父が失踪し、母と2人で暮らすマコト、内縁の妻と密やかに生活を送るケンジ、1 人で 2 人の子どもを育てるタケオ、久しぶりに実家へ帰ってきたユウイチ。映画『かぞく』は土田世紀の同名人気コミックを原作とし、4人の男性を通じて家族の在り方を描いている。監督を務めるのは『るろうに剣心』シリーズ、KDDITVCM「au 三太郎」シリーズで衣装デザイナーを務めた澤寛氏。本作では脚本・編集・衣裳デザインも手掛けている。作品公開を機に取材を敢行。企画のきっかけからキャスティング、演出、今後について語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

現代家族を包括的に描く

──原作は土田世紀氏の同名人気コミックで、さまざまな家族を描いた未完のオムニバス作品です。この作品のどんなところに惹かれたのでしょうか。

これまで、私は私の感性がどのように形成されてきたのかという疑問を持って生きてきました。その一つに、家族から受けた影響があり、そこで経験した出来事や感じたことが私たち大きな影響を及ぼしているのではないかと考えています。では、家族とは何なのか。その諸問題を考えるにあたり、土田先生の原作で描かれた家族は、私の感性を表すに十分な物語であったと言えます。

画像: 澤寛監督

澤寛監督

──未完の原作を映像化するのは難しかったのではありませんか。

まず、この漫画作品「かぞく」を、旧来の家族構造の特徴である家父長制から生じた問題から生まれた作品であると、解釈しました。この映画はナラティブの在りように重点を置く映画ではなく、登場人物が生きているその場で感じていることにフォーカスし、その感受がなぜ起こるのかを想像する必要がある映画です。そして、それぞれの家族、絶対的な他者である“他人の”家族を並列することで、他者とは何かを見つめ直す映画です。原作が未完であるという点は、このように物語性からの離脱を意識させることになりました。その上で、「家族とは何か」を問いかけています。

──キャスティングについてはどのようにお考えになりましたか。

抽象度が高い人物像を作っていくにあたって、演じる人間に大衆性が必要であると考えていました。特定の人物に感情移入するのではなく、登場人物の眼差しから推測し、その受難が生まれた理由を考え、鑑賞者自身の記憶につなげる。この映画の父母像と子供像、夫婦像は、とても象徴的です。象徴性を持たせられるキャスティングが必要でした。

──演出についてはいかがでしょうか。

観客にはあまり多くを説明しません。俳優たちは、場面、場面の出来事に対し感情を揺り動かしています。映画を観終わった観客がその感情の源泉を想像するようにもっていかなくてはなりません。俳優たちとは、各シーンの目的と、その感情の源泉について話をし、そこに応えていただくという演出を行っています。

──渡辺真起子さんや鶴田真由さんの嗚咽する姿が印象に残りました。

渡辺さんや鶴田さんがなぜ泣いているのか、何を溜めこんでいるのかということをこの映画は直接的な説明を行いません。渡辺さんは「罪を背負った家族との時間」、鶴田さんは「家族構成の欠落による受難」をテーマにしていますので、場面から状況が想像できなければなりませんが、それらを表現するためには人物の感情表現がとても重要になりました。どのようなメソッド、システムでお芝居をされるのかを現場で判断して、画面に必要な身体性や表情を引き出すようにテイクを重ね、お二人もその演出に真摯に向き合ってくださいました。

画像: 吉沢亮

吉沢亮

画像: 阿部進之介

阿部進之介

画像: 小栗旬

小栗旬

画像: 永瀬正敏

永瀬正敏

吉沢亮さん、永瀬正敏さん、阿部進之介さんは状況にリアクションをとる場面が多くありますので、一人芝居の小栗旬さんとともに、渡辺さんや鶴田さんが印象的になるのは必然とも言えますが、お二人や、福島リラさん、秋吉久美子さん、瀧内公美さん、片岡礼子さんらの芝居に対する熱量の大きさと真摯な態度によってこの映画は支えられています。

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