制作秘話
ロドリゲスが20年温めた企画
ロバート・ロドリゲスがこの映画の構想を思いついたのは2002年。ヒッチコック監督の『めまい』（1958）に着想を得たという。当初は映画を自分で監督するつもりはなく、長らく脚本も完成には至らなかったが、自分で監督すると決めてからはわずか2か月で脚本を書き上げたという。
当初から先の読めない物語作りを意識していたそうで、「たくさんのひねりを与えようと思った。だが、観客を混乱させることになってはいけない。そのバランスは難しかったよ」と語っている。
本作のヒントとなった映画『めまい』とは？
アルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』
“サスペンス映画の神様”とも称される巨匠アルフレッド・ヒッチコックの最高傑作のひとつとして名高い一作。
職務中の出来事で高所恐怖症によるめまいに襲われるようになった元刑事が、亡霊に取りつかれているという友人の妻の調査を依頼され、思わぬ事態に巻き込まれていく。
出演はジェームズ・スチュワート、キム・ノヴァクら。主人公が刑事であることなど『ドミノ』にはオマージュと思われる描写も。
撮影は監督所有のスタジオで
映画の撮影は2020年春、テキサス州オースティンで始まる予定だったが、コロナ・パンデミックが起こり、撮影は中止に。結局撮影の大部分をロドリゲスが所有する「トラブルメーカー・スタジオ」で行うことになった。
このスタジオには『アリータ：バトル・エンジェル』をはじめ監督の過去作品のセットなども残っていたが、「おかげで催眠術にかけられたような雰囲気が自然に出た。経済的でもあったし、結果的に良かった」と監督にとっては嬉しい誤算だったよう。
“敵役”は一度の顔合わせだけで抜擢
観客を映画に引き込む“敵役”を演じるのは個性派俳優のウィリアム・フィクナー。監督はたった一度のオンラインミーティングで彼を抜擢した。
「この役が務まるのはフィクナー以外にいない。厳粛さを持つ者が必要だった。追われる悪役だが、知性があり、いくつもの謎を抱えている。フィクナー自身に催眠術師の性質があり、カメラを通して見ると催眠術をかけられたようになるんだ」と語っている。
アフレックとフィクナーの共演は『アルマゲドン』（1998）以来25年ぶり。
ベン・アフレック&ロバート・ロドリゲス監督、最新作『ドミノ』を語る
ベン・アフレック
“この作品を完全に理解するには2度見る必要がある”
刑事ローク（ベン・アフレック）は失踪した愛娘の行方を追っている
『ドミノ』は行方不明の娘を捜す男の物語だ。話が進むにつれ、状況が明らかになっていく。誰が、なぜ、娘を連れ去ったのか。さまざまな動機が判明し、どんでん返しを食らう。驚きの連続で最後まで飽きない作品だよ。
この映画の出演の決め手は脚本だった。意外な展開のある、多層的な世界を描いていた。興味深い役柄だと思ったよ。しかも（ロバート）ロドリゲス監督は賞賛するに値し、彼に感化されることも多く一緒に仕事をしたかった。優れた監督から学ぶことを自分の使命と考えている。
僕自身、映画監督を経験して、技術的な感覚が鋭い人の考えが分かるようになった。彼らが望んでいることに応える方法もね。すばらしいことにロドリゲス監督はその点を理解して、敬意を持って接してくれるんだ。
彼とは話が早い。彼は映像に目を通し、各ショットをどこで使うか決めていく。その行動の速さと卓越したものを求める姿勢に感服するばかりだよ。彼から多くを学んだ。彼は短期間でよい作品を作り上げている。普通は両立が難しい。
この作品を完全に理解するには、2度見る必要がある。というのも、いろんなことがどこか奇妙で、不穏な感じがする。その理由は後で分かる。その複雑で多層的な側面が好きだ。演じがいもあるしね。
僕が演じる主人公は、映画に登場するような典型的な刑事だが、刑事モノのジャンルにひねりが加えられている。
アルフレッド・ヒッチコック映画へのオマージュのような作品だ。この作品のコンセプトと監督の演出は視覚効果による部分が大きい。
一方でストーリー重視の古典的映画でもある。多くの監督は何かに触発されて映画を作り始め、結局他の映画と似たものを作ってしまう。だがロドリゲス監督は才能豊かだ。
彼の作品は現代的でありながらも、1940～1950年代の傑作のようでもある。昔のスタイルを模倣しつつ、音楽や映像を大胆に駆使し、最新のスタイルにしている。独創的で興味深くとても楽しいやり方だ。
日頃うちの子どもたちは僕の映画は見ないが、この作品の一部を見せたんだ。すると娘は“面白い”と。最高の感想だよ。観客にも同様に楽しんでほしいね。
ロバート・ロドリゲス監督
“ヒッチコック映画を撮っている気分になったよ”
ロバート・ロドリゲス監督とは？
監督・脚本・撮影・編集・音楽などを一人でこなし、“映像の魔術師”とも呼ばれる才人。
「スパイキッズ」シリーズ（2001～）や『アリータ：バトル・エンジェル』（2019）などで知られ、「マンダロリアン（シーズン2）」（2020）、「ボバ・フェット／The Book of Boba Fett」（2021～2022）にも監督のひとりとして参加。
1968年6月20日米テキサス州サンアントニオ生まれ。7,000ドルの超低予算で作ったデビュー作『エル・マリアッチ』（1992）が大ヒットし、一気に注目を浴びる。
以降、アクションやホラーの名手としてヒット作を連発。クエンティン・タランティーノ監督とは親しい友人であり、頻繁に共同作業を行っている。
最新作『ドミノ』は20年前から構想を温めていた作品。大好きだという巨匠ヒッチコックにオマージュを捧げ、新境地に挑んだ作品になった。
2002年にヒッチコック監督の『めまい』を見たことで本作の脚本を書き始めた。名監督である彼の大ファンだ。ひねりのきいたスリラー作品を自分でも作りたくなった。まずタイトルを考えた。『めまい』『白い恐怖』『サイコ』…ヒッチコックがつけそうなタイトルはどんなものか。
そのとき“催眠術（Hypnotic＝『ドミノ』の原題）”が思い浮かんだ。いいタイトルだと思ったよ。すぐに物語の軸も思いついた。目の前にいるのに存在を感じさせない悪役だ。欲しいものを何でも奪って立ち去っていく。脚本を練り上げ、多くの仕掛けを仕込んだ。2002年から始め、今ようやく完成した。
ヒッチコック映画の要は配役だ。ケイリー・グラントやジェームズ・スチュワート、グレイス・ケリーにイングリッド・バーグマン。だから『ドミノ』にもスーパースターを配役したかった。
ベン･アフレックはヒッチコック的な神秘性を与えてくれた。娘を捜す父親であり、容赦ない刑事でもある。彼のスター性と存在感によって、ヒッチコック映画を撮っている気分になった。彼はやる気満々で現場にやってきたよ。最高の俳優で、この役を見事に演じてくれた。
ベン演じるロークは刑事で、（ウィリアム）フィクナー演じるデルレーンを追っている。銀行強盗を起こし、忽然と姿を消した男だ。ロークはデルレーンがカギだと考える。デルレーンは、行方不明のロークの娘の写真を持っているからだよ。
いたちごっこが最後まで続くんだ。脚本は何度も修正したが、面白いのは『間違えられた男』（1956）みたいな物語ということだ。観客に新しいものを見せられる。
脚本を書き始めたときから気に入っている物語だ。想像力が刺激されアイデアがあふれてきた。シリーズ物を作れるくらいの大きなコンセプトなんだ。
映画製作は観客を暗い部屋に入れて催眠術をかける。映像を現実だと信じ込ませる。感情移入できるくらいにね。映像と音と音楽で催眠術のような構造を作って観客に何かを感じさせる。これこそ作品のテーマなんだ。
何が現実なのか分からない。登場人物と同様に観客も翻弄され続けるんだ。視覚で物語を伝えたいんだよ。この作品はそれを追求している。
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『ドミノ』
2023年10月27日（金）公開
アメリカ／2023／1時間34分／配給：ギャガ、ワーナー・ブラザース映画
監督：ロバート・ロドリゲス
出演：ベン・アフレック、アリシー・ブラガ、ジャッキー・アール・ヘイリー、ウィリアム・フィクナー
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