ボクシング練習をしながら役を作っていった横浜流星
──黒木翔吾を演じた横浜流星さんは監督の希望と聞きました。
元々極真空手の世界チャンピオンだったということもあり、身体能力の高さはわかっていましたが、いろいろな作品を見て、まだ汚れていないというか、意外に普通の青年な気がしたところが素晴らしいと思いました。特にNetflixの「新聞記者」はよかったです。新聞配達の大学生を演じていましたが、本当に極々普通の青年で、とてもいい感じでした。
──横浜さんとはどのような話をされましたか。
役作りのためにわざわざ話をすることはなかったですね。彼の場合は半年くらい前からボクシング練習をしていましたから、僕もそこに立ち会って、じっと見ている。そんな感じから始まりました。練習を見ながら髪形などの見た目の話をして、徐々に黒木翔吾を作り上げていったのです。
──髪形は色も含めていろいろ変わりましたね。
そこは横浜くんの意見もあって、最初はいわゆるその辺の兄ちゃん風に見せたかったので、染めていた髪が抜けていった感じから始めました。中西利男との試合の前に変えたのは、彼がWBAフェザー級世界チャンピオンだったから。そこはやはりきっちり向き合わなくてはいけないと、黒髪のツーブロックにしました。横浜くんが元々ツーブロックだったのです。
──あの試合前は凛々しかったですね。
この作品はほぼ順撮りで、中西との試合を予定ではクランクアップにしていましたから、横浜くんもそこに合わせて身体を作っていきました。減量もかなりしていたので、体が引き締まっていただけでなく、顔もかなりシャープになっていましたから、そう見えたのだと思います。結局、予定通りにはいかず、横浜くんのラストシーンの土手がクランクアップでしたけれど。
──これから作品をご覧になる方々にひとことお願いします。
10代で沢木耕太郎に出会いましたが、この歳になって沢木さんの原作で映画を撮れたことを幸せに感じます。
今回は“老いと若さ”がテーマです。沢木さんが昔、老いと若さについて書いていたときは若い側にいたと思いますが、今は沢木さんだけでなく、僕も浩市さんも老いの側にいる。そういう世代に至って、もう一度ボクシングという題材で人生を見直し、生きるとは何ぞや、生きる時間とは何ぞやといったことを考える。若い世代は、その世代のまた別の取り組み方がある。この映画がそういうことをみんなで考えるきっかけになればと思います。
<PROFILE>
瀬々敬久監督
1960年、大分県出身。京都大学在学中から自主映画を製作。89年『課外授業 暴行』で監督デビュー。以降、『MOON CHILD』(03)、『感染列島』(09)などの劇場映画から、ドキュメンタリー、テレビなど様々な作品を発表。『ヘヴンズ ストーリー』(10)が第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞とNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)の二冠を獲得、同作で芸術選奨文部科学大臣賞映画部門を受賞した。『アントキノイノチ』(11)が第35回モントリオール世界映画祭でイノベーションアワードを受賞。『64-ロクヨン-前編』(16)では第40回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。近作に『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)、『友罪』(18)、『菊とギロチン』(18)、『糸』(20)、『明日の食卓』(21)、『とんび』(22)、『ラーゲリより愛を込めて』(22)など。
『春に散る』8月25日(金)公開
<STORY>
40年ぶりに故郷の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一(佐藤浩市)。引退を決めたアメリカで事業を興し成功を収めたが、不完全燃焼の心を抱えて突然帰国したのだ。かつて所属したジムを訪れ、かつて広岡に恋心を抱き、今は亡き父から会長の座を継いだ令子(山口智子)に挨拶した広岡は、今はすっかり落ちぶれたという二人の仲間に会いに行く。そんな広岡の前に不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾(横浜流星)が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。そこへ広岡の姪の佳菜子(橋本環奈)も加わり不思議な共同生活が始まった。やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、翔吾はもちろん一度は夢を諦めた周りの人々を巻き込んでいく。果たして、それぞれが命をかけて始めた新たな人生の行方は——?
<STAFF&CAST>
出演:佐藤浩市 横浜流星
橋本環奈 / 坂東龍汰 松浦慎一郎 尚玄 奥野瑛太 坂井真紀 小澤征悦 / 片岡鶴太郎 哀川翔
窪田正孝 山口智子
監督:瀬々敬久
原作:沢木耕太郎『春に散る』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
配給:ギャガ
©2023 映画『春に散る』製作委員会
公式サイト:https://gaga.ne.jp/harunichiru/