作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。これまで散々苦労に苦労を重ねてきたロシアの隣国フィンランド。改めてカウリスマキにその真意を聞いてみたい。

北島明弘
映画評論家。日本の旧作犯罪映画を名画座で集中鑑賞。一本目で刑事を演じていた俳優が、二本目で犯罪者というのはざら。

まつかわゆま
シネマアナリスト。GG賞に加えて映画祭の審査、各誌ベストテンの選出が重なる時期になり論文執筆が遠い…

土屋好生 オススメ作品
『枯れ葉』

小品だがアキ・カウリスマキ監督らしいエッセンスが詰まった絶品の味わいがある

画像1: 土屋好生 オススメ作品 『枯れ葉』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
理不尽な理由で失職に追い込まれたアンサと、酒浸りの生活から抜け出せないホラッパ。カラオケバーで出会った2人は果たして幸せをつかみとることができるのか。そしてハッピーエンドにたどり着けるのか。

上映時間は81分(=1時間21分)。小品とはいえアキ・カウリスマキ監督作品のエッセンスが詰まった絶品の味わい。北欧フィンランドの香りが漂ってくるようだ。それはカウリスマキならではの独自の映像スタイルであり、監督引退宣言から5年ぶりの現役復帰作でもある。

で、その映像スタイルをひとことでいえば、とぼけたユーモアに裏打ちされた人間的な世界。監督の言によれば「愛を求める心」のことで、平たくいえば希望や連帯を指す。別の言葉を探せば孤独を癒す温もりといったらいいか。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 『枯れ葉』

なるほどカウリスマキは「映画の神様」としてブレッソン・小津・チャップリンを挙げているが、もちろんそこには彼なりの皮肉も込められている。2023年には66歳を迎えたカウリスマキならではの偽らざる心境といえるだろう。

そういえば劇中でロシアによるウクライナ侵攻のニュースが流れる場面が出てくるが、2人の未来がハッピーエンドに終わるとしてもそこに監督の沸々と煮えたぎる怒りと絶望が凝縮されているようで、激しく心を動かされるものがあった。

公開中/ユーロスペース配給

© SPUTNIK OY 2023

北島明弘 オススメ作品
『バッド・デイ・ドライブ』

爆弾を仕掛けられた車に乗った男の危機を巧妙なサスペンス演出で描く

画像1: 北島明弘 オススメ作品 『バッド・デイ・ドライブ』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
自動車に爆弾が仕掛けられ、主人公はスマホの指示通りの運転を強いられる。同僚二人が爆死し、その容疑者としてパトカーには追われることに。ベルリンの街で爆発、疾走のスタント・レースが展開される。

リーアム・ニーソンの101本目の出演作で、2015年のスペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』の再映画化。かつては『シンドラーのリスト』(1993)のような重厚なドラマに出ていたニーソンだが、近年はもっぱら活劇で、凶悪な敵に捨て身の反撃を試みる孤高のヒーローを演じている。

本作で扮したファンド会社の経営者マットは顧客の投資で贅沢しながら、リスクは顧客に押し付けるかなりダーティなキャラクターだ。

画像2: 北島明弘 オススメ作品 『バッド・デイ・ドライブ』

マットの車に爆弾が仕掛けられ、降りるに降りられない。警察に通報したら即爆発と脅され、同乗している子供を助けるためにも、スマホの指示通りに運転するしかない。いつ爆発するかとひやひやどきどき。

声だけの真犯人の正体は?、目的は?。ほとんど車内のみという限定シチュエーションから、いかにして危機を脱出し、犯人を暴くか。サスペンスの盛り上げ方も上々で、テンションがエスカレートしていく。

妻を『シンドラーのリスト』以来の共演となるエンベス・デイヴィッツ、共同経営者をマシュー・モディーンが演じている。

公開中/キノフィルムズ配給

© 2022 STUDIOCANAL SAS – TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.

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まつかわゆま オススメ作品
『ティル』

息子の死を無駄にはしないと決める母の姿。
いまだ残る差別を忘れさせないために描く

画像1: まつかわゆま オススメ作品 『ティル』

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像3/音楽3

あらすじ・概要
実話の映画化。南部の親戚を訪れた息子がリンチにあい惨殺される。3日後川で発見された遺体は目をえぐられ頭を撃ち抜かれていた。母は遺体を会葬者に公開、殺人事件として裁判を起こし正義を問う。

アメリカにとって映画は、楽しませながら社会の仕組みや国民のあるべき姿を教えるツールであり、同時に海外の観客に負の歴史を含むアメリカ史を教える教科書でもある。

本作は1955年の「エメット・ティル殺害事件」を描く。シカゴ育ちの14歳の少年エメットが親戚を訪ねたミシシッピーで白人女性に口笛を吹いたという理由でリンチされ殺された事件である。

身元確認が困難なほど損傷が酷い遺体を母メイミーはシカゴに戻し、遺体を見られるようガラス蓋の棺に安置する。人々は衝撃を受け、公民権運動へつながった。

画像2: まつかわゆま オススメ作品 『ティル』

事件から70年。解消されぬ人種差別に、映画は戦いの歴史を若者に教え直さねばと、ウーピー・ゴールドバーグとバーバラ・ブロッコリと共にシノニエ・チュクウ監督が立ちあがった。

主役メイミーを演じたダニエル・デッドワイラーも、母親としての哀しみや怒りを越えて社会と戦っていく人間の姿を気高く毅然と見事に演じてみせた。

映画にはまだ使命と力がある。そんなアフリカン・アメリカン女性映画人の声を届ける作品である。

公開中/パルコ ユニバーサル映画配給

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