名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第30回。今回取り上げるのは、ガイ・リッチー監督との3度目のタッグ作『オペレーション・フォーチュン』が公開を控えている、近年は悪役としての活躍ぶりが光るヒュー・グラントです。(文・大森さわこ/デジタル編集・スクリーン編集部)
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三つの曲がり角を経て光る唯一無二の軽妙な個性

ターニング・ポイントの一つ目は『モーリス』

ベテランと呼ばれる俳優は何度かターニング・ポイントを迎える。英国の人気男優、ヒュー・グラントの40年以上におよぶキャリアをたどり直すと、3つの大きな曲がり角が見える。そう、ヒューは3度、生まれ変わった!

1960年、9月9日、ロンドンで生まれた彼が俳優になるきっかけをつかんだのは、オックスフォード大学(英文科)に在学中のとき。青春映画『オックスフォード・ラヴ』(82、日本はビデオ公開)に出演後、俳優の道に進むことになった。

そんな彼の〈ターニング・ポイント・1〉は文芸映画『モーリス』(87)との出会い。整った顔立ちとノーブルな雰囲気の彼は、主人公モーリスと恋に落ちるエリートの青年に扮し、共演のジェームズ・ウィルビーと共にヴェネチア映画祭の主演男優賞を受賞。

画像: 『モーリス』(1987) Photo by Mikki Ansin/Getty Images

『モーリス』(1987)

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日本では〈英国美形スターブーム〉が起きて、“ヒューさま”と呼ばれたことも・・・。その後は『ケン・ラッセルの白蛇伝説』(88)や『赤い航路』(92)等に出演した。

二つ目の曲がり角を経てロマコメのキングに

彼の〈ターニング・ポイント・2〉となったのが、製作会社、ワーキング・タイトルが作った数々のロマンティック・コメディへの出演。

画像: 『フォー・ウェディング』(1994)U-NEXTで配信中 © 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

『フォー・ウェディング』(1994)U-NEXTで配信中

© 2023 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

まずは94年の『フォー・ウェディング』に主演して英米で大ブレイク。英国アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞の主演男優賞も受賞した。その後、ジュリア・ロバーツ共演の『ノッティングヒルの恋人』(99)や人気小説の映画化『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)の演技も話題を呼ぶ。

前者は好きな女性に本心を打ち明けられないシャイな男性、後者ではヒロインが憧れる遊び人の上司役。キャラクターは違っても、軽妙なユーモアがあふれ〈ロマンティック・コメディのキング〉と呼ばれた。

孤独な少年との関係を描いた『アバウト・ア・ボーイ』(02)、若き総理役の群像劇『ラブ・アクチュアリー』(03)と快進撃は続いていく。ちなみに前者の来日会見では、当時は子役だったニコラス・ホルトを相手に皮肉な発言が炸裂! 英国人らしいユーモア感覚を見せていた。

その後も『ラブソングができるまで』(07)などに出演したが、ロマコメ路線にはカゲリも見え始める。そして、少し年を重ねた後に出演した『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16)ではこれまでと異なるしたたかな顔も見せ、英国アカデミー賞等の候補となる。

三度目の生まれ変わり! 悪役路線で新境地へ

彼の〈ターニング・ポイント・3〉となったのが、ファミリー映画『パディントン2』(17)。善良なパディントンを窮地におとし入れる悪役でふりきった演技を見せ、こちらも英国アカデミー賞の候補となる。この作品をきっかけにいかがわしい悪役路線で新境地を切り開いた。

テレビ作品「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」(18)では元恋人を殺そうとする隠れゲイの議員役で怪しさ全開! 英国アカデミー賞候補となる。また、殺人の容疑者役のテレビ作品「フレイザー家の秘密」(20)ではエミー賞候補となった。

映画は『ジェントルメン』(20)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(23)では、ゲスな悪役を楽しそうに演じ、ジェイソン・ステイサム共演の新作『オペレーション・フォーチュン』ではしたたかな武器商人役。裏がありそうな悪役でも、どこか憎めないところもヒューの魅力。

次の新作『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』ではウンパルンパ役を演じる。

世間を騒がせるも今では5人の子のパパに

私生活では、長年、独身だったが、中年以降、5人の子持ちとなる。中国系女優、ティンラン・ホンとの間に2人、スウェーデンのテレビ・プロデューサー、アナ・エリザベット・エーベルシュタインとの間に3人の子供が生まれ、アナとは18年に結婚。

画像: 妻アナとテニス観戦するヒュー Photo by Clive Brunskill/Getty Images

妻アナとテニス観戦するヒュー

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また、95年にアメリカの路上で売春婦を買って逮捕歴もある。07年には元恋人の女優、エリザベス・ハーレイの写真を撮ろうとした写真家を殴った容疑で逮捕。

私生活では、お騒がせなヒューだが、ワクにはまりきれない彼だからこそ、転機を乗り越え、唯一無二の軽妙な個性を持つ男優として活躍してきたのだろう。

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