カバー画像:©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
誰もが忘れられない一本がここにある。
サーチライト・ピクチャーズ。その名前を聞くと、心がときめく映画ファンもいるだろう。『哀れなるものたち』、『イニシェリン島の精霊』、『ノマドランド』…と、アカデミー賞に絡む秀作を毎年のように送り出すスタジオ。独創的な作品を次々と製作、あるいは配給する。
メジャースタジオでは不可能な作家性の強い映画にも積極的にゴーサインを出すのは有名。低予算で傑作を生み出すコスパの良さも自慢で、今年のアカデミー賞を例に出せば、『オッペンハイマー』や『バービー』が1億ドルの製作費だったのに対し、『哀れなるものたち』は3500万ドル(ともに数字は推定)。この差で同じ土俵に立てるのだから、監督たちから絶大な信頼を受けるのも納得だ。
1994年の設立以来の歴史をさかのぼれば、『フル・モンティ』(1997)、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)、『(500)日のサマー』(2009)、『ブラック・スワン』(2010)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)など、誰もが人生で忘れられない一本を発見することができる。
北米における年間のリリース作品はつねに10本前後をキープし、クオリティを落とさないのがサーチライトの方針だ。ハリウッドにおける“名作製造工場”と呼んでもいいかもしれない。
映画作家の野心的なチャレンジを受け止めることから、“オンリーワン”と呼べる作品が次々と送り出されている。もちろん先鋭的なテーマだったり、マニアックな題材が含まれていたりもするが、そうしたインディペンデント系の傾向を、多くの観客が引き込まれ、感動し、あるいは笑えるような作品に仕立て上げるのもサーチライトの大きな特徴。
アカデミー賞に絡んだ作品を振り返るとアーティスティックな路線も感じさせるが、コメディやサスペンス、ホラー、SFまで、扱うジャンルは多種多様。ジャンルのボーダーも曖昧で、衝撃を受けようとして観たら感動して涙してしまった…など、思わぬ体験をすることも可能。まさに映画の本質を突いてくる作品が多い。
20世紀フォックスの子会社で、当初はフォックス・サーチライト・ピクチャーズという名称だったが、ディズニーの傘下となった現在はサーチライト・ピクチャーズに改名。名前は変わっても会社としてのポリシーは揺らがず、オープニングのおなじみのロゴも社名部分を修正しただけで変わっていない。映画の前にあのロゴとファンファーレでテンションが上がる人も多いのでは?
メジャースタジオとは違って、特定の場所に光を当てる、文字どおり“サーチライト”としての役割を担うこのスタジオは、これからも深く愛される作品を届けてくれることだろう。
ここがすごい!サーチライト・ピクチャーズ
知っている人は追いかけている。知らなかった人も実は結構観てる良作を送り続けるサーチライト・ピクチャーズのすごさとは?
これまでに作品賞を5度受賞!アカデミー賞常連スタジオ!
1994年に設立されたサーチライトが、2023年までの30年間で、アカデミー賞作品賞を5回も受賞。単純に計算すれば6年に1回のペースだが、初受賞が2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』で、2013年と2014年は『それでも夜は明ける』と『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で連続。過去16年で5回受賞という、他のスタジオではありえない高確率だ。
しかも作品賞ノミネートということなら、2008年以降で入らなかったのは、2009年、2016年、2020年の3回のみ。毎年、アカデミー賞にふさわしい作品を複数送り出し、そこから賞レースに向けて本命へと絞っていくのが、サーチライトの戦略でもある。
『スラムドッグ$ミリオネア』
第81回アカデミー作品賞受賞
アカデミー賞では作品賞など8部門受賞。インド社会を描くイギリス映画ということで多様性を先取りしていた。ダニー・ボイル監督は本作の前に『28日後...』『ミリオンズ』『28週後...』などでサーチライトと組んでいる。
ブルーレイ発売中/2,200円(税込)
発売・販売元:ギャガ
© 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation
『シェイプ・オブ・ウォーター』
第90回アカデミー作品賞受賞
監督はオタクで有名なギレルモ・デル・トロ。人間と半魚人の恋を衝撃シーンも盛り込んで描いた作品が、アカデミー賞で頂点に。この年は同じサーチライト作品の『スリー・ビルボード』と“2強”の作品賞争いになった。
『ノマドランド』
第93回アカデミー作品賞受賞
家を持たず放浪する高齢者という、時代を映す社会派テーマで作品賞に到達したのはサーチライトらしい。クロエ・ジャオはアジア系で初の監督賞に輝いた。コロナ禍で従来とは違う形式の授賞式だったことも記憶される。
こちらもアカデミー作品賞 受賞
第86回『それでも夜は明ける』
第87回『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
その監督“らしさ”を引き出す! 作家性重視!
「製作費は安くてもいいから、作りたいものを作らせてほしい。そうお願いしたら受け入れられた」。ギレルモ・デル・トロのその言葉が代弁するように、監督の作りたい題材を全面的にバックアップし、オスカーへの道を開く。そんなサーチライトの姿勢によって、多くの監督との信頼関係が築かれた。
メジャースタジオのような巨額な製作費は出せないが、限られた予算でも作家性を守ることで、好循環が生まれている。このあたりは後進のA24がお手本にしたスタンスでもある。サーチライト常連の監督としてはダニー・ボイル、ウェス・アンダーソン、タイカ・ワイティティ、マーティン・マクドナー、ヨルゴス・ランティモスなど錚々たる顔ぶれが並ぶ。
ウェス・アンダーソン『 グランド・ブダペ スト・ホテル』
『ダージリン急行』(2007)で組んだサーチライトと、ウェス・アンダーソン監督の再タッグが実現。パステルの色彩や左右対称の画面など、彼のセンスが最大限に生かされ代表作になったのも、サーチライトの後押しのおかげか。
リチャード・リンクレイター『ウェイキング・ライフ』
「ビフォア」シリーズや『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)など大胆な作風のリチャード・リンクレイターにとっても、実写をデジタルペインティング加工した本作はかなり実験的。サーチライトのチャレンジ精神がうかがえる。
テレンス・マリック『ツリー・オブ・ライフ』
ハリウッドでも独自の作家性で知られるテレンス・マリック監督は、サーチライトのスタンスとも合致。ブラッド・ピットらを起用し、壮大&超越的ビジュアルで家族の物語を描き、カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞。