カバー画像:Photo by Derek Reed/Contour by Getty Images
リリー・グラッドストーン プロフィール
1986年8月2日、アメリカ・モンタナ州生まれ。ブラックフット族居住地で育ち、後にワシントン州へ移住。大学では演技・監督の博士号を取得、ネイティブアメリカンについても研究。映画デビューは2012年。
ケリー・ライカート監督作『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016)で注目を浴びた。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)の演技が高く評価され、先住民族をルーツに持つ女性として初のゴールデングローブ主演女優賞を受賞し、オスカーにもノミネートされた。
今後の出演作に、「ブリジャートン家」にも参加したアンドリュー・アン監督作『The Wedding Banquet(原題)』など。
“ようやく今、ネイティブアメリカンにとっての真実や私たちにとってリアルな物語を芸術として描く時代が来たと実感します”
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ではレオナルド・ディカプリオ演じる主人公の妻を任され、アカデミー賞主演女優賞ノミネートなど数々の栄誉に輝いたリリー・グラッドストーン。ネイティブアメリカンの血を受け継いで独自の個性を発揮してきた彼女は、多様性を求めるハリウッドで、さらなる躍進が期待されている。
そんなグラッドストーンの最新主演作がApple Origina lFilms『ファンシー・ダンス』。複雑な事情を抱え、逃避行を決意する叔母と姪の物語に、ネイティブアメリカンとしてのリアルな日常が絡んでいく。
俳優と役柄の一体感が奇跡的ともいえる本作、そして演技の仕事についてグラッドストーンに聞く“ようやく今、ネイティブアメリカンにとっての真実や私たちにとってリアルな物語を芸術として描く時代が来たと実感します”と、その答えは丁寧かつ誠実で、彼女の人柄が伝わってくるインタビューとなった。
──あなたは主人公ジャックスの役にすんなりと入り込んだ印象です。ご自身でもそう感じていますか?
正直言うと、ジャックスの行動や決意に、私自身が共感できるか不安でした。ただ監督のエリカ(・トレンブレイ)は私を念頭に脚本を書いてくれたんです。もともとエリカと私は『いつか一緒に仕事をしたい』と話しており、初の長編作で私を主役にイメージしたのでしょう。
彼女の最初のドラフトを読んだ時、信じられないくらい心を鷲掴みにされ、頭の中に映像が浮かんだほどでした。1時間20分ほどかけて読んだのに、体感的には15分くらい。あっという間でした。あまりに夢中になったせいか、自分で演じ切れるのか逆に不安になったのかもしれません。
──ジャックスを演じる準備をしながら、その不安が消えた瞬間もあったのではないですか。
撮影の準備が本格的に始まり、とりあえず衣装を着てみました。鏡を見ると、私の従兄弟が写っているように感じたのです。ウィルとチェットという男性の従兄弟です。ウィルは優秀で、私たちのコミュニティでリーダーを目指せるような能力を持っています。そしてチェットは、幼い頃から同じ土地で一緒に育ち、髪型もジャックスに似ています。こうした従兄弟たちの要素が、ジャックス役へのアプローチに役立つと、少しだけ自信が芽生えていきました。
──タイトルの「ファンシー・ダンス」とは、ネイティブアメリカンのお祭りなどで踊られるダンスです。あなたも踊るシーンがありますね。
この映画にはファンシー・ダンスの名手であるホリー・スー・グレイがキャストで参加し、彼女は振付も担当していました。伝統的なファンシー・ダンスは、女性の動きはおとなしめで、きちんと揃ったものですが、そこから発展し、スカーフを手に持ち、バレエのような軽やかなステップも取り入れられました。ジャックスの姪のロキは、そうしたダンスも踊ります。
一方でジャックスは伝統的な動きで、そこには彼女が一家を支える“男性的”な役割が込められているのでしょう。派手なステップは踏まず、どっしりと構える彼女の生き方が表れていると思います。
──『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のマーティン・スコセッシと、今回のエリカ・トレンブレイ監督は、演出面でどのような違いがありましたか?
まったく別のタイプのようですが、似ている面もたくさんあった気がします。マーティンは、ある意味、百科事典のような存在ですよね? 膨大な知識を持ちながら、俳優に演技を任せます。彼はつねに映画全体の流れや構成を意識しており、いま撮っているシーンがどんな意味を持つのかを説明し、あとは自由に演じさせてくれました。
エリカは、すべてのテイクに関して、自分が何を望むのか、具体的で洗練されたアイデアを持っている監督。自分で脚本も書いているので。そのシーンの意味を深く理解しているからだと思います。
そしてマーティンもエリカも、どんな結末を迎えさせるか、つまり登場人物の最後の瞬間をどう見せるのかに、非常にこだわる人でした。そこに行き着くまでの、他のシーンのバランスを考え抜くことで作品のビジョンができあがるのです。
──『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』や『ファンシー・ダンス』でのあなたの活躍は、映画でのネイティブアメリカンの描き方に良い影響を与えているのでは?
そうですね。私たちが映画に登場する場合、これまではステレオタイプの役割が多かった気がします。“血に飢えた”野蛮の人々、あるいは“高貴な”野蛮の人々のどちらか。そのイメージを『キラーズ』で私が演じたモリーが、少し払拭したと思います。人間的な要素や、オーセージ族の物語に共感した人も多いでしょう。
その『キラーズ』の後に『ファンシー・ダンス』のような映画を観れば、さらに別次元で満足感を得られると思うのです。ジョン・ウェインの西部劇などこれまでの映画では、当事者以外による表現が間違っていると指摘されるケースも目立ちましたが、ようやく今、ネイティブアメリカンにとっての真実や、私たちにとってリアルな物語を芸術として描く時代が来たと実感します。
──そもそもあなたが俳優を目指した理由は何だったのですか?
多くの俳優は子供時代に観た映画を挙げるでしょう。私は5歳の頃に『スター・ウォーズ』シリーズに出会って、イウォークになりたいと強く思いました。自分たちの森を守る彼らに、多くのネイティブアメリカンの子供は惹かれたのです。『この物語の中に入りたい』と言う私に、両親は『あれは俳優という職業だ』と教えてくれました。
そして7歳か8歳の頃、学校で演劇を始めたところ、父親から『いつか映画スターになって、アカデミー賞を獲るよ』などと励まされ、それを真に受けたことで今の私があるんですよ(笑)。
Apple Original Films 『ファンシー・ダンス』
オクラホマ州ネイティブアメリカンの居留地で、妹が失踪し、その娘ロキの面倒をみるジャックス。実の母娘のような関係を育む2人だが、親権問題が生じ、ジャックスはロキを連れて妹を探す旅に出る。しかしこの行動が誘拐事件と勘違いされ、2人は警察に追われることに。居留地の美しい自然と人々のつながりに、ネイティブアメリカンの現実を絡めたヒューマンな感動作。
リリー・グラッドストーンが演じるジャックスは、一度決めたことに頑なにこだわる芯の強い性格で、姪との関係で新たな自分も発見する。
Apple Original Films 『ファンシー・ダンス』
2024年6月28日(金)Apple TV+にて配信開始
監督: エリカ・トレンブレイ
出演: リリー・グラッドストーン、イザベル・ディロン・オルセン