あのナム・ジュヒョクが平凡な普通の青年を演じ切る
──インギュはオリジナルの『手紙は憶えている』(2015年/アトム・エゴヤン監督)にはいないキャラクターですね。
インギュは監督が意図的に追加したキャラクターです。ピルジュは何をするのかが明確ですが、インギュはピルジュに巻き込まれただけ。インギュがこの旅路に足を踏み入れ、引っ張り、参加していく過程を描くことで、観客がインギュになったつもりでピルジュの旅路に付き添って行くような気持ちになるのだと思います。
──インギュを演じたナム・ジュヒョクさんについてお聞かせください。
ナム・ジュヒョクは明るく、身構えるところがない青年で、私の提案もすべて受け入れてくれたので、私としてはとてもやりやすかったです。
完成した映画を観て、ジュヒョクの演技は本当に素晴らしかったと思いました。作品はピルジュの視点で進みますが、観客はインギュの気持ちで作品を見るよう、観客の関心を一気に引っ張っていくのがジュヒョクの役割だったのです。難しい役どころですが、きっちりやり遂げてくれました。思い返すと現場でもジュヒョクにそう話した記憶があります。長身でイケメンのジュヒョクが平凡な青年を演じたのも大したものです。ジュヒョクはきっとこの作品をきっかけに、大きな成果を得るに違いないと思います。
──この映画の魅力を教えてください。
この作品の魅力は年齢が親子以上に離れている2世代の人物が一緒に行動するところです。無駄に年齢を重ねた人はいません。私より年上の方々はその存在だけで十分に尊敬に値します。一方で、現在の社会を導いていく世代、いわゆる既成世代は若い世代を受け入れ、応援しなければと思います。私も娘を見ると気に入らないことばかりです。しかし自分が娘ぐらいの年齢の頃の自分はどうだったのかを思い出せば、娘の気持ちがわかります。そのように若い世代を理解してほしい。既成世代と若い世代が尊重し合える世の中になったらいいですね。
──もし、映画のように記憶を失くすことがおき、それでも一つだけ記憶に残せるとしたら、何を残したいですか。
俳優として人生を生きたことです。
<PROFILE>
イ・ソンミン
1968年12月4日生まれ。高校時代に見た演劇に魅了され二十歳で地方劇団に入り、〝芝居のうまい無名俳優〟のまま下積み生活を長年送る。30代半ばになってソウルに拠点を移し、名門劇団「チャイム」で演技力を磨くと共に、劇団の先輩ソン・ガンホの推薦で映画の端役やテレビ出演する機会を得る。独裁者の韓国大統領に扮した『KCIA 南山の部長たち』、カリスマ的な北朝鮮高官を演じた『工作 黒金星と呼ばれた男』、中間管理職のサラリーマンを熱演した大ヒットドラマ「ミセン -未生-」などで数多くの演技賞に輝き、消化できるキャラクターの幅広さから〝千の顔を持つ俳優〟と称されるベテラン俳優へと躍進した。
本作監督イ・イルヒョンとは、彼の助監督作『群盗』、監督作『華麗なるリベンジ』に続き3度目のコラボレーション。〝復讐に燃えるアルツハイマーの老人〟という自分史上最も難しい役に挑んだソンミンは、独特の語り口調や深みのある演技で観客を惹きつけながら、「善」と「悪」との境界線を行き来する複雑なキャラクターを完璧に表現している。
『復讐の記憶』本日9月1日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
<STORY>
80代の老人ピルジュ(イ・ソンミン)は、過去に家族全員を理不尽な出来事で亡くして以来、家族を死に至らしめた裏切り者への復讐を誓い生きてきた。認知症に見舞われた今、自分の記憶が長くは続かないと悟った彼は、処刑すべき5人の名をタトゥーにして指に刻み、60年前から計画していた復讐殺人を決行すべく銃を手にして立ち上がった。ピルジュの元同僚で年齢差を超え親友となった20代の青年インギュ(ナム・ジュヒョク)が1週間の約束で運転手に雇われるが、何も知らないインギュは殺人現場付近で監視カメラに映り込んだことから第一容疑者にされてしまう。記憶を完全に失う前に復讐を成し遂げたいピルジュと、警察に追われながらもピルジュを制止するため同行するインギュ。前代未聞のバディと化した二人は予測不能な追走劇へ身を投じ、やがて衝撃の真実が明らかになる
<STAFF&CAST>
出演:イ・ソンミン、ナム・ジュヒョク、チョン・マンシク、ユン・ジェムン、ソン・ヨンチャン
監督:イ・イルヒョン
配給:ハーク
2022年/韓国/128分/カラー/スコープサイズ/5.1ch
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公式サイト:https://fukushu.jp/