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山下智久 プロフィール
1985年4月9日生まれ。千葉県出身。High Hope Entertainment 所属。「野ブタ。をプロデュース」(2005)や「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズなどヒットドラマや映画に多数出演。
スペインと日本の合作ドラマ「THE HEAD」(2020)を皮切りに、映画『マン・フロム・トロント』(2022)、ドラマ「TOKYO VICE」(2022)などグローバルに活動。
最新作の米仏日合作ドラマ「神の雫/Drops of God」(2023年9月配信)では海外ドラマ初主演を務める。5年ぶりのアルバム「Sweet Vision 」が7月19日に発売されるほか、ライブツアー「TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-」も8月より開催。
“普段、目で見えるものに頼っているけれど、むしろそれで見えるものは多くなく、見えない部分こそ大切なんじゃないかと感じました。”
──『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』は、病で目が見えなくなってしまう漫画家と、聴覚障害のある女性の純愛を描いています。出演を決めた理由を教えてください。
まずイ・ジェハン監督と一緒にお仕事ができるということ、そして不自由さを抱えているふたりが関係を育んでいく過程で、人や恋愛の本質を見せてもらえるんじゃないかと思ったからです。僕が出演する作品を決める基準は、自分の世界を広げてくれるかどうか。分からない、難しいと感じたとしても、その扉をこじ開けるような挑戦ができる作品がいいんですよね。
『SEE HEAR LOVE〜』も、演じる役柄を通じて僕自身、学ぶことができるんじゃないか、と思いました。脚本を読んだ時に感じたのは、幸せもあれば絶望もあり、穏やかなシーンもあって、ジェットコースターのような緩急が面白いなということ。テーマが“愛”なので、普遍的な作品になるんじゃないか、という期待もありました。
──イ・ジェハン監督とのお仕事はいかがでしたか?
監督には、映画を作るのに欠かせない情熱というものを教えていただきました。自分の俳優人生にとって本当に貴重で、必要な時間だったと思います。自分はどちらかというとテレビドラマで育ててもらった人間ですが、映画もドラマも一つの作品が撮影にこぎつけるまで本当に大変で。
今日もどこかで企画を練って走り回っている人たちがいるけれど、実際に完成までたどり着けるのはごくわずかで、さらに公開までに幾つものハードルを越えていかないといけない。そういう意味で、映画製作は奇跡の連続なんです。
“人生の中であと何回、そんな奇跡に出会えるんだろう”って考えた時に、一つ一つのセリフやカットがすごく貴重なものになってきて。ある種、哲学的な視点から映画を捉えることができて、自分にとって特別な経験になりました。
──監督の熱量に影響を受けられたんですね。
イ・ジェハン監督は、作品づくりに命をかけていると言っても過言ではない方です。例えばインサートで小物を撮影する時、キャラクターの表情やセリフは映らないんですが、妥協が一切ないんです。そういった全てのこだわりが重なって、一つの作品になっていく。その過程を見させていただいたことは、本当に勉強になりました。
現場での監督は穏やかで冷静で、内に情熱を燃やしているような感じだったんですが、その熱意が現場にも広がって、僕も撮影中は“時間が許す限りここにいたい”って思って過ごしていました。監督を信頼して現場にいることができたので、演じる自分としてはある意味、楽だったんですよね。自分の考えを柔軟に受け止めてくださるので、安心感のようなものがありました。
監督はおそらく誰よりも睡眠時間を削って、作品づくりに取り組まれていたと思います。物理的には辛いと捉えられてもおかしくない現場だったんですが、全然そんな感じはしなかったです。
──少しずつ目が見えなくなっていく真治を演じられるなかで、どのような気づきがありましたか。
五感のどれかひとつが使えなかったとしても、十分に感じることはできるんだと思いました。人との信頼関係、匂い、感触、あと僕の場合は音も。“感じる”ことって、たくさんあるんですよね。普段、目で見えるものに頼っているけれど、むしろそれで見えるものは多くなく、見えない部分こそ大切なんじゃないかと感じました。以前から思っていたことではあったんですけど、それが自分の中でよりリアルになりましたね。
──演じるうえで大切にされたことを教えてください。
感情のレイヤーは意識していました。それは一つのセリフの中に、複数の感情があるということなんですが、イ・ジェハン監督はもちろん、役者陣も同じ思いで演じていたと思います。だからこそ、10年後に見ても、20年後に見ても、その時の経験や年齢に応じて興味深いと思ってもらえるような作品になっているんじゃないかと思いますね。
──真治は病を患いながらも諦めずに漫画を描き続けますが、一方で編集者と意見が合わず、理想を貫けないことに苦悩します。表現者としての真治に感じることはありますか。
自分のやりたいことを突きつめるのは、勇気がいることだと思うんです。編集者の“一人でも多くの人に分かりやすく売れるものを”という気持ちは、世界共通でありますよね。それに対して、もちろん真治にもアーティストとしての葛藤がある。僕自身も悩んだ時期があったので、その点はすごくリアルだと思いました。
編集者のキャラクターも、監督のセンス、衣装、美術のすべてがうまく調和されて『そうそう、こういう感じの方、いそうだな』と思えるようなリアリティがありましたね。
──山下さんご自身は悩んだ時期を乗りこえて、今はどのように考えられていますか?
“その瞬間でできるベストを尽くす”という、シンプルなところに行き着きました。今までもこれからも、時間だったり予算だったり、何かしら制限はあると思うんですよね。
例えば、制作費が100億円あったとしても、作り手としては作品をより良くするために“あれもしたい、これもしたい”と考えるので、きっと足りないんですよ。だからこそ、その中で自分にできるベストを永遠に積み重ねていくしかない、と今は考えています。
──山下さんの新曲「I See You」は、本作の主題歌にもなっていますね。作品の世界を想起させる、深みのある歌詞が印象的です。
プロデューサーが韓国の方なので、最初に韓国語でデモをいただいて、それを英語にしていきました。レコーディングも色々なスタジオでやってみて、仕上がりを聞きながら、歌詞も何回か変更して。映画にも通じるんですが、細部までこだわることの大切さを年々、感じます。
歌詞も対照的な要素が含まれているのが面白いですよね。愛すれば愛するほど、失った時や壊れた時に同じぐらい憎しみを抱いたり、逆に興味がない人に対しては憎むこともなかったり。うまく表現するのが難しいんですが、それがこの世界の真理というか。物ごとの色々な側面、表と裏がしっかりメッセージとして込められていて内容に深みがありますし、映画のDNAもしっかりと注ぎ込まれた楽曲になっていると思います。
──内容の深みという点で、映画のラストシーンも色々な見方ができると思います。どのように解釈すると良いでしょうか。
実はね、その答えは提示していないんですよ。全体的に分かりやすいストーリー展開で、ある種コマーシャル(商業)的にも捉えられる作品なんですけど、実際に見てみるとその逆なんですよね。あえて曖昧に描いている部分が多いんです。それも監督の狙いですが、太陽と月のように対照的な2つの要素が多く散りばめられていて、とても芸術性が高いなと感じます。
──今年のアカデミー賞では『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアジア系の俳優が快挙を成し遂げるなど、ハリウッドにも多様性の波が来ていると感じます。グローバルに活動されるなかで、そういった変化をどのように思われますか?
変化も多少は感じますが、基本はやっぱり、どんな人も平等かつ対等であるべきだと思うんです。日本にいてもカルチャーの土台が一緒なだけで、人はそれぞれ性格も違うし“この人は合う・合わない”は当然、出てきます。
それは異なるカルチャーの中にいても同じだと思うんですよね。どういう環境でも、自分に素直に、アイデンティティやプライドを忘れないことが大事。あとは人への思いやり。それさえ持っていれば世界中のどこでも、自分らしく生きていけると思うんです。
色々な文化の違いはありますけど、それはあくまでも土台としてあるだけで、自分と相手、人間同士でどうやって見つめ合っていくかが重要ですよね。僕は誰に対しても、同じ態度で接しています。相手の国籍や職業は関係ない。相手から対等に見てもらいたいから、自分も相手を対等に見るようにしていますね。
──最後に、最近ご覧になった映画で印象に残ったものを教えてください。
『RRR』は面白かったです。今までに見たことがないような世界が広がっていて、とても新鮮でした。
『SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる』
Prime Videoで独占配信中、7月7日よりディレクターズカット版劇場公開