県警の広報職員という、本来は捜査する立場にない主人公が親友の変死事件の謎を独自に調査し、事件の真相と、次第に浮かび上がる“公安警察“の存在に迫っていく。杉咲花主演の『朽ちないサクラ』は柚月裕子の同名小説を原作とし、『帰ってきた あぶない刑事』(5月24日公開)の監督に抜擢された期待の新鋭、原廣利監督がメガホンをとった。公開を前に原監督にインタビューを敢行。制作におけるコンセプトなどについて話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

人物の感情に合わせてカメラを動かす


──全体的にカメラワークに動きを感じました。特に寄っていったり、引いていったりという前後の動きは多かった気がします。

僕の作品は普段からそうですね。物語が動いていないときにカメラも動かないというのはもちろんありだと思いますが、人物の感情に合わせてカメラが動いてもいいんじゃないかと思っているのです。人物の感情の昂りはトラックイン、気持ちがさーっと引いていく感じはトラックバックが有効だと思っているので、意識して使いました。

映画って2時間の中でキャラクターが何をするのかを見せないといけないので、ファーストインプレッションがすごく大事。泉、磯川、富樫、梶山のファーストカットはインパクトがあるようにしました。例えば、泉の場合はタイトルが終わってすぐの黒味からドンと映したショットをドキドキした感じで見せています。磯川と富樫はバックショットから回り込んでいく。梶山はペンをカチカチやってキャラクターを表現しています。

画像1: 人物の感情に合わせてカメラを動かす


──そのカメラワークのおかげで物語の展開がとてもわかりやすかったです。

この作品は裏設定がわかりにくい。小説では想像させてくれますが、それは文字だからこそできること。映像はちゃんと見せないと理解してもらえないので、見せることを意識しました。


──キャラクターに原作にない設定を加えたことで、映画ならではの深みが加わりました。

それぞれの正義、基本的には泉と富樫の正義ですが、ただ“怖い”、“裏があった”というだけではなく、その人物にもこんな過去があったからこうなったみたいなことを感じられた方がいい。誰が正しいというわけではなく、それぞれの人物に正義と信じることがあった方が僕自身、映画として見たいと思えるのです。

ストーカー殺人の犯人も脚本の我人祥太さんがある設定を提案してくれて、面白いかもしれないと思って足しています。

画像2: 人物の感情に合わせてカメラを動かす


──主演の杉咲花さんとは初めてですが、いかがでしたか。

主演としてご一緒したいと思っていました。ご自身のところだけでなく、作品全体を見てくれていて、座長として信頼できる方でした。例えば親友のお葬式のシーン。お母さん役の藤田朋子さんが泣くのですが、助監督を通して、エキストラの方々に「お芝居をしている人、特に藤田さんを意識して見ることがないようにしてほしい」と声掛けをしていました。藤田さんはそんなことを気にしないくらいトップギアで泣いてくれていましたが、僕もはっとさせられました。すごく現場の空気を大切にする方でもありました。

最後に富樫と対峙するシーンは台本で20ページ以上に及びますが、ロケ地の関係で、インターバルをはさんで、前半後半に分けて撮らないといけなくなりました。他も探したのですが、場所として、あそこ以上にいいところがない。「分けて撮らせてほしい」とお話したところ、杉咲さんから「このシーンはすごく大事なので、全部一気に撮らせてほしい」と言われました。安田さんからも「空気感が知りたいので、引き画のテストでいいから、1回、ちょっとやってみませんか」と言われて、1回休まずに流れでやってみたのです。やってよかった。インターバルを早めに入れて、後半の撮影時間を長くする形で撮ったところ、いいシーンになりました。

ほかにもいろいろ提案してくれました。泉の見せ方としては大きなリアクションは取らず、沸々と感情が昂っていき、最後に感情が爆発するようにしたいとおっしゃっていました。また、親友が亡くなっているので、ので、泉は笑えないのではないかと言っていました。実際、最後と回想シーンしか笑っていません。演じるご本人は大変だったと思います。

<PROFILE>
監督:原廣利
2011年BABEL LABEL加入。 ドラマ『日本ボロ宿紀行』(19/TX)では監督に加え撮影監督を務める。以降、『八月は夜のバッティングセンターで。』(21/TX)、『真夜中にハロー!』(22/TX)『ウツボラ』(23/WOWOW)などを演出。『帰ってきた あぶない刑事』(2024年5月24日)が公開中。

画像3: 人物の感情に合わせてカメラを動かす

『朽ちないサクラ』2024年6月21日(金)公開

画像: 映画「朽ちないサクラ」本予告【6月21日(金)公開】 youtu.be

映画「朽ちないサクラ」本予告【6月21日(金)公開】

youtu.be

<STORY>
愛知県平井市在住の女子大生が、度重なるストーカー被害の末に、神社の長男に殺害された。地元新聞の独占スクープ記事により、警察が女子大生からの被害届の受理を先延ばしにし、その間に慰安旅行に行っていたことが明らかになる。県警広報広聴課の森口泉は、親友の新聞記者・津村千佳が約束を破って記事にしたと疑い、身の潔白を証明しようとした千佳は、1週間後に変死体で発見される。自分が疑わなければ、千佳は殺されずに済んだのに…。自責と後悔の念に突き動かされた泉は、自らの手で千佳を殺した犯人を捕まえることを誓う。

<STAFF&CAST>
原作:柚月裕子「朽ちないサクラ」(徳間文庫)
監督: 原廣利
脚本: 我人祥太、山田能龍 
出演: 杉咲花、萩原利久、森田想、坂東巳之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子、豊原功補、安田顕 
配給:カルチュア・パブリッシャーズ 
© 2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

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