作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。連日35~37度の最高気温が続き、うんざり気味。あまりの猛暑にパソコンもついにダウン!

稲田隆紀
映画解説者。6月に入院の仕儀となったが、完治して体力回復に励んでいる。若くないことを今さらながらに実感。

北島明弘
映画評論家。スカラ座見学ツアーで階段にオペラのポスター、マリア・カラスの写真が飾ってあったのを思い出した。

土屋好生 オススメ作品
『ジェーンとシャルロット』

共に人気の高いジェーンとシャルロット母娘の繊細な関係を鋭い眼差しで描き出す

画像1: 土屋好生 オススメ作品 『ジェーンとシャルロット』

評価点:演出4/演技4/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要
ある時は風光明媚な仏ブルターニュの海辺の家で。ある時はニューヨークの古いビルの谷間で。そしてある時はライヴショーでにぎわう日本で。娘シャルロット・ゲンズブールの目を通して、母ジェーン・バーキンの姿を捉える。

母親は高名な女優ジェーン・バーキン、娘は若者から中年層に大人気のシャルロット・ゲンズブール。若者だけでなく中高年層にかけても人気の2人だが、ひと皮むけばなんとやらでなかなかしっくりいかない関係のようだ。

しかしそれを真に受けてはいけない。冒頭に出てくる小津安二郎も滞在した茅ヶ崎館。そして映画全体の中で大きな部分を占めるフランスはブルターニュの海の家。そこで展開される大家族(一つの家族の三世代)のドラマからいよいよバーキン一家の物語が始まる。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 『ジェーンとシャルロット』

繰り返して言うがこのドラマを見ているわれわれはつい目の前のドラマを本当のことと信じてしまうが、よく見ると真実の谷間から嘘が見えてくる。この本当の中の嘘、嘘の中の本当がこのドラマの真骨頂といえるのではないか。

このあたりドキュメンタリーとドラマのあわいを自由に行き来する演出家(シャルロット)の鋭い眼差しには驚かされる。

互いの信頼から生まれる豊かな人生。バーキンもそんな心を信じて亡くなったに違いない。最高の人生ではなかったか。

公開中/リアリーライクフィルムズ配給

© 2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms

稲田隆紀 オススメ作品
『バービー』

楽しいエンタメの枠を崩さずに女性・男性の固定化したイメージを揶揄してみせる

画像1: 稲田隆紀 オススメ作品 『バービー』

評価点:演出5/演技5/脚本5/映像4.5/音楽4.5

あらすじ・概要
誰もがバービーとケンの“バービーランド”で、ひとりのバービーの身体に変化が訪れた。その理由を知るために人間世界を訪れたバービーとケンはいびつな男女格差の現実を知り、ふたりの生き方に大きな変化が生じた。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)に続いて、グレタ・ガーウィグが少女たちのアイコンに挑んだ。誰もが知っているファッション人形を主人公に、女性、男性の固定化したイメージを揶揄してみせる。

あくまでもエンタテインメントの枠を崩さず、好もしいミュージカル・コメディとして成立させている。ガーウィグの知性の成せる業だ。

『イカとクジラ』(2005)のノア・バームバックとともに脚本を練り上げ、バービー世界、現実世界の男女の在りようを鋭く風刺している。それも頑ななフェミニズムではなく、多様性を尊ぶ姿勢を貫く。

画像2: 稲田隆紀 オススメ作品 『バービー』

もともとは主演のマーゴット・ロビーが映画化権を獲得して実現した企画。ガーウィグを得て、ロビーの成りきりぶりがさらに輝きを増した。共演にライアン・ゴズリングを配して演技陣も充実。

ピンクを基調にしたカラフルな映像、流行の楽曲を採用。底抜けに楽しい「おバカ映画」のふりをしながら成長のドラマとして余韻が残る。ガーウィグの柔らかい演出とロビーの熱演に拍手を送りたくなる。素敵な仕上がりだ。

公開中/ワーナー・ブラザース配給

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

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北島明弘 オススメ作品
『ふたりのマエストロ』

共にオーケストラ指揮者の父子にスカラ座から届いたある依頼が騒動を呼ぶ

画像1: 北島明弘 オススメ作品 『ふたりのマエストロ』

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽5

あらすじ・概要
同じ道を歩んだ親子ならではの確執、それを見守る母、元妻にしてマネージャー、息子とのふれあいから、ドニは家族のきずなを再確認することになる。クラシックの名曲が楽しめるのも嬉しい。

マエストロとは芸術の大家を意味し、音楽においては名作曲家、名指揮者をさす言葉だ。バッハ、モーツァルト、シュトラウスと親子で作曲家というケースは多いが、本作では親子の指揮者が登場する。

父フランソワもそれなりのキャリア、受賞歴があるが、息子ドニは革新的なアプローチを認められ父を越す名声を得ており、父と息子の間には溝があった。

フランソワにミラノのスカラ座から音楽監督への就任依頼があった。有頂天の父を祝福したものの、ドニだってスカラ座で指揮したいのは同じだ。スカラ座の総裁から「父への依頼は秘書の手違い。就任してほしいのはあなただ」と告げられた。

画像2: 北島明弘 オススメ作品 『ふたりのマエストロ』

「小澤もスカラ座初指揮ではブーイングだったが、結局は大成した」とやる気満々だが、真実を父に打ち明けられず、苦悩する日々が続く。

大学教授親子を描いたイスラエル映画『フットノート』(2011)のリメイクに当たり、旧知のオペラ歌手の話をヒントに大学教授を指揮者親子に置き換え、ブリュノ・シッシュ監督自身が脚色した。

公開中/ギャガ配給

©2022 VENDOME FILMS - ORANGE STUDIO - APOLLO FILMS

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