銭湯を営む主人公は夫が突然失踪し、途方に暮れていたが、やっと営業を再開させる。そんなとき、1人の男が働きたいとやってきた。映画『アンダーカレント』は国内外で人気のある豊田徹也が描いた伝説的コミックの実写化だ。主人公のかなえを真木よう子、銭湯で働き始める堀を井浦新、失踪したかなえの夫・悟を永山瑛太、悟を探す探偵をリリー・フランキーが演じる。音楽はカンヌ国際映画祭最高賞受賞作『万引き家族』の細野晴臣が担当。メガホンを取った今泉力哉監督に作品への思いを聞いた。(取材・文/ほりきみき)

原作者と2人で4時間、話をして映画化が決まる

──作品を拝見して、監督のこれまでの作品に比べて、登場人物の年齢層がぐっと上がった気がします。テーマにおいても、夫婦の愛については描かれているものの、恋愛については取り上げていません。『ちひろさん』から少し変わってきて、本作で大きく変化したのを感じました。

プロデューサーからお話をいただき、原作を読んでみて“すごく面白い”というのが一番先にありまして、年齢的なことや恋愛を描いていないということはあまり意識しませんでした。ちょうど前後するようにNetflixの『ちひろさん』が決まりましたが、どちらも表面的なことのもう少し後ろに抱えているものがあるということを描いていて、そういうことに以前から興味はあったのです。

『ちひろさん』(2023)の前に『アンダーカレント』を撮るつもりで動いていましたが、コロナ禍で撮影が延期して、『ちひろさん』が先になりました。しかし改めて考えてみると、年齢はちょっと上の人たちの話ですね。

画像: 今泉力哉監督

今泉力哉監督

──豊田徹也さんの長編人気コミック「アンダーカレント」の映画化ですが、原作をお読みになって、「映画としてどう撮ればいいのか、難しいと思った」とのことですが、どの辺りが難しいと思われたのでしょうか。

原作の内容がすごく繊細で、映像的な描き方から“映画のようなマンガ”と言われています。それをあえて実写化することの難しさですね。深層心理的な部分はマンガの方が表現しやすい気もしていて。人が演じておもしろいものにするにはどうしたらいいのか、随分と考えました。

──原作者の豊田さんから直接連絡があって4時間もお話をされたとのことですが、どのような話をされたのでしょうか。

今までも何回か映画化や映像化の話はあったけれど、豊田さんは断っていたようです。今回も「まずは1回お会いしたい」ということで、会いに行きました。完全にOKが下りた段階ではなかったので、企画自体がなくなることをプロデューサーは懸念していたと思います。

これまでなぜ映像化を断っていたのか。豊田さんはその辺りを話してくださった上で「これって映画にして面白くなると思いますか?」と言いました。俺はそこで「面白くします!」と言うタイプではないので、「ほんとそうですよね」と答えたからでしょうか、それを発端にいろんなことを話しました。この作品のことだけでなく、お互いのこと、なぜ映画監督を志したのかを聞かれたり、『愛がなんだ』(2019)についての話をしたり。むしろ原作以外のことを話した4時間でした。

そういう話をしていく中で豊田さんから最後に、「やりたいですか?」と聞かれて「ぜひ、やりたいです」と答えて、映画化が決まりました。多分、創作において何を大事にしているかという点で、豊田さんは近しいものを感じてくださったのだと思います。自分にとっては、あの4時間はすごく学びになりました。

──豊田さんは脚本開発に参加されたのでしょうか。

基本的には『愛がなんだ』以来、何度も組んでいる澤井香織さんとつくりました。気になるところが出てきたら相談はしていましたが、豊田さんが筆を入れたところは一切ありません。

──澤井さんとはどのような役割分担があったのでしょうか。

まず澤井さんに全部書いていただいて、それを読んで気になったところに俺が手を入れました。脚本家さんによっては監督が脚本に手を入れることを嫌がる人もいますが、澤井さんは触らせてくれる人なので、俺がいろいろ直して、それを澤井さんに読んでもらい、やり過ぎたところを澤井さんがまた直すといった感じです。

澤井さんは監督に対してイエスマンではなく、ご自分の意見をちゃんと持っています。「ここはもう少しわかりやすくした方がいい」とか、「ここのセリフはここまで前振りしなくても成り立つ」など、細かい直しを一緒にやっていきました。

澤井さんとの話で解決しないことや自分の中で登場人物のことをもう少し深く理解したいことが出たときは豊田さんに相談しました。

──お風呂場にいたアマガエルのシーンは原作にはないエピソードですね。

悟に関して、時間の経過をどう表現するかということを澤井さんと話し合う中で、水辺がキーワードになっていることもあり、なぜかアマガエルになりました。今度いつ会えるのかわからないものが醸し出す、ちょっと不穏な空気感。確か澤井さんから出てきたアイデアだったと思います。

瑛太さんはアマガエルの扱いがすごく上手いんです。驚きました。手のひらに乗せると飛んでいってしまう可能性がありますが、瑛太さんが両手の指を交互に出すと、アマガエルは足を絡ませて上っていくのです。「過去にアマガエルとの共演があったのですか」と聞きたくなるくらいでした(笑)。

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