ジョン・レノンとオノ・ヨーコは1973年秋から75年初頭にかけての18カ月間、別居していた。その期間は「失われた週末」と呼ばれ、ジョンはヨーコの希望で、2人の個人秘書であり、プロダクション・アシスタントを勤めていた中国系アメリカ人、メイ・パンと過ごしていた。『ジョン・レノン 失われた週末』は貴重なアーカイブ映像、写真とともに、メイが若き日の自分とジョンとの忘れ難い日々を回想しながら、彼女の目で見た素顔のジョン・レノン描いたドキュメンタリーである。公開を前にメイ本人に取材を敢行。今の思いを聞いた。(取材・文/ほりきみき)

音楽を通じて絆を育んだジョン・レノンとメイ・パン

──映画化を打診されたときのお気持ちからお聞かせください。

ジョンとヨーコの映画はこれまでにいくつも作られてきました。その度に私のところに「“失われた週末”も入れたい」とアプローチがありました。しかし挟み込まれる飾りのようなエピソードとして描かれるのは嫌だったので、断ってきました。

2017年くらいにたまたまイヴ(・ブランドスタイン)と会ったときに「あなたのドキュメンタリーとしてやりたい」と言われたのです。その言葉がつかみになり、それならやってもいいと思いました。

──映画化に際して、何か希望を伝えましたか。

監督であるイヴ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズの3人が自分たちでリサーチしたこともあるだろうけれど、まずは私が語ったことをきちんと受け入れてほしいと伝えました。

ただ、現場に行って口をはさむことはしたくありませんでした。撮り始めたら3人に任せて、ラッシュ版ができたところで見せてもらって、最後のナレーションを入れました。

──完成した作品はいかがでしたか。

いろいろ懐かしく思い出されましたが、何といってもジョンが私に音楽を作って演奏してくれたこと。あのシーンに尽きますね。すごくうれしかったことを覚えています。

NYでタクシーに乗るとき、私の隣にジョンがいて、向こうにポールとリンダがいるというシーンがありましたが、あれもいい思い出です。

──あなたとジョンが過ごした時間を世間は「失われた週末」と呼んでいますが、ジョンのソロキャリアの中ではむしろ商業的に成功した実り多き時期だったのではないでしょうか。

私もそう思います。イヴたちもそう思って、この作品のタイトルに「The Lost Weekend」を使いつつも、別の意味を持たせるように、「A Love Story」も添えて強調したのだと思います。それはイヴたちの気持ちでもあるし、私の気持ちでもあるのです。
(※ 原題は「The Lost Weekend:A Love Story」)

画像1: 音楽を通じて絆を育んだジョン・レノンとメイ・パン

──ジョンとあなたはどのように絆を育んでいたのでしょうか。

私たちにとって大事だったのは音楽でした。私とジョンは10歳くらい年齢が違うので、普通だったら「えっそんな曲、知っているの?」ということになりますが、私がいろんな曲を知っていたので、ジョンは驚いていました。だから、よく冗談で「あなたはイギリス人で、私はアメリカ人。あなたが好きだと言っている音楽も実は私が先に聴いているのよ。あなたはイギリス人だから2番目なの」と言っていました(笑)。

とにかく音楽に関しては彼とたくさん話をしていました。ジョンはボーイフレンドであり、恋人であり、何より音楽の友だったのです。

ミーティングにも2人で出掛けていましたが、ジョンはいつもみんなに「メイはすごくよくわかっているから」とうれしそうに言っていました。

──当時、どんな曲をよく聴かれていたのでしょうか。

オールディーズが多かったですね。Rosie & The Originalsの「Angel Baby」はよく聴いていました。普通の人は知らないような曲ですが、私が知っていたので、ジョンが「君、知っているの?」とかなり驚いていました。

「彼らとやってみたい」とジョンが言い出し、Rosie & The Originalsの曲をジョンと一緒に聴いたことは今となってはいい思い出です。

──ジョンと過ごした時間はあなたのその後にどのような影響を与えましたか。

ジョンと過ごしたことがその後の人生を豊かなものにしてくれました。だって、ジョンは私にとって初めて一緒に暮らした男性なのですから。今は子どもを2人も授かりましたが、子どもたちにジョンのことを語ってあげられるなんて、思ってもみませんでした。

──ラストにあなたとジュリアンが並んで歩く姿が印象に残ります。あなたにとってジュリアンはどのような存在なのでしょうか。

ジュリアンとはあまり歳は離れていませんが、彼が幼い頃から知っているので、常に「守ってあげたい」という気持ちを感じていました。彼の母親であるシンシアは当時、ジュリアンがジョンとの関係をうまく結べていないことを心配して悩んでいましたから、私がジュリアンとジョンの関係をうまく取り持ってあげなくてはと思っていたのです。その気持ちは今も変わりありません。

画像2: 音楽を通じて絆を育んだジョン・レノンとメイ・パン

──大きくなったジュリアンはジョンに似ていますか。

似ていないとは言わないけれど、ジュリアンを見ているとジョンとシンシア2人の部分がうまく入っているように思います。

──今、ジョンに何か伝えるとしたら、何を伝えたいでしょうか。

ジョンは真実にこだわっていました。そんなジョンがよく「僕たちの関係もいつかはみんながわかってくれるよ」と言っていたんです。だから、「真実を語る機会ができた」と伝えたい。今、ここにジョンもいてくれたら、本当に幸せだっただろうと思います。

──これからご覧になる日本の観客に向けてひとことお願いします。

この作品では、これまで誰も知らなかったことが描かれています。何が真実だったのかを分かっていただければと思います。

<PROFILE> 
メイ・パン 
1950年、アメリカ合衆国、ニューヨーク州生まれ。中国系移民としてスパニッシュ・ハーレムで育つ。ビートルズのジョン・レノンとオノ・ヨーコの個人秘書、プロダクション・アシスタントとして働き、アップル・レコードだけでなく、ユナイテッド・アーティスツ・レコード、フェイマス・ミュージック、アイランド・レコードのアシスタントとしても音楽出版にも携わる。89年に音楽プロデューザーのトニー・ヴィスコンティと結婚。08年に「失われた週末」を未公開写真とエピソードで綴った『ジョン・レノン 失われた週末』(河出書房新社)を発表。12年には自身の風水ジュエリーブランドを立ち上げるなど、写真家、作家、ジュエリー・デザイナーとして多方面に活躍している。

『ジョン・レノン 失われた週末』5/10(金)より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

<STAFF&CAST> 
監督:イヴ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズ 
出演:メイ・パン、ジョン・レノン、ジュリアン・レノン、ポール・マッカートニー、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン 
2022年/アメリカ/英語/94分/カラー/1.85:1/5.1ch 原題:The Lost Weekend:A Love Story 
配給:ミモザフィルムズ 
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