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小さな作品に光を当てるべく今から30年前の1994年に設立
サーチライト・ピクチャーズの歴史は今からちょうど30年前に始まった。それまで20世紀フォックスは、TLCフィルムズなどのレーベルで、インディペンデント作品や、特殊なジャンルを手がけ、『サスペリア』(1977)や『ジギー・スターダスト』(1973)などカルト的な話題作を送り出してはいた。
1980年代後半から日本でもミニシアターブームが起こっていたように、世界中でアート映画が活気づき、1990年代の初めにはアート系作品も得意とするミラマックスをディズニーが買収。それに刺激を受けたフォックスも、1994年、同社の元共同会長で、当時サミュエル・ゴールドウィン・スタジオで働いていたトム・ロスマンによって、フォックス・サーチライト・ピクチャーズを設立した。
メジャースタジオをバックグラウンドにして、小規模予算のインディペンデント映画を製作・配給するという理念で、サーチライトは動き出す。
地道に良作を送り届けアカデミー賞の常連へ
はじまりはこの作品
『マクマレン兄弟』(1995)
記念すべき第1作は、アイルランド系の3兄弟の恋と人生をリアルに描いた人間ドラマ。俳優のエドワード・バーンズの監督デビュー作(主演・脚本・製作を兼任)という点が、新たな才能を見出すサーチライトの特色を表している。
1995年、第1作となる『マクマレン兄弟』を公開後、1990年代は現在ほどの本数ではないが、コンスタントに理念どおりの作品を発信。当初は、評価は高くても興行的に厳しい作品が続くものの、1997年、配給を手がけた『フル・モンティ』のヒットが、サーチライトの仕事を世界に知らしめた。
『フル・モンティ』(1997)
サーチライトにとって商業的に初の大成功を収めた一作。イギリス映画でサーチライトは北米ほかでの配給を担当した。さえない日常を送る中年男たちがストリップに挑む痛快作は、日本でもヒット。ブロードウェイでミュージカル化された。
そして1999年の『ボーイズ・ドント・クライ』は、サーチライトに初めてオスカー(主演女優賞)をもたらす。
『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)
実在の人物をモデルに、生まれもった性別への違和感と向き合い、純粋な恋を経験する主人公で、ヒラリー・スワンクがアカデミー賞主演女優賞を受賞。1990年代にセクシュアリティの多様性をテーマにしたのもサーチライトらしい。
2000年代に入ると、『サイドウェイ』、『リトル・ミス・サンシャイン』など地道に受賞を重ね、サーチライトはアカデミー賞の常連となっていく。日本でもこれらの作品によって、サーチライトの名前が映画ファンに広く認知されるようになった。
『スパニッシュ・ アパートメント』(2002)
サーチライトが北米ほかの配給を手がけた海外作品の中でも、秀作の一本。フランスのセドリック・クラピッシュ監督の青春3部作の1作目で、バルセロナを舞台にフランス人のグザヴィエを中心にした各国の若者の共同生活は共感度満点。
『サイドウェイ』(2004)
ワイナリーで描くヒューマンコメディは、日本映画としてもリメイクされるほど愛された。アカデミー賞では作品賞など5部門ノミネートで脚色賞受賞。アレクサンダー・ペイン監督は『ファミリー・ツリー』(2011)でもサーチライトと組んだ。
『リトル・ミス・サンシャイン』やロシアの大作『ナイト・ウォッチ』といった2000年代の中盤に世界配給を担当した作品が大ヒットを記録することで、映画製作や配給のサイクルも順調となり、平均すると年間10本ほどのサーチライト作品が世に送り出されるようになった。そんな流れが定着し、映画関係者にとって、ひとつの「ブランド」として確立されたのである。
2006年に、よりヤングアダルト向けなジャンルを扱う関連レーベルのフォックス・アトミックも設立。同レーベルは2009年に終了するまで『28週後…』などを製作した。
『JUNO/ジュノ』(2007)
16歳で妊娠したヒロインの悩める日々を軽やかに展開。口コミで人気が広まり、北米公開では当時、サーチライトとして最高の興行収入を記録した。これがデビュー作だった脚本家のディアブロ・コーディは見事にオスカーを獲得。
2009年、アカデミー賞8冠! さらに野心的な企画へも挑戦
サーチライトの歴史でも大きなトピックとなったのは、2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』によるアカデミー賞での作品賞など8部門受賞。これ以降、現在(2024年)に至るまで、アカデミー賞で8部門以上受賞の作品は出現していない(今年の『オッペンハイマー』も7部門)。
アカデミー賞の受賞は当然のごとく興行収入にも好影響を与え、スタジオとしての経営も安定する。その結果、さらに映画監督の野心的なプロジェクトにもゴーサインを出しやすくなっていった。
『ブラック・スワン』(2010)
本作でオスカー受賞のナタリー・ポートマンが、現実と幻覚が交わり、精神的に追い詰められるバレエダンサーを熱演。センセーショナルな映像も話題を集め、日本ではサーチライト作品として最高となる興行収入(23.9億円)を記録。
2013年にはもともとフォックスの親会社だったニューズ・コーポレーションの分社によって、サーチライトはエンターテインメント部門の21世紀フォックスの子会社となる。2016年くらいからは配信の活況もあって、作品買付が高騰化。サーチライトは買付・配給も継続しつつ、製作業務メインへとシフトしていく。
『それでも夜は明ける』(2013)
ブラッド・ピットのプランBなどが主導した本作にサーチライトも製作協力。『スラムドッグ$ミリオネア』に続き、サーチライトにとって2度目のアカデミー賞作品賞となった。19世紀、農園に売り飛ばされた黒人男性の過酷な体験を描く。
『バース・オブ・ネイション』(2016)
黒人奴隷の反乱を描いた問題作にして骨太作。白人目線だった1915年の『國民の創生』と同じタイトルで、同作へのアンチテーゼも込められた。サンダンス映画祭史上の最高額(当時)でサーチライトが買付けたことが話題に。
『スリー・ビルボード』(2017)
亡き娘の復讐を誓った母親の攻防は、予想もしない方向へ転がっていく。『シェイプ・オブ・ウォーター』と同年の作品でサーチライトの底力を証明した。マーティン・マクドナー監督は次の『イニシェリン島の精霊』もサーチライト作品。