カバー画像:© Kazuko Wakayama
役所広司、自身が演じた主人公・平山を語る
2023年5月、ヴィム・ヴェンダース監督や共演者と共に『PERFECT DAYS』を携え、カンヌ国際映画祭を訪れた役所広司。
カンヌでの上映を終え、観客のスタンディングオベーションを受けた後、「観客の皆さん、褒めるのが上手ですよね」と照れながら
「(ヴェンダース)監督が言っていたんですけど、褒められても自分が上手いと思わないで、けなされても自分がだめだと思わないで、映画で語りなさいと。まさにそうだなと。でも今日みたいな温かい拍手を受けて、ああお客さんが喜んでくれているんだ、良かったな、と単純に思いました」
と顔をほころばせた役所は、ヴェンダース監督から学んだことについて、
「(撮影の間)常に楽しそうにしていたので、その姿勢がキャストを励まし、大きな演出になっていた」
と語った。また同地での会見では平山という人物の役作りについて聞かれ、
「平山がどういう所に住んでいて、どのくらいのお金を使って生きて来たのかということは伝わってくるので、住んでいる場所や使っているハサミ、歯磨き粉とかから、平山が僕自身の中に忍び込んできてくれたような気がします。
平山を演じる中で迷っている時に、監督からこっそりメモでこっちだよと道標をもらうこともありました。監督も平山がうらやましいと言っていました。物欲がなく、好きな本を読んで音楽を聴いて、眠りにつく。彼は平和でいいなとぼくも思います。
ただ監督から彼の秘密を明かすなと言われているので、どういうことがあってこういう生活をしているのか、というのは明かせないんですが、彼のような人間が増えてくると世界がもっと良い方に向くと思います。
それと撮影中は(田中)泯さんが演じたホームレスを見ながら、平山もあと一歩でホームレスになった過去があったのかも、そういうことを考えたり、このホームレスの男は本当に存在するのか、もしくは幻なのかわからない。そんな自分の分身のような気持ちで撮影していました」
と明かしてくれた。
ヴィム・ヴェンダース監督が語る、役所広司という俳優
これ以上の言葉を私は見つけることができない。
役所広司は、監督をする者にとって最高の俳優である。彼こそが俳優である。彼こそが平山であり、『PERFECT DAYS』というこの映画の心臓であり、魂なのだ。
この映画を通じて私たちはゆっくりと平山の視線や生き方を受け入れていく。彼の目を通じてこの世界を見つめる。そうすることで彼が選び取った人のために生きるというその姿に癒しを感じるようになる。
他の俳優でも平山を「演じる」ことはできるだろう。けれど、役所広司は平山そのものになった。穏やかさ、謙虚さ、大きな心。同じようなひとに対してだけでなくすべてのひとに対しても。自然に対してもそれをもつ。とくに木々には静かで美しい感情を抱いている。
カンヌの劇場から泣いて帰る人がいるとしたら、それはこの偉大な俳優が彼らを旅に連れ出したのだ。彼らの魂に、より良く生きることは何か。満たされた生き方とはどういうものか。そういう考えに火をともしたのだ。
こんなことを成し遂げる俳優は世界にそうはいない。私は彼と一緒に映画をつくれたことをとても幸せに思う。
『PERFECT DAYS』2023年12月22日(金)公開
公衆トイレの清掃員として平和な日常を送る男に訪れた小さな変化
『パリ、テキサス』(1984)『ベルリン・天使の詩』(1987)などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが、日本の東京を舞台に寡黙な公衆トイレの清掃員の日々と小さな変化を描いたドラマ。主演の役所広司がカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞。
東京のスカイツリーが見下ろす、押上の古いアパートで独り暮らしする公衆トイレの清掃員、平山。雨の日も風の日も毎日同じように渋谷まで車で出かけては、トイレを綺麗に磨き上げている。
掃除を終えるとおもむろに帰宅し、銭湯に出かけ、馴染みの居酒屋でいつものメニューを頼み、寝落ちするまで好きな本を読む。そんな日々を男は心から楽しんでいるようだ。
だがそんな彼の日常を小さく揺するように、ある出来事が起きる……。
『PERFECT DAYS』
2023年12月22日(金)公開
日本/2023/2時間4分/配給:ビターズ・エンド
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:役所広司、田中泯、中野有紗、柄本時生、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和
© 2023 MASTER MIND Ltd.