最新インタビューを通して編集部が特に注目するキーパーソンに光をあてる“今月の顔”。今回は『オッペンハイマー』でついにアカデミー賞を初受賞したロバート・ダウニーJr.。役との出会いやクリストファー・ノーラン監督との仕事について語ります。(文・はせがわいずみ/デジタル編集・スクリーン編集部)
カバー画像:©Marco Grob for Universal Pictures © Universal Pictures. All Rights Reserved.

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ロバート・ダウニーJr. プロフィール

1965年4月4日、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。父ロバート・ダウニー監督作で子役時代から活躍し、『ベイビー・イッツ・ユー』(1983)で本格的にデビュー。『チャーリー』(1992)でアカデミー賞主演男優賞に初ノミネート。

主演作『アイアンマン』(2008)が大ヒットし、続編2作ほか「アベンジャーズ」シリーズ(2012~)にも出演し“MCU”の顔に。『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)で二度目のオスカー候補になり、最新作『オッペンハイマー』の演技も絶賛を浴びている。

“クリスとキリアンの仕事ぶりを見て多くのことを学んだし、この経験は人生を変えるものになった”

オッペンハイマー』で、主人公のJ・ロバート・オッペンハイマーを敵視するルイス・ストローズを演じてアカデミー賞助演男優賞を受賞したロバート・ダウニーJr.。アカデミー賞授賞式前に行われた今回のインタビューでは、改めてこれまでのキャリアを振り返り、『オッペンハイマー』に出演した経緯やクリストファー・ノーラン監督との初めての仕事について語った。

レッドカーペット上でも記者会見でも、独特の言動でその場をさらう彼は、ジョークやスラングを交えたコメントが得意だが、同席していた監督のクリストファー・ノーランをホロリとさせる発言が飛び出したのには驚いた。

──役名をもらっての映画初出演の思い出を聞かせてください。

ジョン・セイルズ監督の『ベイビー・イッツ・ユー』(1983)だったよ。2週間の仕事で、友達みんなに『俺はこの映画の顔になるぜ』って言っていたけど、出演シーンはごっそりカットされて、友人から『ロバート、ひょっとしてあれがお前だった?』って言われたよ。なぜなら、冒頭の数ショットにエキストラに混ざっていたような出演場面だったからね。幸先の良いスタートだったよ(笑)

──父親が映画監督だったことに反抗して別の業界に進もうと思ったことはありますか?

実は、店員として働いたことがあるんだけど、私は手ぐせが悪くてね。防犯カメラの時代以前だったんだけど捕まってしまったよ。それから、サンタモニカのウィルシャー通りと19番通りのところにあったアイスクリーム屋のスリフティで2年ほど働いた。裏方で、腕がすっかり牛乳臭くなったよ。あなたが食べたアイスを作っていたかもしれないね(笑)

──クリストファー・ノーラン監督から連絡が来た時のことを教えて下さい。

クリス(監督)の家に行くようにという電話がかかってきて、そこですでに興奮したよ。彼の家の中に入り、『オッペンハイマー』の脚本を読んだ。どの役を自分が演じるのか見当もつかなかったけど『これは凄い! とても重要な作品で、素晴らしい贈り物だ』と思った。

クリスがルイス・ストローズの役が私に相応しいとどうして思ったのかは謎だったけど、彼が(口調を真似て)『出演してくれるかな?』と言ってくれた。それはまさに、クリスの下での再教育プログラムの始まりだったね。

私は自分のキャリアの中で、自分には見えない、自分にとって何が可能なのかというビジョンを持ってくれる誰かが必要な時期にあったから、全てが繋がっているようだった。時には、誰かが自分の運命を先導する必要がある。そんなチャンスはそう滅多に訪れることはないよね。

──演じたルイス・ストローズについてどう思いましたか?

私はかなりの変人で、冷戦や第二次世界大戦についてオタクなんだ。だから、ルイス・ストローズはこれまで演じてきたキャラクターとは随分違う役だと思った。でも、クリスが脚本を渡し、出演を打診するということは、私がこの役にピッタリだと思ったからだと考えた。

時には、誰かから『自分では見えないかもしれないけど、このキャラクターは君の中にいるように見えるんだ』って言ってもらう必要がある。そして、それは素晴らしい贈り物だと思う。クリスは先見の明のある映画監督で、本作もその流れに乗っている。それに今更ながらに気づいたよ。

──キリアン・マーフィーとの共演はどうでしたか?

映画を観ればわかると思うけれど、私が演じたキャラクターとキリアンの演じたキャラクターは、水と油。ただとにかく、出演者を代表して言いたいのは、キリアンと監督は一緒にゴビ砂漠でマラソンをしているようなものだったということ。

私はほんの一瞬だけ合流し、立ち去ったけど、まるでそれはツール・ド・フランス(世界最大の自転車レース)に参加しているようだった。それをずっとやり続けたキリアンは本当に『凄い!』と思う。あんなのは今まで見たことなかったよ。

撮影現場は、落ち着いた雰囲気であり、信頼と理解があり、集中していながらも、自由なところもあった。そして、今回の撮影現場は、これまで参加した中で最も動きが少なく、1日12時間ずっと座っているというもので、心臓への負担は少なかった(笑)。

キリアンはノーラン監督のこうした現場を6回も経験していて、『私もやらなければ』って思っていたら、いつの間にかその中に自分も入っているのに気づいたんだ。

キリアンに初めて会ったのは、クリスのオフィスに行く時だった。エレベーターに一緒に乗ったんだけど、キリアンはすでにオッペンハイマーになり始めていてね。そこで『ボヤボヤしてられないぞ』って思ったよ。

──本作の出演で、自分の演技に何か学びがありましたか? ノーラン監督から何を学びましたか?

クリスの作品に出演して、自分の学びが完全ではなかったことに気づいた。本作への出演は、まさにマスタークラスに参加しているようだった。クリスとキリアンの仕事ぶりを見て、多くのことを学んだ。そして、この経験は人生を変えるものになった。

クリスは他の人には見えないものが見えるんだ。その人自身、気づかなかったものをその人の中に見つけることができる。そして、みんなが仕事しやすい環境を作ってくれる。キリアンが減量し続けなければならないと思うと、食事の量をチェックしたり、一番細くなっているシーンの撮影を最後に持って来たりした。そして、その日に出演場面がある俳優がその役でいられるような環境を整えてくれていた。

クリスは本当に寛大な人で、俳優がまだその役の演技をつかめていなかったら、それが見つけられるような場面を探す助け船を出す余裕のある人なんだ。100万パーセントね。

(これを聞いて同席していたノーラン監督は「I love you man(ありがとう)」と涙ぐみながら答えていた)

『オッペンハイマー』公開中

画像: 『オッペンハイマー』公開中

第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話にもとづいて描く。『ダンケルク』(2017)のクリストファー・ノーランが監督、脚本を務め、世界興収10億ドルに迫る大ヒットを記録。

ノーラン監督作品常連のキリアン・マーフィーが主演を務め、ロバート・ダウニーJr.はオッペンハイマーと対立していくアメリカ原子力委員会委員長のルイス・ストローズ役を演じる。

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『オッペンハイマー』
公開中
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニーJr.、フローレンス・ピュー
配給:ビターズ・エンド  ユニバーサル映画

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