るアーティストになったことに驚いたのです。このような誕生秘話がアニメーションで描かれたことはこれまでにありません。とても感動的なものになったと思います。

アマンディーヌ・フルドン(以下 AF):ルネ・ゴシニの娘であるアンヌ・ゴシニが脚本に参加していますが、彼女は最初、「プチ・ニコラ」のアニメ化にプラスαとして、原作者2人の残っているアーカイブ映像を組み合わせたらどうかと提案してくれました。しかし映像のクオリティが悪く、プロデューサーが使えないと判断し、「作家にオマージュを捧げるのなら、全編アニメーションにしよう」ということになったのです。

画像: (右から)アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル

(右から)アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル

──ジャン=ジャック・サンペは企画を聞いてどんな反応を示しましたか。

BM:企画を聞いて、すぐに許可してくれたわけではありません。「まず僕のイラストをどういう風にアニメ化するのか。具体的なものを見せてほしい」という条件が出されたのです。彼に納得してもらえるよう、彼が描いたニコラを忠実にイラストとしてアニメに起こしました。

──アニメに起こすのは大変でしたか。

AF:「プチ・ニコラ」がアニメ化されるのは初めてのこと。0からの出発です。原作が全部白黒ですが、スクリーンで白黒は難しい。少し色彩を加えましたが、その塩梅を見つけるのが大変でした。

原作者2人の人生を描くパートは「プチ・ニコラ」とは違うスタイルで描こうと考えました。サンペが雑誌「ザ・ニューヨーカー」で定期的に書いていたイラストにインスピレーションを得て、風景から光や影がたちのぼってくる雰囲気にして、「プチ・ニコラ」よりもリアリズムを追求しました。

BM:何とかGOサインをもらえてほっとしました。

──サンペの人生部分はご本人に取材したのでしょうか。

BM:サンペは昨年89歳で亡くなられましたが、脳卒中で数年前から車椅子生活を送っており、話すこともままならない状態でしたから、彼に直接話を聞くことができなかったのです。サンペの人生については資料を調べて、脚本を書きました。

ただ、完成した作品を最初に見てもらったのがサンペでした。カンヌ国際映画祭に行く前に彼のための試写会を設けたのです。それまでに実写版は作られたことがあったものの、そこにはイラストは出てきません。今回、初めて、自分のイラストが動き出すという体験をし、さらに盟友であるルネ・ゴシニとの親密な関係がアニメとして描かれたことを喜んでくれました。

AF:サンペが喜んでくれたことにスタッフが感動し、泣いている人もいました。

画像: 原作者の娘の協力があってこそ描けた世界観

──ゴシニに関しては娘であるアンヌから話を聞いたのでしょうか。

AF:アンヌは父親であるゴシニのことだけでなく、サンペのこともよく知っています。共同脚本家として企画に参加するだけでなく、私たちが作り出したものを認可するのも彼女の役割でした。ゴシニやサンペがどういう風に動くのか、私たちがアーカイブ映像を見て、アニメの動きとして忠実に再現し、それを彼女が見て確認しました。

BM:アンヌは、サンペの原画やゴシニがタイプライターで打ち、手で直しを入れた原稿だけでなく、ゴシニの書斎を見せてくれました。まだ残されていたのです。そこには書斎机があり、彼が使っていたタイプライターや小物が置かれていました。白い折り紙みたいなものが作品に描かれていますが、それは陶器製で、ゴシニが友人からもらったもの。それもちゃんと再現しました。すべてアンヌのおかげです。

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