監督「多くのヘテロの女性が共感してくださったことがとても嬉しかった」
ーー本作は、冷戦時代ソビエト占領下のエストニアを舞台に、当時決して許されるものではなかった愛の物語を描いた作品です。エストニアでは2021年にLGBTQ映画として初めて一般公開され、大きな反響を呼んだそうですね。
ぺーテル・レバネ監督(以下、レバネ監督)「この映画はエストニアにある映画館の全てのチェーンで上映され、プロモーションツアーで回った5都市ではQ&Aも行いました。映画館にはたくさんのお客様がお越しくださったのですが、なんと観客の90パーセントが男女のカップルだったんです。公開前はLGBTQ当事者の方が多く来館されると予想していたのですが、いざ公開してみたらシスヘテロの方々がポップコーンを食べながら鑑賞するみたいな、そんな意外な光景が広がっていたのでとても驚きました」
ーーLGBTQ当事者ではない方々も一緒に本作を盛り上げていたのですね。
ペーテル監督「LGBTQのみなさんはもちろん、シスヘテロの方々や上映してくれたシネマチェーン、メディアなど幸いにも多くの応援があったおかげでとても大きな反響がありました。印象に残っているのが、カフェでお茶を飲んでいた時に年配の女性が『あなたの作品を観て感動しました』と声をかけてくれたこと。他にも『うちの旦那が他の女と浮気した時のこと思い出した』という声もありましたね(笑)。多くのヘテロの女性が共感してくださったことがとても嬉しかったです」
ーーロシアの無名の俳優セルゲイ・フェティソフさんの回想録「ロマンについての物語」を映画化するにあたり、何か気をつけたことがあれば教えていただけますか。
ペーテル監督「本作でセルゲイ役を演じ、私と共同で脚本を書いたトム(・プライヤー)と共にセルゲイと会う機会をもらいまして、三日間ほど一緒に過ごし、食事をしたり会話を楽しみました。その時に、セルゲイが『映画化する際には政治的なテーマをメインにするのではなく、愛の物語にしてください』とおっしゃったんです。なので普遍的なラブストーリーとして描くことを心がけたのですが、その結果あらゆる人々の心に響いたようで、セルゲイの言葉を大事にして良かったと思いました」
ーーセルゲイさんとお会いになられた時の印象はいかがでしたか?
ペーテル監督「太陽のように明るい方で、自分に正直に生きることを大事にされている印象を受けました。苦労が絶えなかったと思いますが、悲壮感は全く感じられず、ポジティブなマインドを持っていて、芸術や舞台、そして何より家族を大切にしている方でしたね。彼は病気のお母様の介護のために、故郷で4年間郵便配達の仕事をしていたそうなんです。そのあと舞台に復帰するのですが、本当はその部分も映画で描きたかったんです。でも長尺になってしまうので割愛してしまいました。製作前にセルゲイと過ごした経験が脚本やキャラクター作りに反映されていますし、きっとトムのお芝居にも影響を与えたんじゃないかなと思います」
トム「言葉よりも目線や仕草などで、より親密な関係性や愛を表現できた」
ーー役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ役のトムさんと、セルゲイが惹かれるパイロット将校のロマン役のオレグさんはどのように関係性を作っていかれたのでしょうか?
オレグ・ザゴロドニー(以下、オレグ)「本作への出演が決まってからクランクインまでに2ヶ月あったので、その間にトムや監督といろんな話をしたり、軽く芝居を合わせてみたりしてコミュニケーションを取っていました。そうした時間があったおかげで、監督とトムは僕の素の部分をオレグに反映できるように脚本を少し書き換えてくれたんです。そのあとルイーザ役のダイアナ・ポザルスカヤさんを交えたリハーサルが始まったのですが、本作はセルゲイとロマンの親密で濃厚なシーンが多いので、そこに関しては監督とトムと三人で綿密に打ち合わせを重ねながら準備をしていきました」
トム・プライヤー(以下、トム)「僕はロシア語もウクライナ語も喋れませんが、オレグは撮影の期間中に英語を少しずつ学んでくれたので、通訳を介さずに会話することも多かったです。ただ、完全に言葉だけで意思疎通できるわけではなかったので、会話以外でのコミュニケーションがとても重要でした。本作においても、セルゲイとロマンは言葉というよりは別の方法で愛を育んでいく様子が描かれていたので、オレグと僕の間に言語の壁があったことがプラスに働いたように思います。言葉よりも目線や仕草などで、より親密な関係性や愛を表現できたのは良かったですね」
ーー本作にはセルゲイの親友で、セルゲイと同じくロマンに惹かれていくルイーザの存在が丁寧に描かれています。私は過去にゲイの男性に惹かれたことがあるので、鑑賞中はロマンに怒りが湧くほどルイーザに感情移入してしまいました(笑)。トムさんとオレグさんはルイーザについてどのように捉えていましたか?
トム「今回、共同脚本家として一番意識したのは、ルイーザの描き方でした。実は原作に登場するルイーザは酒癖の悪い嫌な女として描かれているのですが、僕は彼女にも言い分があると思ったので、そこを明確に描きたかったんです。セルゲイとロマン、そしてルイーザは非常に複雑な三角関係で、男性二人は愛し合っていることを表にできず苦しんでいる一方で、ルイーザもまた一人で別の苦しみを抱え傷ついている。だからルイーザの存在を蔑ろにしてはいけないと思いました。男同士のラブストーリーを描いた作品のほとんどは、そこを無視して展開していきますよね。だからこそ、僕はルイーザの存在をしっかりと描くことを大事にしました」
オレグ「この物語の中で1番心の痛みを背負っているのはルイーザだと思います。親友のセルゲイに裏切られ、夫にまで裏切られる。だからルイーザに感情移入したあなたがロマンに腹が立った気持ちはとても理解できます。ロマンは自分の身を守るため、そしてキャリアを守るためにルイーザを利用したんですから。本当にルイーザを気の毒だと思います」
オレグ「おかしな体制を変えていけるような世の中にしていきたい」
ーー本作が大ヒットしたことが影響して、2024年の1月1日にエストニアでは婚姻の平等を実現する家族法が施行され、旧ソ連圏で初の同性婚承認国となりました。同性婚がまだ認められていない日本に住む同性カップルやLGBTQ当事者の方々、そして本作を楽しみにしている方にメッセージをいただけますか。
トム「まず言いたいのは、観客のみなさんには自由にこの映画を受け止めてほしいということ。人が人を愛すると、時には恐れを抱いたり、困難を乗り越えなければいけなかったりしますよね。そういう普遍的なことを描いたつもりですし、“愛はいたるところにある”というとちょっと歌の歌詞みたいですけど(笑)、そういったことをこの映画にメッセージとして込めました。あと、少しだけ微笑をたたえたラストのセルゲイの表情に重要なメッセージが込められているので、そこから“愛”というものを感じ取っていただけたら嬉しいです」
オレグ「当時のソビエトでは同性愛はタブーで、発覚すれば厳罰に処されるような体制下にセルゲイとロマンは置かれていました。そのせいで、彼らだけじゃなくルイーザも強烈な痛みを抱えてしまいます。人がありのままの自分でいられない状態であることはそういう悲劇を生み出すので、少しでもそういうおかしな体制を変えていけるような世の中にしていきたいです」
ペーテル監督「本作は男性同士の恋愛や苦悩、葛藤を描いていますが、世界中の誰もが彼らと同じ痛みや問題を抱えています。だから僕はシンプルで人間臭いラブストーリーとしてこの映画を完成させました。観客のみなさんから多くの共感や理解を得ることができれば、そのぶん差別が減少し、全ての人がもう少しハッピーに生きられる社会になるんじゃないかと、そういう希望を持っています。インタビューを読んでくださった方が少しでもこの映画に興味を持てたなら、ぜひ劇場で鑑賞していただきたいです」
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