1人のフィルムメーカーとして政治的に意味のあるものを作りたい
──スウェーデンの気候変動学者アンドレアス・マルムが 2021 年に著したノンフィクション本「パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか」を読んだことが本作のきっかけとうかがっています。
私がその本を読んだのは、コロナ禍のロックダウンが終わった頃でした。アメリカは政治的にも、社会的にも不安定な時期で、2021年1月6日にはドナルド・トランプ前米大統領の支持者による連邦議会議事堂襲撃事件があり、夏にはいくつもの蜂起が起こりました。
そんなときだからこそ、1人のフィルムメーカーとして政治的に意味のあるものを作りたい。マルムの本に書かれている地球を救う方法は誰にでもできるものでしたが、革命家モノや強盗モノを撮ってみたいと以前から思っていましたし、スリリングで、かつ政治的な意味を持つ映画をそんなに大きくない製作費で作るアイデアがふっと浮かんだのです。そこから、映画を作るために走り始めました。
──監督は気候科学者のご両親を持ち、気候変動についてのドキュメンタリーからキャリアをスタートさせました。そういったバックボーンがこの作品ではどう活かされていますか。
気候科学は子どもの頃から生活の中に溶け込んでいました。ですから、気候変動に関するものをどうしたら物語に取り込むことができ、みなさんに耳を傾けてもらえるかをずっと考えていました。
しかし、10代のときに気候変動の作品に関わり、失敗した経験があります。アメリカには政治的、あるいは社会的事実を描いた作品は存在しますが、出資するのは大企業。進歩的とか革新的な作品と言ってはいても、実のところは今の状況をそのまま維持しましょうということをさり気なく発信している作品が非常に多い。子どもの頃はそれに対して、真っすぐに「それは違うだろ」と言っていましたが、商業的なシステムの中では限界があるのです。
その経験から、こういった内容のディスカッションを拡大させていくにはどうしたらいいのか、ずっと考えてきました。
──この作品は資金の調達に苦労されたということでしょうか。
これまでに3本の映画を撮っていますが、実はこの作品がいちばん簡単に出資を集めることができました。1本目のNetflixのホラー映画『CAM』のときに感じましたが、かなり挑発的で、企画を見た人のほとんどが「自分にとって刺激が強すぎる」と言っても、1人か2人でも出資すると言い出せば、すぐに集まるものなのです。
本作のような作品は文化的に興味を持つ人がかなりいますが、「資金が集まらない」と作り手側が勝手に思い込んでしまっているのかもしれません。普通の作品よりも草の根的な活動や努力が必要ですが、出資してくれる人たちはいるということをもっと認知していいんじゃないかと思っています。
ただ、アメリカの場合は業界にエージェントが入っていて、制作会社も配給会社も現状維持が目的になってしまっているところがあります。この作品はスタジオNEONで配給していますが、それはNEONに個人的な知り合いがいたのでできたこと。私が所属するエージェントは大企業で、このような作品のために何か骨を折ることはないのです。
そういうシステムとどう対峙するのか、自分の中でも複雑な感情がありますが、それでも作ろうとしないと、限界を超えていくようなストーリーテリングは生まれてこない。多くの人がこういった作品を見たいと思っていて、実際に作って、上映すれば足を運んでくれると信じています。
──1人の主人公に焦点を当てるのではなく、8人の登場人物、それぞれにドラマがあり、パイプラインの爆破という目的で繋がったグループとして描いています。キャラクターを作る上で大切にしたのはどんなことでしたか。
まず1つ意識したのは、幅広く多種多様な人を配置することでした。アメリカにおける気候危機はこれだけ多くの人々に影響を与えているということを観客に見せることが大事だったのです。観客にとって「自分の友人がこういう行為をしたら、どう思うか」という問いかけでもあるので、自分たちの周りで“この人だったらこういう行動を取ってもおかしくない”という人をかなりリサーチしました。
──アリーシャは当初、ソチの考えに疑問を呈しましたが、テオのために参加します。アリーシャの意見について、監督はどのようにお考えになりますか。
個人的にはアリーシャとソチ、それぞれの視点に理解できるので、どちらにもシンパシーも感じ、アリーシャの意見もすごく正しいと思います。
ただ、この状況においては正解というか、すべてを解決する魔法の銃弾というものはありません。革命を起こすにしても、内部で意見の違いはあるし、妥協もしなくてはいけないでしょう。巻き添えで被害を受ける人がいるかもしれません。
ここで見せたかったのは、革命を志している集団ではあっても、その中で多少の意見の相違はあってもいいということ。
多くの場合、こういう物語でグループの中に何か意見の違いが起こると計画が失敗したり、解体してしまったりすることが描かれていますが、内部で意見の相違があったとしてもすべて破綻する必要はないということを描きたかったのです。
──公開後、環境保護主義者の方々の反響はいかがでしたか。
反響は様々で、こういったことを描いてくれてうれしいという言葉をいただくと同時に、商業的過ぎるのではないか、シンプルに描き過ぎではないか、幅広く描き過ぎではないかなどと批判的な言葉もありました。どちらにしても、主流ではない自分たちの活動がハリウッドで取り上げられたことに妙な感覚があったようです。それは自分にもよくわかります。
この作品のメッセージはきちんと受け入れてもらえ、基本的には心温まるような言葉や見方だったので、うれしかったです。
<PROFILE>
ダニエル・ゴールドハーバー
ロサンゼルスとニューヨークを拠点にする監督、脚本家、プロデューサー。両親が気候科学者。高校時代から映画製作を始め、サンダンス・ドキュメンタリー『チェイシング・アイス』で編集者として働く。その後、ハーバード大学で映像と環境研究を学び卒業。Netflixのホラー映画『CAM』を監督し、2018年のファンタジア映画祭で最優秀初監督賞を受賞し、FilmmakerMagazineの「2018年の25人の新しい映画人」の一人に選ばれた。刺激的で挑戦的なストーリーをスリリングでアクセスしやすい方法で伝える方法に情熱を持って取り組んでいる。
『HOW TO BLOW UP』2024年6月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、池袋HUMAXシネマズ、シネマート新宿ほか全国公開。
<STAFF&CAST>
監督:ダニエル・ゴールドハーバー
脚本:アリエラ・ベアラー、ダニエル・ゴールドハーバー
出演:アリエラ・ベアラー、サッシャ・レイン、ルーカス・ゲイジ、クリスティン・フロセス、フォレスト・グッドラック
2022年 / US / 英語 / カラー / 104分 / 原題: HOW TO BLOW UP A PIPELINE / 字幕翻訳:横井和子
配給:SUNDAE
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