名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第31回。今回取り上げるのは、現在に至るまで、アクションだけでなく様々なジャンルの映画で才能を爆発させ、この度『カンダハル 突破せよ』『ロスト・フライト』と2ヶ月連続での新作公開となるジェラルド・バトラーです。(文・相馬学/デジタル編集・スクリーン編集部)
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アクションのジャンルに甘んじることなく 多彩な作品にチャレンジ

画像: 『オペラ座の怪人』のプロモーションで来日! Photo by Getty Images

『オペラ座の怪人』のプロモーションで来日!

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イギリスから世界に飛び出し、20年にわたり映画界で活躍を続けているジェラルド・バトラー。日本でも『オペラ座の怪人』(2004)でブレイクし、“ジェリー”の愛称でファンに親しまれているのはご存知の通り。

今秋『カンダハル 突破せよ』『ロスト・フライト』という2本の新作が日本公開され、ますます注目を集める、そんな彼の歩みを、改めて振り返ってみよう。

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『ロスト・フライト』の劇中、バトラーは「私は誇り高きスコッランド人だ」というセリフを発するが、この言葉どおり、彼は1969年11月13日にスコットランドのグラスゴーに生まれた。グラスゴー大学卒業後は弁護士としてエリートコースを歩んでいたが、俳優になる夢を捨てられず、ロンドンで演劇の世界に足を踏み入れた。

映画デビューは1997年の『Queen Victoria至上の恋』。数本の端役出演を経て、『ドラキュリア』(2000)の吸血鬼役で初主演を務める。そして2004年、アンドリュー・ロイド・ウェバー原作の傑作ミュージカルの映画化『オペラ座の怪人』で、主人公の“怪人”を熱演。本作のためにボイストレーニングを積み、堂々たる歌声を披露して観客を魅了した。

バトラーの人気を決定づけたのはなんといっても、フランク・ミラーのグラフィックノベルを映画化した歴史スペクタクル『300〈スリーハンドレッド〉』(2006)。古代ギリシャの都市国家スパルタの王を力強く演じ、アクションヒーローのような魅力を世界にアピール。これは4億5千万ドルもの世界興収を上げ、バトラーはハリウッドでもトップスターとなっていく。

その後、ビジネスパートナーのアラン・シーゲルと共同で自身の映画製作プロダクション、G‒BASEを立ち上げ、2009年の『完全なる報復』では主演とともにプロデューサー業にも挑戦。G‒BASE下で製作と主演を兼任するこのスタイルは、これまでの彼の多くの主演作品でとられている。

画像: 『完全なる報復』プレミアにてジェイミー・フォックスと Photo by Getty Images

『完全なる報復』プレミアにてジェイミー・フォックスと

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アクションのジャンルに甘んじることなく、バトラーは多彩な作品にチャレンジ。『P.S.アイラヴユー』(2007)のようなラブストーリーや、『男と女の不都合な真実』(2009)、『スマイル、アゲイン』(2012)などのロマンチックコメディ、『マシンガン・プリーチャー』(2011)などの実録ドラマと、着実に役の幅を広げていく。

また『ヒックとドラゴン』(2010)では声優業にも進出し、主人公の父親であるバイキングの長を貫禄たっぷりに表現して、アニー賞の候補に。同作はシリーズ化され、現在までに全3作が作られている。

もちろん、タフな存在感を生かしての、アクションの分野でも活躍は目覚ましい。とりわけ、合衆国大統領の警護担当者マイク・バニングを演じた『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013)は好評を博し、『エンド・オブ・キングダム』(2016)、『エンド・オブ・ステイツ』(2019)の続編2作が作られた。

他にも、強盗団を追う刑事役の『ザ・アウトロー』(2018)、原子力潜水艦の艦長にふんした『ハンターキラー 潜航せよ』(2018)、殺し屋役を演じた『炎のデス・ポリス』(2021)など見逃せない作品は多い。

また、その多くが仕事の一方で家庭を思っているキャラであることもドラマ的には面白い。これは『カンダハル 突破せよ』や『ロスト・フライト』にも当てはまる。

今後の作品には、『完全なる報復』で共演した友人ジェイミー・フォックスの初監督作『オール・スターウィークエンド』(原題)や、『ザ・アウトロー』の続編が、すでに撮影済み。

『グリーンランド 地球最後の2日間』(2020)の続編や、「エンド・オブ・ホワイトハウス」シリーズの最新作の企画も予定されているとのことで、楽しみは尽きない。脂の乗った50代のバトラーから、ますます目が離せない。

手に汗握る〝秋のジェリー祭り〞を楽しもう!

CIA工作員が繰り広げる、孤立無援の脱出アクション
『カンダハル 突破せよ』

画像: CIA工作員が繰り広げる、孤立無援の脱出アクション 『カンダハル 突破せよ』

イランでの核施設爆破のミッションを成功させたCIAの工作員トムは、次なる任務のためにアフガニスタンに飛ぶ。ところが、CIA内からのリークにより、イランでの作戦の全ぼうが世界的に報道され、正体を暴かれた彼は危険な立場に追い込まれる。

もちろん、新たな任務は中止。トムはイラン軍のみならず、タリバンやISIなどイスラムのさまざまな過激派から追われる身となった。

今や最重要課題はアフガンから脱出すること。近くにいる味方は、現地で通訳を務めるアフガン人のモーのみだった。CIA基地のあるアフガン南方のカンダハルに向かい、トムとモーは砂漠を超え、壮絶なサバイバルの旅を繰り広げる。

出身国や信仰を超える絆にシビレる!

画像1: ハリウッド屈指のオールラウンダー/ジェラルド・バトラー

アフガン出身のモーはアメリカに亡命し、CIAの依頼で現地通訳を務めるために名前を変えて祖国に戻った男。バトラーふんする主人公トムは彼の悲痛な過去を知り、友情を育み、モーを米国の家族のもとに帰そうとする。

そんな人間味に説得力をあたえるのが、バトラーの妙演。出身国や信仰を超える絆の体現にシビレて欲しい。

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『カンダハル 突破せよ』
公開中
2022/イギリス/1時間59分/配給:クロックワークス
監督:リック・ローマン・ウォー
出演:ジェラルド・バトラー、ナヴィド・ネガーバン、アリ・ファザール、バハドール・フォラディ

© COPYRIGHT 2022 COLLEAH PRODUCTIONS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED

4万フィートの上空から、世界最悪の島へ
『ロスト・フライト』

画像: 4万フィートの上空から、世界最悪の島へ 『ロスト・フライト』

シンガポール発、東京経由、ホノルル行きの便が14名の乗客を乗せ、大晦日に飛び立った。機長のトランスはホノルルに住む愛娘と新年を祝うことを楽しみにしている。ところが、フィリピン上空で嵐に遭遇。電気や無線系統の故障により、機はどこかもわからない島に不時着する。

実は、この島は外国人を人質にとって身代金を要求するフィリピンの反政府ゲリラの拠点で、命の価値も低い無法地帯だった。本社に連絡を取るため、トランスは護送囚人ガスパールを連れて島を探索。

ところが、この間に乗客や乗員がゲリラに拉致されてしまい、トランスは彼らを救い出すため、ガスパールとともに戦いを決意する。

リアルを追及した凄まじいアクション!

画像2: ハリウッド屈指のオールラウンダー/ジェラルド・バトラー

リアリズムにこだわる監督の方針に沿い、バトラーはパイロットに必要な知識を徹底的に吸収。さらにアクションでもハードな演技をこなした。

とりわけ凄まじいのは、廃墟でゲリラのひとりと格闘する場面。ワンカット撮影ゆえにごまかしも効かず、バトラーは長いファイトを演じ切った。「あんなに疲れた日はここ数年なかった」と彼は振り返る。

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『ロスト・フライト』
2023年11月23日(木・祝)公開
2022/アメリカ/1時間47分/配給:ポニーキャニオン
監督:ジャン・フランソワ・リシェ
出演:ジェラルド・バトラー、マイク・コルター、ヨソン・アン、ダニエラ・ピネダ

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ジェラルド・バトラーと言えばコレだ! 出演作4

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『Dearフランキー』(2004)

画像: U-NEXTで配信中 © Path・Fund Limited 2003

U-NEXTで配信中

© Path・Fund Limited 2003

同年の『オペラ座の怪人』の陰に隠れてはいるが、本作もバトラーの好演が光る逸品。

寄港先で、あるシングルマザーに幼い息子の父親として振舞って欲しいと頼まれた船員にふんしている。最初は報酬のために引き受けるが、実父のDVの被害に遭った少年や、その母と接するうちに変化が。無骨だが温かいバトラーの個性が生きた。

『300 〈スリーハンドレッド〉』(2006)

画像: U-NEXTで配信中 © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

U-NEXTで配信中

© 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

問答無用の代表作。古代スパルタのレオニダス王を、とにかく圧倒的に演じてみせた。肉体を作り込んで筋肉を増し、躍動的なアクションにも挑む。さらに、腹から声を出す古代の王らしい発声で見る者を圧倒。

兵士を鼓舞する“Tonight we die in hell!”など、多くの名セリフが生まれたのは、バトラーのセリフ回しがあってこそ、だ。

『マシンガン・プリーチャー』(2011)

画像: ©2011 MGP Productions, LLC. All Rights Reserved.
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麻薬の密売人から建築業者、さらには牧師へと転身した米国人の前科者サム・チルダースの実話。キリスト教に帰依したサムは、戦乱のスーダンの子どもたちの惨状を知り、現地に孤児院を建設しようとする。

次々と襲いかかる困難に心が折れかけるも、それでも信仰と銃をもって突き進む主人公。バトラーの頼もしい姿が印象に残る。

『エンド・オブ・ホワイトハウス』(2013)

画像: U-NEXTで配信中 © 2013 OLYMPUS PRODUCTIONS, INC

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© 2013 OLYMPUS PRODUCTIONS, INC

大統領警護官マイク・バニングは、バトラーの当たり役のひとつ。ホワイトハウスを占拠したテロ集団に、たったひとりでゲリラ戦を挑む姿は、さながら官邸版『ダイ・ハード』。政府高官ら要人が次々と殺されていく惨状の中、脱出するチャンスがありながらも現場に残り、大統領を助けようとする使命感のアツい体現にグッとくる!

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