折村花子は映画監督デビューするはずだったが、デビュー直前で全ての夢を奪われてしまう。そんなとき運命的に出会ったのは、空気は読めないがやたら魅力的な舘正夫。花子は正夫とともに、疎遠だった家族の力を借りて、反撃の狼煙を上げる。映画『愛にイナズマ』は松岡茉優と窪田正孝をW主演に迎え、アフターコロナの社会を舞台に、今、描くべき物語として石井裕也監督がオリジナル脚本で挑んだ作品である。公開を機に、企画のきっかけや物語の着想、キャストについて語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

キャスティングは縁

──主人公の折村花子を松岡茉優さんが演じています。キャスティングの決め手を教えてください。

僕の勝手なイメージですが、松岡さんは強烈なパワーを内包している弾丸みたいな人。激しいエネルギーを秘めている。そういう存在はいそうでいないし、今回のキャラクターにも合う。しかも僕の周りの人たちが口を揃えて天才だと。だから一度ご一緒してみたいと以前から思っていたんですが、本当にたまたまスケジュールが空いていたんです。そういう意味で、キャスティングって縁ですね。

画像1: キャスティングは縁

──舘正夫を演じた窪田正孝さんはいかがですか。

会う前から思っていましたが、存在が最高に面白い。何を考えているのかわからないし、生き物としての不思議さ、面白さがある。今回の正夫はすごく危ない、ぎりぎりの存在です。そういう言葉で説明し辛い人物を平然とやってのけられる人って限られています。正夫を演じられるのは窪田くんしかいなかったと思います。

画像2: キャスティングは縁

──池松壮亮さんが長男の誠一を演じています。次男の若葉竜也さんより年下で、監督の作品では弟キャラを演じることが多かったと思いますが、今回は長男なのですね。

若葉くんの年齢を間違えていました(笑)。でも、それは関係ありません。そもそも2人ともそんなことは気にしていませんから。それが俳優のすごいところですね。

池松くんは実際には長男坊なので、“俺が兄貴だ”みたいな部分は持っていると思いますよ。

池松くんとは仕事をしてきた回数が多いのですが、毎回、演出のテーマが違う。今回はすこぶるバカなのに熱い兄貴という、今まで僕の作品の中では演じてこなかった要素を引き出せた気がします。

画像3: キャスティングは縁

──若葉さんが演じた雄二は兄よりしっかり者ですね。

若葉くんの役が脚本上ではいちばん難しい立ち位置です。どんどん前面に出てくる役ではないですから。この家族の中でどう立ち振る舞おうかというのはかなり悩んだと思います。だからなのか、多分誰よりも緊張していたと思います。

しかし、いざカメラが回り始めると、すごかったですね。こんなに人間の面白さが出せるんだと驚きました。感情を解放させる役ではないし、セリフ量も少ない。そういう難しい役のはずなのに、存在の仕方が素晴らしい。“よく、この役をここまで見事に成立させたな”と感動しました。

──父親の治を佐藤浩市さんが演じています。事前に何か話をされましたか。

浩市さんとは別の作品でご一緒する予定でした。その映画が飛んでしまい、代わりにこの企画を持っていったんです。多分浩市さんは脚本を読まずに出演を決めています。“これはやる必然がある”と、最初から分かってくださっていたと思います。

そういう経緯があったので、細かくどうのこうのという話はしていません。全面的に信頼していました。

現場で今まで映画をやってきたご褒美をもらった

──キャラクターの熱量が大きい作品です。演出でバランスを取るのが難しいということはありませんでしたか。

これだけの人たちが集まっていますから、後半の家族が集まるシーンはそれぞれの俳優が負けてなるものかという強烈なプレッシャーを感じていたと思います。でも、それがぎすぎすしたものを生むのではなく、明るく弾けましたよね。

皆さん極めて映画偏差値の高い人たちで、映画の言語が通用する。ひとこと言えば、「ああ、そっちなんですね」という理解が素晴らしく早い。難しいというよりも、演出家としては楽しくて仕方ない。今まで映画をやってきたご褒美をもらっている感じでした。

──花子はプロデューサーや助監督から映画を撮る“理由と意味”を問われます。監督ご自身は作品を作るときにそれを考えていますか。それとも花子のように理由はなく、自分の中のもやもやを形にされているのでしょうか。

僕も花子タイプですね。理屈だけではこの仕事はできません。意味がわからないパワーは絶対に必要です。こういう意味があって、ビジネス的にこうして、こういう映画を作るというような頭でっかちな考えだけでは映画は作れないと思います。

誰もが辛くて苦しいコロナ禍を経験してきた中で、それでも人生や人間を丸ごと楽しめるような映画を作りたいというところから、この作品は始まりました。じゃあその創作意欲に理由があるのかと言われれば、わかりません。それでも今しかできない力強い映画ができたのは間違いないと思っています。

<PROFILE>
監督・脚本:石井裕也

1983年6月21日、埼玉県出身。
大阪芸術大学の卒業制作として監督した作品『剥き出しにっぽん』(2005)が、第29回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞。

第37回日本アカデミー賞で『舟を編む』(2013)が最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。
他の監督作に、『ぼくたちの家族』(2014)、『バンクーバーの朝日』(2014)、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)、『町田くんの世界』(2019)、『生きちゃった』(2020)、『茜色に焼かれる』(2021)、『アジアの天使』(2021)、『月』(2023)などがある。

『愛にイナズマ』2023年10月27日(金)公開

画像: 『愛にイナズマ』予告編(10/27公開) youtu.be

『愛にイナズマ』予告編(10/27公開)

youtu.be

<STORY>
26歳の折村花子(松岡茉優)は幼い頃からの夢だった映画監督デビューを目前にしていたときに、空気は読めないがやたら魅力的な男性・舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。人生に明るい兆しが見え始めた矢先、花子は卑劣で無責任なプロデューサー(MEGUMI)に騙されて、企画を奪われてしまう。失意のどん底に突き落とされた花子だったが、正夫に励まされて反撃を決意する。そして10年以上帰っていなかった実家に正夫とともに戻り、妻に愛想を尽かされて出て行かれた父(佐藤浩市)と口先だけの長男の誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜めこむ次男の雄二(若葉竜也)を頼ることにした。突然、戻ってきた花子に戸惑いながらも本音を見せ始める父と兄たち。修復不可能に思えた家族の物語は思いもよらない方向に進んでいく。

<STAFF&CAST>
監督・脚本:石井裕也
出演:松岡茉優、窪田正孝、佐藤浩市、池松壮亮、若葉竜也
配給:東京テアトル
©2023「愛にイナズマ」製作委員会 
公式サイト:https://ainiinazuma.jp/

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