茜と青磁が心を通わせていく様子を丁寧に描く
──原作は「野いちご大賞」を受賞した汐見夏衛さんの同名恋愛小説ですが、お読みになっていかがでしたか。
茜は言いたいことを隠して、周りの人の顔色を窺いながら、人とコミュニケーションを取っています。青磁は将来の夢として画家を目指していますが、自分の中に枷があってなかなか踏み出せません。それぞれ抱えているものがある。そんな2人の心情に共感しました。
汐見夏衛先生の文章はとても色鮮やかで透明感があり、ヒリヒリする空気感を感じます。それをぜひ映像として映し出したいと思いました。
──具体的に何か映像をイメージされましたか。
冒頭から全部、映像になってイメージしたわけではありませんが、ところどころ印象的に思い浮かびました。例えば、マスクに色をつけるシーンや色を塗り合うシーン。これは原作にはありませんが、この原作が持つ空気感が伝わりやすいのではないかと思いました。
──脚本はドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」でもご一緒されたイ・ナウォンさんとお二人で書かれています。
基本的にはイ・ナウォンさんがプロットと脚本の初稿を書き、そこに私がセリフを追加するなど、手を加えさせていただきました。
初めのうちは顔を合わせて、打ち合わせ形式でやっていましたが、撮影が近づくにつれて、交換日記のようにイ・ナウォンさんが書いたものに私が書き足して、またイ・ナウォンさんに見てもらって、何かあれば書き足してもらうというやり方でした。信頼関係があるの中で、一緒に作っていきました。
──イ・ナウォンさんにプロットを作ってもらう際に、監督から何か伝えたことはありましたか。
茜が初めて屋上に上がるシーンは彼女にとって分岐点なので、そこを物語の中間に持ってきたい。後半は茜と青磁が心を通わせていく様子を丁寧に描きたい。この2つをお伝えました。
イ・ナウォンさんはプロットの段階で、廃遊園地のアイデアを出してくださいました。
──文化祭で茜の孤独感が強まります。原作にはないシーンですが、茜の辛さが痛いほど伝わってきました。
脚本を作り上げていく途中段階で、茜がフラストレーションを感じる瞬間がもう一つほしいと思い、付け加えました。
茜はクラスをまとめ上げようと縁の下の力持ちとして頑張っているけれど、それがみんなに伝わり難い。出し物のリハーサルが無事、終わって、クラス全体が盛り上がったとき、クラスメイトたちに悪気はないけれど、裏方の茜をまるで透明人間のように自然と省いてしまった。茜は笑顔で振舞っているものの、その空気感に内面では傷ついていることを表現したくて加えました。人は悪気がなく、誰かを傷つけてしまう瞬間がありますから。
──原作には引きこもりの兄がいましたが、本作には登場しません。
プロットの段階では兄の存在もありました。兄は茜にある気づきを与えますが、茜と青磁の2人にスポットを当てるなら、2人の中で気づきがあった方がいい。それで泣く泣く、兄の存在はいなくなりました。その代わりに美術教師の岡崎先生がオリジナルキャラクターとして出てきています。